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未だに頻発する品質不祥事を防止するために何が必要か? 第8回 『健全な組織体制・風土の特徴(4)賢さ(後)』   (2021-09-13)

2021.09.13

■賢さ:目的
 
「目的」とは,目的志向の思考・行動様式,すなわち,何らかの行動をするときに,まず目的を考え,その目的達成を重要と考え,また目的達成の手段を考察したうえで行動するという意味です.
 
私はもうオーバー・セブンティで,これまでに多くの方にお会いしてきましたが,目的志向の方が驚くほど少ないことに愕然としてきました.「何のため」を考えずに行動して怖くないのだろうか,不安ではないのだろうかと不思議に思ったことが多々あります.「○○をして下さい」というと,せっせとそのことをしますが,「何のため?」とか「どのような結果になったら嬉しいのか」と聞くと,まともな会話にならないことがよくありました.何かしてほしいと言われたら,何のためだろう,何を実現したいのだろうかを確認し,一応の成果が得られたら,好ましい結果になったかどうかを確認するクセをつけたいものです.
 
「管理」とは,目的を効率的に達成するためのすべての活動です.そうであるなら,何をするにも管理の原則に立ち戻って自身の行動を計画し顧みるような組織運営原則を確立したいものです.目的を決める,目標レベルを決める,目的達成手段を考える,活動を評価し,目的を達成したかどうか,副作用はないかを自然に考えるようにしたいものです.
 
こうした行動原理を組織的に浸透させるために,TQMの基本的考え方の一つである「後工程はお客様」の思想を広めたいものだと思います.私がこの格言に初めて触れたのは40年以上前です.品質管理の基本的な考え方のうち「品質」概念について学ぶ過程で知りました.私は,このとき,ある組織が,組織全体で組織目的を効果的効率的に達成しようとするとき,組織を構成する個人,部門,グループが,全体目的を達成するために,自律分散的に思考し行動できるようになる基本原理になりうる点に感動を覚えました.こんな子供だましの格言に,それを読み聞く人の理解力によっては,これだけの意味を含ませることができるのか,と感動しました.
 
話はこうでした.顧客(使用者)に対する品質を経済的,効率的に達成するためにどうすればよいか.最終工程で確認するというのは効率的でない.組織の全員が品質にかかわるのだから全員が頑張ったらよい.だが「全員でやる」というのは,通常は「誰もやらない」と同義語である.それなら,各工程(プロセス)が次の工程に自分の工程の「製品・サービス」の品質を保証するということを繰り返せばよい.これが「後工程はお客様」の考え方の基本だと言うのです.
 
これだけならどうということはありません.でもここに,組織を効果的・効率的に運用するための深遠なる示唆が含まれているというのです.「品質とは顧客満足度」というが,満足を与えるべきは最終の顧客ばかりではない,それにつながる途中にある自分の仕事の結果の影響を受ける人々をも顧客と考えて自分の仕事の品質を保証するのがよい,と教えているというのです.
 
私は,品質概念のうち最も重要なものは,顧客志向,すなわち自分ではなく顧客の価値基準で自分の成果物を評価するという考え方だと思っています.この考え方は目的志向にほかなりません.目的志向の思考・行動様式を組織全体に広める格言,これが「後工程はお客様」なのです.
 
■賢さ:反省
 
「反省」とは,経験を振り返り,将来に活かすことを意味しています.PDCAサイクルのC(Check確認)とA(Act処置)をまともに行うことに賢さが現れる,いや賢ければまともなCとAのあるPDCAサイクルになる,ということです.
 
何らかの活動をすると,何かコトが起きます.これが期待通りのことならばさほど気に留めずに次々と活動を続けることでしょう.望ましくないとか,想定を超えることが起きたときにどのような対応行動をとるかが問題です.
 
望ましくないなら修復をするとか,影響緩和策を講じるでしょう.でもここで,将来似たような活動をしたときに,似たようなことが起きたらどうするかを考えるのが「賢さ」というものです.
 
このような状況ではこのようなことが起きうる,という知見は有用です.それだけでは物足りませんので,そのようことが起きたときにうまくやりくりする方法を考察しておくべきでしょう.問題が起きても最悪の事態にならないようにするためにどうするか,考えておくということです.流出防止と言ってもよいし,堰き止める,封じ込めると言ってもよいかもしれません.
 
いや,もっと考えて,そのような状況でも問題が起きないようにするために活動方法,プロセスを変えることを考えてもよいでしょう.再発防止とか是正処置といわれるもので,原因系に手を打つことです.この原因系を広く考えることによって,似たような因果メカニズムでコトが起きる可能性がある他の業務,活動,プロセスに手を打ってしまえば,まだ失敗の経験もないのに,失敗の起きにくいプロセスを確立することができます.未然防止とか予防処置といわれるものです.
 
このような賢さが優れた「学習能力」というものです.結局,この賢さの根元はコトが起きる本質的因果メカニズムの理解能力ということになります.このような状況では,こんな因果メカニズムでこんなことが起きる可能性がある.どう早期発見し,どう取り繕って悪影響を最小化するか.そもそも問題が起きないようにするためにプロセス,システムをどう変えるか.本質的に同様の因果メカニズムでことが起きる可能性を未然につぶしてしまうにはどうすればよいか.こんなことを考える組織でありたいと思います.
 
私たちは,失敗の経験をしたときに,このようなことを考えますが,もっと賢くなれば,失敗などしなくても,揺らぎのなかで,何とかやりくりしてうまくことを収めた経験を分析することによって,自らを高めることが可能になります.このような考え方が「レジリエンス・エンジニアリング」といわれるものです.「経験に学ぶ」機会はいくらでもあります.何とかやりくりして成功できたその本質,例えば,適時適切な状況判断(何が起きているか,何が起こりそうかの判断),適時適切な対応(このままだとどうなりそうか,どうなったらまずいか,どうなれば好都合かを考慮した対応)などを組織知にしたいものです.
 
飯塚悦功

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