本日から、品質部門配属になりました 第37回 『品質会議の運営』(その2) (2021-02-08)
2021.02.08
前回は11.1、11.2において、品質会議の目的、意義、位置づけについて述べ、品質会議で取り上げるべき主題、テーマについて述べました。
今回は、そのような品質会議の体制整備、品質会議への事前準備、品質会議の運営について説明したいと思います。
品質部門に配属された中山さんは、この度、品質会議の準備に携わることになりましたので、中山さんの仕事を紹介することで品質会議の理解を深めていただこうと思います。
11.3 品質会議の体制整備
中山さんが品質会議の準備を担当することに決まった数日後、早速課長から品質会議の枠組みについて説明を受けました。課長によると、品質会議は経営上の重要な会議の一つで,出席者は社長をはじめ会社の役員、部課長など錚々たるメンバーが参加者であるそうです。中山さんは、このような会社幹部の出席する会議に関係できることに喜びを感じるとともに、絶対に失敗が無いように準備しようと心に堅く誓いました。
課長の話によると、品質会議は20年前から今の体制で毎月定例的に開催されており、実施の仕方、手順はきちんと決められ、手順に沿って全
社定例会議として運営されているということでした。課長からよく読むように渡された「品質会議規定」は、1995年初版の発行で、2年に一
度くらいの頻度で加除、修正がされていました。
「品質会議規定」には、9種類の手順書が下位文書として記載されており、課長からはこれも隅から隅まで読むように指示されました。
・パフォーマンス指標監視・測定手順
・パフォーマンス指標管理手順
・議題決定手順
・資料作成手順
・出席者確認並びに開催通知発行手順
・会議進行手順
・議事録作成手順
・報告書作成手順
・記録管理手順
11.3.1 パフォーマンス指標監視・測定手順
中山さんは、パフォーマンス指標監視・測定手順に沿って、毎月次の指標のデータを把握し、把握したデータを見やすくグラフ化する仕事に着手しました。
(1)客先クレーム(納入不良)
中山さんの勤めるA社は、産業用の機械・設備及び周辺機器(ユニット)を製造しています。顧客は自動車、家電、医療機器などの業界のメーカであり、一般市場にA社製品が直接売られることはありません。
中山さんは、2年前まで製品設計を行っていましたし、品質保証に来てからは、自動車関連会社の設備に自社製品の組み込み業務を担当したことから、A社の全製品についてよく知っていると自信を持っています。
A社が納品する製品に対するクレームは基本的には営業窓口に寄せられますが、中には設計担当者、技術担当者にも寄せられることがあります。
中山さんは、まず顧客クレームを全て漏れなく把握するための工夫を行いました。毎週一回、営業、設計、技術、品証の担当者連絡会を行うことにしました。A社は80名くらいの規模の会社ですので、担当者会議と言ってもメールベースで済ますことが多かったようです。しかし、時には顧客先から複数の部署にクレームの連絡が入るようなケースもあります。そのような時は、相手の窓口も調達部門、品証部門の両方になっており、顧客の受け止めが深刻であることが分かりますので、社内で会議を行い対応を協議することにしました。
中山さんの次の業務は、1ケ月の顧客クレームの把握を行った後、手順書に定められた区分にクレームを分類することです。過去、手順書が何回か改訂されていますが、改定箇所で多いのはこの分類区分の所です。
A社製品は、最初はメカニカルなハード機器でしたが、その後電装品も組み込まれるようになり、新製品が開発される度に顧客クレーム区分が改定されてきています。
中山さんは、月度の顧客クレームを区分すると、その結果をグラフ表示します。その際、過去3年分と比較ができるように工夫し、かつ今年の目標件数をグラフに赤字で示し、月ごとの推移が分かるようにしました。
(2) 出荷検査不良
中山さんは、毎月検査班に出向き該当月の製品ごとの出荷検査不良を把握しています。この際留意することは次のようなことです。
・測定項目の確認:新製品が出た時に品証部からの指示どおりか確認する。
・測定器の校正:測定器が校正有効期間内であるか確認する。
・検査数:全数検査と抜取検査について規定通りか確認する。
・データの信頼性:検査にはミスが付きものであるので以下の観点から、手動測定とPC測定のそれぞれの
データをチェックする。
1) 合否の判定基準の確認
2) 検査標準類の確認
3) 検査員の技能レベルの確認
(3) 工程内不良
中山さんは、毎月製造工場へ出向き該当月の製品ごとの工程内不良を把握しています。この際留意することは次のようなことです。
・検査項目:「QC工程表」に決められている検査項目がきちんと検査されているか確認する。検査項目は、
無試験検査と抜き取り検査の往復、全数検査の追加や廃止などが頻繁に行われるのでルールどお
り行われているか確認する。
・不良率の確認:月度生産量、工程不良数から工程ごとの歩留まりを算出する。
・不良金額の算出:工程ごとに決められている価値金額から製品ごとの不良金額を算出する。
中山さんは、その他、受入検査不良率、設計部のDR指摘数、設計変更数、更に営業から客先変更数を把握し、グラフ化し、A社のパフォーマンス指標としてまとめています。
11.3.2 パフォーマンス指標管理手順
中山さんは、パフォーマンス指標を監視することも重要であるが、より重要な仕事は「パフォーマンス指標を管理する」ことだと課長から指示されています。
そのために、中山さんは「パフォーマンス指標管理手順」を読み、前月の会議録を確認しました。会議録によると、A社の客先クレームの原因は、その7割が人的ミスとなっており、今年は管理水準を既に超える件数が記載されています。
手順書には、クレーム、不良率、検査データ、業務管理項目について、管理水準から外れたものについては、現状を調査し対策を講じることになっています。
客先クレームは既に先月管理水準を超えているので、早速、現状と要因分析をする事にしました。クレームの7割が人的ミスであるという先月の分析をまずは確認したいと製造の責任者に聞いてみると、“人の問題なので、対策の打ちようがない。教育を改めて実施した”という返事をもらってしまいました。
中山さんは、設計をしたり、生産技術の仕事をした経験から、ヒューマンエラーとされているクレームの内容を調べることにしました。
その結果次のようなことが分かってきました。
1)ヒューマンエラーとされている事象の中には設計に起因するものがある。
2)ヒューマンエラーとされている事象の中には工程レイアウトのまずさ
に起因したものがある。
1)については、例えば、部品の寸法公差の設定が部品組合せからみて不適切である。
2)については、例えば、同じシリーズ部品の前製品と異なった加工手順を指定している。
中山さんは、毎週一回行っている、営業、設計、技術、品証の担当者連絡会で、1)、2)の話をし、設計、技術の見解を求めました。1)は公差の設定甘く、加工バラツキを考慮すると設計が適切でない、と結論が得られましたが、1)は加工手順を変更した方が加工工数が少なくなると技術が主張して、すんなりと工程レイアウトの問題であると結論が出ませんでした。中山さんは、品質会議資料の客先クレームの項には、要因を「ヒューマンエラー」とはせず、「調査中」としました。
中山さんは、「品質会議」で取り上げる議題調整,特に部署間の業務責任に関する事前調整は大変であることを思い知りましたが、ここで要因分析を中途半端にすると同じ客先クレームに繋がりかねないことを考え、改めて新しい仕事のやりがいと自分の仕事への責任を噛み締めました。
組織において中山さんが直面するような状況はよく起こります。このような状況を打破することが品質部門の腕の見せ所です。このような場面では、中山さんは先輩に相談すべきです。また課長もこのような状況を察して積極的に品質部門の役割を果たさなければなりません。要は中山さんの業務ではなく品質部門の業務として果敢に問題解決の中核的な役割を果たさなければなりません。
営業、設計、技術、調達、製造部門は、日常は互いに連携して業務を推進していますが、何か問題が起こると自部門の利害を優先して、時には客観的な視点を失い全社最適でない意見を言い張ります。
品質部門は冒頭にも言いましたが、品質経営の推進における参謀的役割を果たさなければなりません。このような場面においてこそ組織全体の利害を最適にする判断をしなければなりません。そのためには、日ごろから縦割りで動く営業、設計、技術、調達、製造部門の特性を把握し、かつ職務分掌規程(組織役割分担)の本質を理解し経営者とも意思疎通をしておくことが大切です。
11.3.3 その他の手順
A社の品質会議は、議題決定、議題に関連する資料作成、開催通知、そして会議進行,議事録、報告書作成(記録作成)について、以下の手順書に沿って今までどおりに行われています。
・議題決定手順
・資料作成手順
・出席者確認並びに開催通知発行手順
・会議進行手順
・議事録作成手順
・報告書作成手順
・記録管理手順
今のところ、中山さんの準備活動の成果が功を奏して、以前より充実した品質
会議が開かれるようなりましたが、課長からは組織のパフォーマンスが向上す
る手段としての会議にするための課題を上げるよう求められています。
課長は中山さんの活動をちょっと離れて観ていて、彼のキャリアプランを描い
ています。10年後には自分は退職しているが、彼が会社の中枢に居て品質経営
を担う組織に無くてはならない存在になっているであろう、そのためにはこれ
からどんな能力を身に付けてもらうかを具体的に考え始めています。
(平林 良人)