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未だに頻発する品質不祥事を防止するために何が必要か? 第11回 『健全な組織体制・風土の特徴(6)自律(前)』   (2021-10-04)

2021.10.04

■自律

 

「求められる健全な組織体質・風土」として,第六に「自律」を挙げました.そして「自律」というラベルのもと,「定義」「企画」「価値観」「責任」「自治」「変化」を挙げました.

 

「定義」と「企画」で強調したいことはほぼ同じです.すなわち,他者・他社のマネをしたり,そのあとについていくのではなく,自らがかくあるべしと方向を示し,提案するという意味です.

 

ここでの「定義」とは,「○○はこうだ,○○はこうする,○○とはこういうことだ」と決めることで,とくに「要件定義」,すなわち考慮の対象がどのようなものであるかを規定すること,その仕様を定めることを意識しています.それは,顧客・社会・組織などの要求・ニーズを認識し,それがどんなものであるか定義・確定・指定(definition, determination, specification)することです.

 

「仕様」は「設計」に関連する用語です.設計とは「要求・ニーズを満たす手段・方法の指定」といえます.だから,設計の結果を仕様(スペック,specification=specify指定すること),設計行為を「仕様化」と言ったりします.設計は,目的達成行動において目的・目標が定められたあとの「計画」と本質的に同じ行為です.目的達成行動における行動原理とも言えるPDCAの最初のステップである「計画」には2つの行為が必要です.第一は目的・目標を定めることです.第二は目的・目標達成のための手段・方法を決めることです.仕様は,計画における第二の行為に相当する諸活動の結果ということになります.

 

ここでの「企画」とは,概念定義,製品・サービス企画という意味です.要求・ニーズの信憑性・妥当性を判断し,これと思う要求・ニーズを満たす概念を定義し,その概念を具現化する製品・サービスを企画する,という一連の行為を考えていることになります.

 

「企画」という用語に込めたニュアンスを伝えるのは難しいのですが,英語では,plan, project, programといったところでしょうか.概念の定義,提示・提案,そして実現構想を含めたような意味で,現代の成熟経済社会を生き抜かねばならない組織には極めて重要なことです.事業や,その源泉となる製品・サービスについての,ありたい姿とその実現構想です.

 

ここで「価値観」というのは,何に価値を認めるか,善悪や好ましさなどの価値を判断するときの基本となる考え方や物事の見方,評価にあたっての根本的態度・見方というような意味です.「価値基準」と言い換えていただいて結構です.価値観が同じだからといって判断や評価の結果が同じになるとは限りませんが,評価・判断において重視する考え方や基準が基本的に同じということです.

 

例えば,「環境」に関わる価値観はこの50年でずいぶん変化しました.日本では,公害問題を契機に1970年代に広い関心を呼びました.しかし,多くの企業は「儲からない」という理由で積極的に取り組む熱意を失ってしまい,数年で下火になりました.ところがそれから20年ほど後には「環境」が企業の競争優位の一角を占めるようになります.シックハウスが問題になったり,空気清浄機が売れたり,環境負荷,エネルギー消費,廃棄を考慮した製品設計など,環境・地球資源への配慮が商品競争力,企業のブランドイメージにつながるようになりました.

 

そして現代の経済社会は以前とは全く異なる価値観を重視する社会となりました.事業において,対顧客関係だけではなく,社会・地球,従業員,投資家,供給者・パートナーなどとの関係も重要視し,CSR(Corporate Social Responsibility;企業の社会的責任),さらにはCSV(Corporate Social Value;企業の社会的価値)というようなことまでいわれ,組織が何を重要と考えるかについて,社会ニーズを先取りした独自の価値基準が問われています.

 

他の例として「ダイバーシティ」に関わる価値観も変えざるを得ません.高収益をあげるには,その事業環境においての狭い意味でのベストメンバをそろえるのが一番です.しかし,長期的視野で社会的存在としての組織を考えると,ダイバーシティに考慮しない組織は社会から疎まれかねず,事業での成功は望めそうにありません.

 

最近,日本は女性の社会進出が非常に遅れているという記事を見ました.役員に驚くほど女性が少ないというのです.管理職もそうです.適材適所の結果だとか,女性が挑戦しないなど,いろいろ言い訳があるようです.目の前の候補者のなかから選択するという意味での「適材」そのものは正しいでしょう.しかし,適材に育っていく社会構造になっていなかったり,業務環境・勤務条件などの労働環境が整っていない状況のままで,総合的に判断して本当に適材を選ぶ仕組みになっているかどうかに大きな課題が残されています.企業によっては,何年か後の女性比率を目標レベルにするために,採用時の女性比率を50%以上にしなければならないとして,いわば強引に進めている企業もあります.管理者予備軍の数のバランスを考えておかないと女性管理者が増えるわけはない,というのです.こうしたことに関して,組織としてどのような価値観を持つかが問われています.

 

「責任」には,自己の責任を取る,何かコトを起こすときリスクを取る,挑戦するというような意味を込めています.自律的であると,独自の妥当な価値基準を持ち,提案する勇気,先頭に立つ勇気を持ってコトにあたることになりますから,当然のことながら責任を伴いますし,リスクをとらざるを得ません.挑戦する心が必要ですし,これは積極性にもつながります.

 
飯塚悦功

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