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本日から、品質部門配属になりました 第48回 『品質改善活動の全社的推進』(その3)   (2021-04-26)

2021.04.26

1.改善のための風土

職場で改善活動を進めるためには,前回説明した教育だけでは不十分です.改善に関わる人がやる気を持っていたとしても,職場やプロセスが改善を受け入れる雰囲気になければ,改善活動を進めることに躊躇いを感じるでしょう.

改善活動は,今までのやり方を見直し,あるべき姿からの差である問題,課題を明確にし,それと現状との差を埋める活動です.すなわち,今までのやり方を良い方向に変えることです.現状のままでいい,やり方を変えるのは面倒というような雰囲気があると,たとえチームメンバーたちにやる気があったとしても,改善活動はうまく進みません.そのためには,次の点に関する社内での涵養が欠かせません.

 (a) 改善活動は業務の一部であり推奨される活動である.

 (b) プロセスに決められている標準は遵守する

 (c) 自分がよいと思うものを思いつくままに変えるのではなく,決められた手続きにしたがって改善を進める企業は,この (a), (b), (c)の涵養を目指し,様々な取り組みをしています.まず(a)について,

 ・トップが改善の重要性を示す

 ・改善が業務の一部であることを様々な形でしめす

 ・改善は全従業員がそれぞれの立場で実施することを様々な形でしめす

 ・動機付けのために報奨制度などを整備する

 ・企業外部での発表会などへの派遣する

など様々な取り組みを行います.これらにより,従業員が改善に対して積極的に取り組むようにします.また(b)について,

 ・標準の遵守の重要性を様々な形で示す

 ・標準の順守度合いをチェックする

 ・活用すべき標準,廃棄すべき標準などを見極め守るべき標準をはっきりさせる

などの取り組みが必要です.さらに(c)について,

 ・改善を支援する仕組みを整備する

 ・改善の進め方の標準を用意する

 ・改善活動の節目で進捗を把握する

などが必要です.これについては,次に詳細を説明します.

 

2.改善の支援の仕組み

改善活動の標準的な進め方に従い,改善活動を必要に応じて支援する仕組みを構築します.企業によって表現方法は異なりますが,多くの企業における改善の進め方には,次の(i)から(vi)が含まれます.そこで,これらを進捗の節目とし,下記のような支援ができる仕組みを構築します.また,それぞれの段階において,計画との遅れがないかどうかを適宜確認します.遅れている場合には,その原因を考察し,適切な支援策を施します.

 

(i) テーマの設定とチーム構成:方針管理における重点課題に紐づくような大きな改善テーマの場合には,部門横断型でチームを構成します.一方,日常業務での慢性不良など,日々の業務に密着しているものは,その業務にかかわる人を中心にチームを構成します.日常業務で生じている慢性的な問題を明確化し,難易度などから優先順位をつけます.

(ii) 現状把握:あるべき姿と現状の乖離を明確にします.重点課題に紐づくような大きな課題の場合には,あるべき姿を描くところが難しくなり,また,その成否が改善の成否につながるので,この段階での社内での評価がよいでしょう.

(iii) 要因分析:重点課題に紐づくようなテーマは,あるべき姿や問題の定義が難しく,その要因の列挙もそれに伴い困難さがあります.部門横断型チームの特質を生かし,要因を思い込みで列挙しないような支援が必要になります.一方,日常的な問題の場合には,必要に応じてデータに基づく論理的な判断ができるように支援します.

(iv) 対策立案:対策の立案,導入は,費用対効果との関係で決める場合が多いです.これらを含め適切に支援できるようにしておきます.

(v) 効果の確認:重点課題に紐づくようなテーマは,効果が数年かかって出るようなものも多数あります.そのため,中間的な指標に基づき効果が確認できるようにしておくとよいでしょう.

(vi) 標準化:有効な対策を標準として組み込み再発を防止します.これに伴い,日常業務では標準が過度に増える可能性もあるので,既存の標準を適宜改訂する仕組みを用意するとよいでしょう.

 

なお,日本品質管理学会が発行している学会規格である「JSQC-Std 31-001 小集団改善活動の指針」では,前回,今回説明した内容をより詳細に説明しています.是非,参照してください.

 

3.標準と改善に関する風土

標準と改善は,ある側面からすると相入れないようにも見えます.改善活動の結果,効果があるものはプロセスの標準として組み込みます.標準を遵守して業務を行いながら,自らが標準を変えるための活動をしているとも捉えられるからです.通常はプロセスの標準を遵守した活動を,そして,改善活動の際はそれを変更するための活動を目指すというのは,頭の切り替えが必要になり,それ相応の能力,柔軟性が必要になります.

標準と改善について,日本の典型的なTQMでは前述の教育,仕組みの徹底によりそれらの両立を目指してきました.これに対して,アメリカの典型的なシックスシグマでは,標準に従って業務をする人と,改善をする人を完全に分離しています.改善のみを担当する部門を作成し,グリーンベルト,ブラックベルト,マスターブラックベルトなどの職位を用意し,これらの人が日常業務を行っている部門に出向き,部門の人々の助けを借りながら改善を進めます.このように,改善活動をする人と標準に従って業務をする人を分離するのは,アメリカの標準の遵守の徹底という文化,価値観によります.アメリカでは,標準の遵守の徹底により,多くの人々を受け入れ多様性を確保しています.

このように標準の遵守の徹底が根付いているところでは,ボトムアップの改善提案や日常組織に基づく改善は望みにくいので,独立な改善専門の部門を用意しています.これに対して日本の場合には,教育により改善も業務のうちという文化が浸透しているところが多く,通常の組織をベースに改善を進めます.

改善の全社的推進の上で,日本の典型的なTQMとアメリカの典型的なシックスシグマのどちらがよいかは言えません.標準遵守の徹底に基づく多様性確保が浸透している文化,価値観があるアメリカでは,改善部門を別に用意した方がよいでしょう.一方,教育や仕組みの構築の徹底により改善に対する理解がある場合には,日常組織を基本にした方が,業務との密着度の上で良い成果が期待できます.以上,2つの典型的な推進を説明しましたが,その中間的なものも,もちろんあります.組織の文化,価値観をもとに適切なものを考える必要があります.

 

今回は改善のための風土の醸成と,文化,価値観に基づく改善の組織体系について説明しました.次回は,本メルマガの大テーマである品質部門の役割という視点から,改善の全社的推進を説明します.

 
(山田 秀)

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