本日から、品質部門配属になりました 第46回 『品質改善活動の全社的推進』(その1) (2021-04-12)
2021.04.12
1.品質改善活動とは
品質改善とは,製品の品質を高めたり,プロセス,システムの質を向上させたりすることを意味します.例えば,顧客が使いやすい製品設計にする,生産効率が高い工程にする,顧客データのやり取りが容易になるようにするなど,多岐にわたります.製品やプロセスのちょっとした改善から,大規模な変更に基づく目を見張るような改善など,その成果も様々です.後者の大規模な変更に基づく目を見張るような改善を,改革として分けて呼ぶこともあります.しかし,本メルマガの文脈において改善と改革は,規模,成果,時間などの大小や水準の違いであり,ひとまとめにした方が理解しやすいので改善とひとまとめに呼びます.
2.品質改善はみんなで行う
誰が品質改善活動に参加するのでしょうか?それは全員です.この点は,品質保証体系でも説明しましたが,重要なことなので改めて説明します.営業部門は製品やサービスを販売するだけでなく,顧客の顕在,潜在的な要求を積極的に調べ,それを製品やサービスの企画に役立てる必要があります.また製品,サービスの企画部門は,この潜在的な要求を,技術的,経済的な側面を考慮しつつ結びつけ,企画案としてまとめます.次に設計部門は,企画案を製品やサービスの仕様に反映させます.その際,製造能力,サービスに関わる人々の力量などを考慮しなければいけません.これらの力量は,製造,サービス提供部門で把握し,その結果をもとに,人事部門との協力で採用,教育,訓練により適切なレベルにします.このように,全ての人が製品,サービス,プロセスにかかわっているので,製品,サービス,プロセス,システムの質の改善は全員で実施すべきことなのです.この全員での実施は,現在,優良な企業は例外なく実施しています.
しかしながら,1980年代でこれを実践できている企業が多かったのは日本であり,日本企業の競争力の源泉でした.この時点の欧米の典型的な考え方は,quality is the job for the quality departmentであり,少数の専門家で品質を確保すれば良いというものでした.これに対して,日本企業は顧客が高度に満足する製品,サービスを実現し,Japan as No. 1と言われる製品,サービスの質を実現しました.Total Quality Control,のちに,Total Quality ManagementにおけるTotalには全員で作り込むという意味があります.これに加え,潜在要求に応える,すなわち,qualityを様々な側面のtotalで考えるという点もあります.
全員で品質改善を実施する.これを言葉で表すと簡単ですが,その実装には時間がかかります.多くの欧米の企業が,1980年代における日本の品質での成功の秘訣を導入しようとしましたが,簡単にはいきませんでした.それぞれの風土,文化に馴染まないという理由からです.のちに改善風土の醸成の項で詳細に述べますとおり,米国のシックスシグマは,改善の組織的推進を米国の風土に合わせたともいえます.
それぞれの国,地域が,文化,風土に応じて品質改善を全員で進めることを実現できるようになると,品質改善の全社的の実践が企業の成功,存続の必要条件になりました.すなわち,かつてはその実践が企業の成功の特効薬であったのに対し,今ではその実践は繁栄のために必要な条件のひとつになっています.
3.品質改善活動の全社的推進のための要点
品質改善を全社的に推進するためには,何が必要になるでしょうか?まず,それぞれの改善活動では,
・改善テーマの選定と改善チームの構成
をします.そしてチームが改善活動を開始したら,その進捗の把握と適切な支援が必要になります.さらに,改善成果を仕組みとして定着化させるために改善成果の標準への反映をします.
これらの改善は,すぐに導入できるものではありません.改善活動を推進するための基礎として
・改善ための基本的考え方,定石
・改善のための教育
・支援体制の整備
・改善活動のための教育
・動機付け
・改善と標準化のための風土づくり
等があります.この3回のメルマガでは,これらについて紹介します.
4.改善テーマの選定とチームの構成
改善テーマはどのように決めたらよいでしょうか?また,品質改善はチームで行うものや,提案制度など一人で行うものもあります.このように,何を改善活動のねらいとするのかによって,テーマ選定のやり方,適切なチームの構成方法が異なるので,テーマの規模をいくつかに整理したうえで全社的な推進体制を整備します.
大きな改善効果を狙う場合には,多くの部門からメンバーを選び多くの視点を導入します.また不確定要素も大きいため,経営判断に直結できるようにします.一方,製造現場,サービス提供現場における基盤を固める改善プロジェクトの場合には,改善テーマは達成可能と思われる現実的なものを選び,また,チームは同一職場で働く方々で構成します.このような考え方に基づき,(1), (2), (3)のように改善を区分し,それらに応じた推進体制を用意します.これらは典型的なものであり,会社によっては,(1), (2)の中間を用意したり,一方,(2), (3)を統合したりするなど,会社の経営目的,規模などに応じて順次変えていきます.
(1) 部門を跨いで実施する大規模な改善
新規顧客獲得を目指した新製品の開発,他者が実現していないサービスの提供など,会社の将来にかかわるような大きな改善プロジェクトを考えます.これは,会社の経営理念,ビジョンをもとに導かれる戦略と密接に関連してきます.トップの方針を組織内に展開する際,解決すべき課題としてものをテーマとして選びます.このような大規模な改善には,関連する各部門からメンバーを選りすぐりチームを構成します.さらに,会社からの適切な支援を逐次受けながら進め,月次,四半期などの区切りでその進捗を決め,必要に応じて活動の修正をしますテーマ決定,支援,進捗管理は方針管理と連携しながら進めます.
(2) 単独部門で実施する中規模の改善
例えば,製造部門における慢性不良の低減,サービス提供部門における提供の質向上など,標準どおり業務を遂行していても生じてしまう問題や将来における課題の解決が典型的です.日常的な管理をしっかり実践すると,異常の発生がなくなり,慢性的な不良のみが残ります.これらの問題点を集約し,改善のテーマを定めます.この改善活動には,標準に基づく実践状況の熟知が前提になるため,その標準に関連する部門からメンバーを選び,必要に応じて他の部門からのメンバーを追加します.これらの改善については,プロジェクトの成功がある程度見込めることを考慮して,途中段階での進捗に応じた支援をします.これらの改善テーマは,日常的な業務管理体系と連携させるとよいでしょう.
このような改善活動の形態の一つに,QC(Quality Control)サークル活動があります.このQCサークルとは,第一線の職場で働く人々が,継続的に製品,サービス,仕事などの質の管理,改善を行う小グループです.これは,1960年代から盛んに実践され始め,現在でも多くの会社がこの活動を推進しています.QCサークル推進のねらいは, QCサークルメンバーの能力向上,自己実現,明るく活力に満ちた生きがいのある職場づくり,お客様満足の向上および社会への貢献などであり,メンバーのための活動に重きをおく点が特徴です.
(3)個人レベルでの改善提案
全員参加の実践を目指し,多くの企業で改善提案制度を導入しています.これは,製品,サービス,安全などの改善の機会を見つけた場合には,その提案ができるようにする制度です.基本的には個々人で提案します.場合によっては,改善までを一人で実施します.改善提案や個人での改善活動が進むように,動機付け,教育,支援などを進めることが寛容です.
第1回は,改善の概要,テーマとチームの構成という改善活動を説明しました.第2回では,この推進のための基盤づくり,推進体制などを説明します.
(山田 秀)