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未だに頻発する品質不祥事を防止するために何が必要か? 第6回 『健全な組織体制・風土の特徴(3)共有』   (2021-08-30)

2021.08.30

■共有

 

「求められる健全な組織体質・風土」として,第三に「共有」を挙げました.そして「共有」というラベルのもと,「情報」「思想」「分担」を挙げました.

 

ここでの「情報」とは,情報共有,良好なコミュニケーションのことを言っています.もちろん,先週取り上げた「オープン」と関係がありますが,オープンであることそのものよりも,その結果として組織内で情報が共有されている状況に焦点を当てています.そして,情報そのものばかりでなく,その意味や,背景・理由などの関連情報,さらにその情報に関わる事象がもたらす影響などについての認識が共有されているかどうかに関心があります.

 

情報共有が可能であるためには,様々な情報が,組織構造の縦・横・斜め,公式・非公式に伝わり,その内容がほぼ正しく理解されるようなコミュニケーション・インフラが整っている必要があります.様々なチャンネルを通して,どこで何が起きているか,多くの者が知ることができるような組織運営を心掛けることが大切となります.

 

このような組織で不祥事が起きにくいことは明らかです.それこそ組織ぐるみで不正を行なうのでない限り,多くの者が正しくないことが起きていることを知り,正義感の強い誰かが声を上げるに違いないからです.いま取り上げている「組織体質・風土」という話題のつかみとして,不祥事を起こす組織に共通の特徴をいくつか挙げましたが,その一つが「劣悪な内部コミュニケーション」でした.誰が何をしているか,多くの人が知っていて,不祥事が起きにくいという状態の対極です.

 

情報共有は,当事者意識の醸成に貢献します.組織を取り巻く様々な状況についての「情報」が共有できていると,どのような課題があるかについて認識を共有できます.そして,それらの課題への対応において,それはもしかしたら自分の仕事,私が対応するのがよいかもしれないと受けとめることができるようになります.情報が共有されることによって,組織全体のなかにおける自身の立場,立ち位置を明確にできるというわけです.

 

組織全体の課題を共有し,自部門,自己が取り組むべき課題を認識し,これに全組織を挙げて取り組む経営手法として,方針管理,目標管理があります.こうした経営手法の意義はいろいろ論じられていますが,その一つは,経営トップから第一線の担当者までの「階層」を超えた,さらには「部門」を超えた関連情報の共有にあります.「全組織一丸」の基盤は情報共有から,というわけです.

 

製品・サービスを生み出すための経営機能,例えばマーケティング,製品・サービス企画,設計・開発,製造・サービス提供,販売・サービスなどのバリューチェーンを貫くような情報共有の仕掛けとして,日本的なDR(Design Review,デザインレビュー,設計審査)を挙げることができるでしょう.DRは1970年ごろアメリカから学んだ手法です.元々は設計の最終段階に,現実にものを作る前に,全部門の周知を結集して机上で行う設計内容の審査でした.それが日本に輸入されて,審査・承認の関門というよりは,第一に社内各部門の知識の活用,第二に設計の各プロセスを完全に実施するためのマイルストン,そして第三に開発の早い時期からの部門間の意思統一のための手法にと変わっていきました.

 

とくに第三のねらいに大きな意味がありました.日本のDRの出席者は必ずしも評価に長けた人ばかりでなく,開発の初期段階から開発中の製品に関して同じ観点を持つべき人々も出席しています.これによって,発見された問題への対応策を組織的に検討できるというだけでなく,開発の進行に伴って生じることが予測される問題に対して,関連部門がある種の覚悟を決め,のちに起こるかもしれない問題に事前に備えるという形の源流管理にもなっています.近い将来自部門の仕事に影響を与える可能性のある問題を指摘し,時には激しい非難と強い要望を述べるものの,一方で他部門の痛みを理解し,開発の方針や開発中の製品のコンセプトに関して共通の価値観と観点を持てるようになり,無用な争いが減るという効果を生んでいるのです.開発の進行状況の進み遅れを知り,他部門で起きた問題を知ることによって,あとで生じるかもしれない問題に対する対応策を秘かに予め用意するという,何とも日本的な協力体制も作りだしてもいたのです.

 

「共有」というラベルのもと「思想」ということも挙げました.これは「価値観の共有」のことを言っています.情報共有は,価値観の共有を促します.もちろん,知ったからといっていつも賛同するわけではないし,重要度について同じ考えを持つことになるわけではありませんが,少なくとも「知らない」よりは好ましい状況を作りだします.現に,組織の意思決定における反対理由のかなり上位は「聞いていない」です.

 

ここで「価値観」というのは,何に価値を認めるか,善悪や好ましさなどの価値を判断するときの基本となる考え方や物事の見方,評価にあたっての根本的態度・見方というような意味です.「価値基準」と言い換えていただいて結構です.価値観が同じだからといって判断や評価の結果が同じになるとは限りませんが,評価・判断において重視する基準は基本的に同じということです.

 

「信頼の条件」として,高い専門性,魂胆なきこと,似た価値観を挙げたことがありますが,価値観の共有によって,互いに信頼感を抱く関係の構築に役立ちます.

 

情報共有について触れたことは,すべて価値観共有にも関連していて,それこそが組織の一体感を醸成し,積極的な活気ある組織運営をもたらします.

 

「共有」というラベルのもと「分担」ということも挙げました.「共有」と「分担」は相反するように思えますが,情報や価値観の共有により,組織的な活動に必須の役割・分担の明確化,担当業務・活動に関わる責任・権限・説明責任の認識と責務完遂が可能になります.逆説的ともいえますが,情報・価値観の共有ができていなければ,健全な分担はできない,ということです.

 

共有しているからこそ,全体のなかでの自身の立ち位置を認識でき,何をどう分担し,また協力して実施すればよいか分かるのです.生物体の挙動,機能発揮メカニズムの研究から,ひところ「ホロニック組織(holonic organization)」,「自律分散組織」という概念が話題になったことがあります.これは,組織の全体を構成する部分・要素が,それぞれ自律的に機能していて,かつ全体として調和がとれ,組織が全体として果たすべき機能が効率的・効果的に達成できるようになっている組織運営を指しています.

 

私は「自律」という用語が好きです.ところが,日本人にはそうでない人が多く,しばしば「他律的文明の国ニッポン」などと揶揄されます.他人の基準で自分を測り,己が劣っていることに泣き崩れ,憤然と努力する,という感じです.わが美しい大和なでしこを褒めるのに「日本人離れた美人」などという屈辱的な表現をするのはいかがなものかと思います.

 

それぞれが当事者意識を持ち,いちいち事細かく指示をしなくても,自身の役割を理解し,一体感を保って有機的に機能していく組織でありたいものですが,その基盤が「共有」にあるという次第です.

 
飯塚悦功

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