本日から、品質部門配属になりました 第38回 『品質評価』(その1) (2021-02-16)
2021.02.16
今回から3回に亘って品質部門における品質評価についてお話しすることになりました。
本シリーズでは、各著者から品質保証部門の機能について論理的な解説や実践上のヒントが多く示されてきました。その中で品質評価に関連する項目にも幾つか触れられており、読者諸氏におかれましては品質評価の活動について理解は共通していると思います。
ここではISO9001:2015の「箇条9 パフォーマンス評価」を切り口にして、本シリーズのイントロ部分の第2回『品質部門の役割』(その1)で飯塚先生が述べられているように、『広義の「品質保証」,すなわち,深遠なる顧客満足という経営目的達成のために「品質マネジメント」を行うという図式で,品質という経営機能を理解して考察を進めること』を念頭において書き進めることにしました。
本シリーズの後半でもあり、“左脳休め”感覚で読んでいただければと考え、品質評価項目の解説とは異なる視点で発信して行きます。
品質評価とは
評価の一般的な概念はPDCAでいう「C(チェック)」、すなわち「計画(P))に基づいた「活動(D)」の結果確認であり、目的達成状況の確認と差異状況を把握することが目的です。そこで、「品質評価」の範囲にある活動をランダムに挙げてみました。
・出荷検査(合否の判定)
・各工程における基準への適合性及び有効性の確認
・顧客・ユーザー側から見た、製品・サービスの良し悪し、または好き嫌いの判定
・社会的な規範や常識から判断される評価
・株主(投資家)による評価(最近ではESGが注目されている)
・自組織(トップ)による診断、事業計画・諸施策の達成状況の評価(QMSと重複あり)
・上位職による業務パフォーマンスの評価(人事考課)
・内部監査(製造工程監査、製品監査を含む)
・供給者に対する評価(第2者監査)
・マネジメントレビュー(QMS)
・顧客や監督官庁による監査(第2者監査)
・自社の監査機能における監査(内部統制が主体)
・監査法人による監査(財務が主体)
・第3者による評価(MS認証審査)
そのほかにもあると思いますが、対象を以下3つに分類し、それぞれにある評価について「品質という経営機能」に結び付けて話を進めたいと思います。
1.顧客に提供される製品・サービスそのもの製品品質評価→(その1で)
2.製品・サービス提供の主プロセス(バリューチェーン)→プロセスの評価(その2で)
3.組織全体の仕組み(事業プロセスをコアにした品質マネジメントシステム)→マネジメントシステムの評価(その3で)
今回は1.顧客に提供される製品・サービスそのもの → 製品品質評価 についてです。
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1.製品・サービスの品質評価
これは顧客、ユーザーが受け取るアウトプット(製品又はサービス)に対する評価と考えれば一番分かりやすいと思います。本来、顧客・ユーザーの評価を把握することは客観的事実に基づくものであり、これが企業の商品戦略、営業戦略実行のPDCAの“C”となり“A”につながるインプットとならなければ意味がありません。既存の製品について、これはPDCAの順番を少し入れ替えてCAP-Doという形で実践されます。
キーワードの顧客満足(Customer satisfaction)はISO9001:2015の9.1.2に述べられている通りですが、事例で考えてみましょう。
1.1アンケートによる評価
日常生活の中にある各種商品・サービス、例えばレストランに対する評価を考えれば「味とサービス」でしょう。質問と評点からなるアンケートによる顧客満足の調査が最も一般的です。アンケートは営業戦略にとって重要なツールですが実施側が作為的に質問を組み立てる場合もあるので注意も必要です。例えば、商品アンケート等の結果90%以上が満足などと広告しているケースや都合の良いものだけを公表するというような営業目的もありますが、これは別次元の話です。
組織が顧客フィードバックをどのような目的に使うのかを明確にすることが重要であり、それによってアンケートの質問内容、対象者などが異なります。
1.2最優先すべき顧客評価は?
顧客フィードバックにおいて最優先すべき評価は「苦情」などのネガティブな評価でしょう。ネガティブな評価が把握されていなかった、経営者に忖度してネガティブな評価を表面化させなかった、適切な対応(改善)がとられなかったというケースが悲観的な結果を招いた事例には事欠きません。顧客苦情はISO 9001 9.3.2のマネジメントレビューにおいても重要なインプット情報になっていることからも理解できます。
ネガティブ情報の吸い上げから経営層に事実を報告するプロセス、同時に是正・改善対応の展開を主導することが品質部門の役責であり、「リスク管理」に属する重要な活動です。
1.3商品としての評価
一般製品であれば初期品質、使用品質(使い勝手)、耐久品質などが評価項目になります。ハードの製品だけでなく顧客の手にわたるまでのプロセスの付加価値がついた「商品」として考える必要があります。食品等なら顧客がストアの棚にある商品を選ぶ段階の品質です。顧客の手にわたる時点の評価となるので、そこに至るまでのプロセス全てが影響を与えることになります。これは製造拠点における出荷検査に加えて出荷後のプロセス(例えば、保管と流通)による品質劣化も評価に影響を与えることになる
からです。
自動車ではディーラーの保守点検サービスとその良し悪しも顧客満足の評価に大きく影響を与えます。例えば故障時の対応が非常に良く故障による顧客不満を帳消しにするということがあります。これは自動車に限らず高級ブランドに採用されている手法ですが、この領域になると個々の製品品質というよりブランドとしての顧客満足になります。いずれにせよ企業の営業戦略にとっては重要なことです。
このように製品の種類、用途、ターゲットとする顧客層などにより製品に付加されるサービス機能まで含めてどのような評価軸にするのかは大事なことです。
1.4顧客満足調査
自社組織が行う調査と専門会社が代行して行っているものがありますが、最近ではスマホのQコードやITソフトで集計・分析作業が容易になっています。
自動車業界では昔から活用されている代表的な顧客満足度調査で米国のJ.D.Power が有名です。モデル、年式毎に、不満事象等を含めて多彩かつ詳細にわたりユーザーによる評価がデータ化され公表されるのです。毎年その結果がメディアに公表され、米国市場の自動車の売れ行きに大きな影響を与えています。販売促進に大きく寄与するのでカーメーカーは米国市場の重要なユーザー評価指標と位置づけており、このJ.D.Power評価を分析し、品質改善やモデルチェンジ、ニューモデルの設計のインプットに繋げて商品戦略を策定しています。
なお、顧客満足に係る活動について、本シリーズの「10.市場品質の保証」(1月発行 土居氏)にて詳細に発信されています。
1.5組織内における評価
一般的な製品では出荷検査が製造拠点における最終的な品質評価ですが、単なる出荷検査とは別に、顧客の立場になって自組織内で評価項目を設定し製品の評価を行うことも意味があります。この方法には検査部門の人ではなく、ユーザー目線で客観的に評価ができる社員が客観性をもって実施する顧客評価シミュレーションで、生活用品や食品などに多く活用されて
います。
もう一つは製品が基準に適合しているかを厳密に評価する方法として、合格品在庫の中からサンプリングして製品基準(製品の仕様、寸法、性能など)に対する評価を行う方法です。自動車産業では検査合格済の完成車のロットから抽出検査と呼ばれる方法で実施しています。自動車部品においては自動車セクターQMS基準(IATF16949)において「製品監査」として内部監査の要求事項の一つとなっています。このように体系的に内部監査に組み込むことも有効です。
1.6品質部門の役割
企業の営業戦略に基づき「顧客満足調査の目的と方法を策定する → 調査を実施する →調査結果を分析する → 評価軸(Criteria)を設定して基準を作成する → 製品・サービスの改善や新製品開発に活用する」というフローで、このプロセスの前半は(大企業レベルでは)営業企画部門が行ない、品質部門は後半の部分に介入するケースが多いと思います。
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製品・サービスの改善や新製品開発に結びつけるため、変化かつ多様化する顧客ニーズを評価基準に変換することは品質部門の役割機能として意味があります。データ分析結果から、顧客趣向(ソフト面)の評価要素を特定してQFD(品質機能展開)のインプットとするために品質部門として製品開発のプロセスに参画することも有益な活動です。
品質部門(あえて品質保証部と限定しない)は、製品・サービスの品質基準への適合評価や組織横串機能のみならず、企業の営業戦略や製品開発という上流の事業プロセスに参画することが、「品質の経営機能」であると認識することが大事です。
(その1おわり)
その2では、品質評価の対象2番目「製品・サービス提供の主プロセス(バリューチェーン)→プロセスの評価」についてお話します。
(長谷川 武英)