超ISO企業研究会

これまでの活動

Home *TQM9000発展への解説ポイント
  28.統計的手法活用のポイント
発展表  統計的手法へ


統計的手法は、プロセスが持つ多くの情報の中から問題点を顕在化させ、真の原因を突きとめるという問題解決活動から、より高い目標の達成・新しい技術の開発を目指す課題達成活動など幅広い分野で活用できる極めて有効な手法であり、積極的に活用することが望まれます。

規格では、統計的手法に対して簡単にしか要求していません。8.1項(測定分析及び改善の一般)に「…統計的手法を含め、適切な方法…を含める」とあるだけです、しかし8.4(データの分析)や8.5(継続的改善)などの要求事項を効果的に達成するには、統計的手法の活用が不可欠と言っても過言ではありません。

特計的手法は非常に幅が広くそれぞれに特徴があり、組織の持つ多様な問題や課題に対して、適切に選択して活用することが必要です。すなわち、組織はどのようなときにどのような統計的手法を活用するか、決めなければなりません。


(1) 目的の明確化と適切なデータの選定
QCの基本は「事実に基づいて管理する」ことです、事実をつかむには先ずデータが必要です、統計的手法はそのデータの中から意味のある情報を科学的に、効率良く引き出すための道具です。

まず、なぜそのデータをとるのか目的を明確にすることです。データを取る目的には解析用、管理用、検査用、実験用などがありそれぞれにあったデータの種類、サンプリングの方法があります。例えば、工程の管理用であれば工程の安定状態が把握できること、そのためには工程を代表する特性値を適切な間隔:例えば毎日、シフト交代毎、ロット切り替え毎など、目的に応じてサンプリングすることが必要です。


(2) サンプルと母集団(工程)
統計的手法はデータから明快な結論をだしてくれます、私達はその結論と固有技術を組合せて決断し、工程:母集団に対して行動します。したがってデータをとる場合、サンプルと母集団の関係を明確にすることが必要です。もとのデータがどのような母集団を代表しているのか、しっかり把握すること、新しいデータを取るときは、目的とする(行動の対象となる)母集団からサンプル取りすることが必要です。


(3) 統計的手法-1QC七つ道具
統計的手法の基本となる手法であり、多くの問題はQC七つ道具を活用することで解決の手がかりが得られると言われています。そのなかでも、計量値(長さ、重さ、強さなどの「測るデータ」)に対してはヒストグラムと管理図が重要です。

良く知られているように、ヒストグラムを活用すれば「分布のおおよその形、中心位置、ばらつきの大きさ、規格との関係」が、管理図では「時系列的な推移、工程の安定状態、異常の特徴」など、数字をみただけでは見逃される重要な情報を、目で見える形で明快に示されます。

ただここで、注意しなければならないのは、これら手法を正しく使うことです。いくつかの例をあげますと、

(例1) ヒストグラムでは、柱の幅、柱の数を適切に選ぶこと、特に柱の幅を測定単位(データの最小のきざみ)の整数倍にすることです。これを誤りますと、本来滑らかな分布をしているデータから「歯抜け型」などの異常なヒストグラムが得られ、誤った判断を下すことになりかねません。


付図28-1 ヒストグラムのつくり方の例


(例2) 管理図では、群の作り方が重要です。群のもつばらつきを小さくしすぎた場合、例えば同じサンプルで測定を繰り返したデータで群を構成した場合には、X-R管理図に異常が多発し、みかけ上工程が安定状態にないという判断をしてしまいます。

また管理図を有効に活用するには、単にデータをプロットするだけでなく、そのデータに影響しうる要因系の情報を管理図上に記入して、点の動きと対比することが大切です。


付図28-2 管理図の作り方の例




(4) 統計的手法―2:検定・推定、実験計画法、多変量解析
検定・推定及び実験計画法は少ないデータから効率的に情報を取り出す手法、多変量解析は工場の操業データやアンケートなど複雑な多数のデータから目的とする特性に関連する情報を取り出す手法です。それぞれに、特徴がありますが概略次の通りです。

1) 検定・推定
工程の母分散(ばらつき)や母平均がどのような値か、従来と変わっていないか、変わっているとすればどのくらい変わっているか、二つの工程の間に差はないかなどを、少ない数のデータで検討する手法です。必要なデータの数は数個から20個前後です。工程から得られたデータの解析、実験結果の解析いずれにも適用できます。

2) 実験計画法
品質に影響しうると考えられる要因が、ほんとうに効果があるのか、あるとすればどの程度か、2つの要因の間に交互作用がないかなどを、比較的少ない実験回数で結論を出す手法です。検討したい要因の数により、1元配置から直交表まで多様な方法があります。
実験計画法は、要因と水準を巧妙に組合せたもので、その名の通りある目的に対して計画的に実験を組んで効果的に解析する場合に使われる、極めて有効な手法です。

3) 多変量解析
工場でとれる操業データは、実験計画法で得られるデータのように、要因の組み合わせが制御されていませんが、その代わり多数のデータがあるのが普通です。多変量解析は、このようなときに有効な手法で、目的とする特性値やそれに影響する要因の性質により、重回帰分析などいくつかの手法があり、工場に限らず営業活動におけるアンケートの解析など多様な分野で活用されています。
なお、多変量解析の実際に計算は大変複雑で、コンピュータでおこないます。最近は日科技研のQCASなど、パソコンで十分対応できる便利な統計解析ソフトが市販されており、活用されるとよいでしょう。


(5) 固有技術と統計的手法
組織がその競争力を高めるには、その組織の持つべき固有技術のレベルが高いこと、その基盤として個々の従業員が担当する分野での固有技術を常に研鑚し、高めていくことが必要です。統計的手法は、固有技術を改善し改革していくときに、より早く再現性ある結論を得るための強力な武器であり、それだけ従業員の力量をより早く、より高くすることにつながります。 すなわち、統計的手法、あるいはQC的なアプローチ(QCストーリー)は品質管理の担当者だけでなく、組織の全従業員に共通する汎用技術なのです(外国商社に努める人の英語のようなものです)。 このため、組織としてCや統計的手法に関して、どのような教育が従業員に必要かを明確にし、入社後の早い段階から基本的な知識を教育していくことが必要です。また、統計的手法は、実際に適用すること、また学習したことを教えることで、より確実に身につきます。日本規格協会などの専門家による社外教育に加えて、社内講師による勉強会・教育を行ってください。教えることで、実は良く理解できていなかったことが分かり、それをきっかけとして、理解を深めていくことをしばしば体験するものです。


(6) その他
統計的手法は明快に結論を出してくれますが、先に述べましたように、データが適切でなければ、あるいは手法の使い方が適切でなければ誤った判断をしてしまいます。これに付いては多くのテキストが日科技連から発行されていますで、参照してください。

また基本的な習慣として、データがとれたら先ず生データをグラフにして特徴を良くみることによって、そのデータの素性はどうか、異常なものが紛れ込んでいないか、このまま統計的手法にかけて判断して良いか、などを考えることを是非心がけて頂きたいと思います。