本日から、品質部門配属になりました 第47回 『品質改善活動の全社的推進』(その2) (2021-04-19)
2021.04.19
1.改善活動の進め方,教育
改善のテーマとチームが決まり,改善活動を進めます.どのように進めたらよいでしょうか?改善活動には,進め方の定石,ポイントや,そのために有効なツールが多数あります.また,改善を全社的に推進するには,そのために教育が必要になります.今回は,これらについて詳細に説明していきます.
2.改善の進め方,データの活用
改善を進めるために,いくつかの有効な考え方,定石があります.以下それらを紹介しましょう.
(1) 改善の進め方
改善の目的設定とチーム構成の後,何を行えばよいでしょうか?改善の目的設定により,提供している製品,サービスの質,あるいはプロセスなどのあるべき姿が明確になっています.その実現のために,有効と思われる対策,施策,改善案などをチームメンバーによるブレーンストーミングで列挙し,有効と思われるものを導入するのも一案です.それでよい効果が得られるのならよいのですが,大規模プロジェクト,慢性不良問題などは,効果が期待できません.このようなテーマの場合には,有効と思われる対策,施策,改善案などは既に導入されているので,ブレーンストーミングを重ねたとしても,今までに導入していない対策が導けるとは限りません.したがって,手間がかかるかもしれませんが論理的に改善を進める必要があります.そのために問題解決のステップとして,QCストーリが知られています.改善の目的設定とチーム構成ののちの進め方について,書籍によって多少異なりますが,必ず次の5点が含まれます.
i)現状把握:問題,すなわち,あるべき姿と現状の乖離を明確にする
ii)要因分析:その乖離を生じさせる要因を列挙する
iii)対策立案:要因に対して対策を立案する
iv)効果の確認:対策を導入し効果を確認する
v)標準化:有効な対策を標準として組み込み再発を防止する
このような論理的手続きを踏むのは,プロジェクトの成功確率を高めるのに効果があり,思い込みによる活動,声の大きな人が支持する対策の導入を防止するのに役立ちます.
(2)データの活用
先の述べた(1) i)の現状把握において,漠然と問題を捉えていたのではii)要因を広範囲に考えなければならないため,その分析が困難になります.一方,製品の寸法ばらつきが大きく,その大きさがほとんど一定であることがデータで絞り込めたとします.この場合には,標準通りに作業をしているもののその標準の設定に問題があるので,標準に規定されている要因の公差,標準に取り上げていない要因を中心に分析するのがよいでしょう.また(2) 要因分析において,ブレーンストーミングを続けたとしても,今までに導入していない全く新しいアイディアが出ることは期待できません.製造現場における慢性不良問題などはその典型です.今までに工程を安定化させるアイディアを出し,導入した後の慢性不良であり,これまでと同じようにブレーンストーミングを続けても改善につながる発想は期待できません.この場合には,新たな着眼点を得る必要があります.この時に,事実をデータで測定し詳細に分析すると,「あれ,こんなことになっているのか」という新たな着眼点が得られる場合が多々あります.単純な集計だけでなく,高度な手法を活用するとその効果が向上します.このように,事実をデータで収集し,それを分析すると,今まで着眼していなかったような新たな着眼点が得られ,改善を進めるのに有効です.
以上の(1)の論理的な改善の進め方,(2)のデータの活用は,改善の成功確率を高める効果があります.一方,データをまとめる手間がかかります.目的は改善の成功であり,(1), (2)はあくまで改善を成功させる手段です.
プロセスが未成熟な段階では,(1),(2)に従わずブレーンストーミングで効果があると思われる対策を列挙し,それを導入しても成果がえられることが多々あります.このようなアプローチを対策先行アプローチと呼ぶ場合もあります.一方,成熟したプロセスでは,対策専攻アプローチでうまくいくことは稀です.うまくいっていないのに対策専攻アプローチをとり続けるのはまずい進め方です.対策先行アプローチでうまくいかない場合には,(1), (2)を導入し,アプローチを変える必要があります.
3.改善のための教育
改善の活動の推進には,まず,製品,サービス提供にかかわる固有技術の教育が必須です.学校で学ぶのはその分野の入り口までであり,企業に所属してからそれぞれの知識を深めることになります.それに加え,改善のための教育が必要です.具体的には,
・改善の進め方,定石
・QC7つ道具などの基礎的手法
・QC工程表,プロセスフローチャートなどのプロセス標準化手法
・実験計画法,回帰分析などの統計的品質管理手法
・品質機能展開,FMEAなどの品質,信頼性手法
などの分野横断的に適用可能な方法です.改善の進め方,QC7つ道具などの基礎的手法,プロセス標準化手法は比較的わかりやすく汎用的です.多くの企業では,これらの教育を全従業員に対して行い改善の土壌を作ります.また,統計的品質管理手法,品質信頼性手法は,入門的なものから専門的なものまで幅広くあります.そこで,初級,中級,上級などの教育体系を整備し,順次教育を進めます.
これらの教育は,社内講師による社内セミナー,外部機関セミナーへの派遣など,様々です.グループ会社,教育体系を整備しているものもあります.このような改善のための汎用的技術は,固有技術と異なり,会社間での共有,進化が可能です.日本における品質管理の発展は,このような管理技術を多くの会社で共有し,進化させてきたということもできます.
今回は,改善のための考え方,ツールと教育について説明しました.次回は改善のための風土つくりについて説明します.
(山田 秀)