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本日から、品質部門配属になりました 第35回 『市場品質の保証)』(その4)

2021.01.25

前回、前々回のメルマガで、市場品質保証のために必要な下記の五つの課題について考えてきました。

 

(1)営業・販売において:当該製品・サービスが実現を意図しているニーズ・期待を持つ顧客に購入いただく
 こと。

(2)付帯サービスにおいて:納品~使用・利用段階で適切なサポートが提供されること。

(3)不具合の発生時において:迅速・ていねい・適切な対応が行われること

(4)品質保証プロセス全体において:市場品質の測定・評価結果を品質保証のPDCAサイクルに組み込むこと。
 その中で、企画品質の検証(顧客のニーズ・期待を正しく捉えていたか)も行うこと。

(5)組織全体として:組織(ブランド)の価値を低下させる問題事象を防止し、組織価値を向上させること
 が、市場品質保証のためにも重要であること。

 

このテーマのしめくくりとして、上記の五つの課題を通じて「市場品質」を保証するために、品質部門が何をしなければならないかについて検討します。

 

《品質部門が果たすべき役割》

 

このメルマガの第4回「品質部門の役割(その3)」 (2020-06-08)では、品質部門の仕事が、a)体系構築・管轄、b)主担当ライン業務、c)事務局的ラ

イン業務、d)経営参謀的業務、の4つに分類されることが示されています。

「市場品質保証」関連業務をこの分類に基づいて、整理してみましょう。

 

  1. 体系構築・管轄:品質保証の体系・体制を,組織目的達成のために適切な

ものであり続けるようにするための諸活動

「品質保証の体系・体制」とは品質マネジメントシステムそのもの、あるいは、その主要な柱と言えるでしょう。従って、品質マネジメントシステムの中で「市場品質保証」についてのPDCAサイクルが確実に回る仕組みを構築し、維持・改善することがここでの品質部門の役割です。

 

ISO 9001では、「顧客のニーズ及び期待が満たされている程度について、顧客がどのように受け止めているかを監視」、すること(9.1.2顧客満足)、
「顧客満足」について「監視及び測定からの適切なデータ及び情報を分析し、評価」すること(9.1.3分析及び評価)、「顧客満足及び密接に関連する利害関係者からのフィードバック」に関する「品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に関する情報」をマネジメントレビューのインプットとすること(9.3.2マネジメントレビューへのインプット)などが要求されており、これらは何らかの形で組織の品質マネジメントシステムの中で手順化されているはずです。

 

組織の既存の仕組み(品質マネジメントシステム)の中に「市場品質」を位置付けること。具体的には、例えば「品質会議」やマネジメントレビュー
などで「市場品質」が議題として取り上げられ、必要な計画の策定や実施状況の点検がされるようにすること、営業・販売、付帯サービス、企画などの各部署の仕事の中に顧客の「声」を聴き「市場品質」に基づいて自部署の仕事を検証・改善するルールを明確にすること、などが考えられます。これらは、前項の(4)の具体化に該当します。

 

b)主担当ライン業務

品質部門の担当業務として「市場品質」について監視・測定し、「市場品質保証」のために必要な処置(追加調査、情報発信、提案など)を行うこと。

先に述べたように、「市場品質」を評価するためには、営業・販売や付帯サービス時に入手できる「声」などの多くの情報と、それらを取りまとめて評価する仕組みが必要になります。

 

製造・販売、付帯サービス、クレーム対応など各々のプロセスでの「声」の集約は、a)で述べたルールに基づいて各プロセスが日常の仕事を通じて行うべきものであり、各プロセスはそれに基づいて自分たちの仕事を検証すべきですが、それらを集約して市場品質全体について評価する仕組みを構築し、評価を実施するのは品質部門が担うべき役割です。

 

各プロセスで集約・対応した「声」が品質部門に集約されることは、各プロセスの「声」への対応(前項の(1)~(3)の仕事)が確実に行われるための「点検」機能としても一定の役割を果たすと考えられます。

 

c)事務局的ライン業務

ニーズ・期待に応える製品・サービスの企画や営業・販売・付帯サービスの推進は、各々のプロセスが実施主体となる仕事ですが、それらを取りまと
めたり、運用の調整やサポートを行うのが事務局的ライン業務(事務局として他部署に働きかける業務)です。

 

例えば調整について。単に“発生した不具合への対応”ではなく積極的な「市場品質保証」をすすめるためには、設計・開発部門と営業・販売部門、付帯サービス部門との連動が重要になります。そのための仕組み(会議体の設置、情報伝達ルールの明確化など)を構築して、必要な調整・支援を行うことが必要です。

 

例えばサポートについて。前回のメルマガで、営業・販売・付帯サービスにおいて他社に後れをとらないこと、市場品質評価を通じて営業・販売プロセスに科学的アプローチを導入することの重要性について述べました。そのために各プロセスが市場品質評価を確実に実施し、それを改善に活用できるよう点検や必要な支援を行うことが必要です。各プロセスの対応状況を品質部門として定期的に点検する仕組みづくりや内部監査の活用なども考えられます。

 

d)経営参謀的業務

「市場品質保証」はトップが先頭に立ってすすめるべき課題です。経営の使命は、社会のニーズ・期待を“事業を通じて充足”することであり、「市場品質(=顧客が当該の製品・サービスによってニーズ・期待を実現できたか)」は、経営がその使命を果たせたか否かの最終的な判断基準ともなるものだからです。

 

また、「市場品質保証」は、製品・サービスに関わる部門だけでなく、全組織が一丸となって進めるべき課題です。組織が社会から信頼・支持されることは、製品・サービスを通じて社会のニーズ・期待を実現するための必須条件だからです。前項で述べた各部門の連動も、単に仕組みの構築だけで実現するものではなく、各々のメンバーの自覚的な参加が重要になります。

 

ISO 9001では、品質マネジメントシステムにおいてトップマネジメントが果たすべき役割として、「品質マネジメントシステムの有効性に寄与するよう人々を積極的に参加させ、指揮し、支援する」こと、「関連する管理層がその責任の領域においてリーダーシップを発揮するよう、管理層の役割を支援する」ことを求めています(5.1リーダーシップ及びコミットメント)。例えば品質方針などを通じて、顧客のニーズ・期待の実現が組織の使命であることを明確にし、マネジャー集団とともに、組織が一丸となって使命実現にむけて取り組むよう、必要なリーダーシップを発揮することは、トップマネジメントの課題です。

 

品質部門には、「市場品質」に関わる自組織の現状分析や競合他社・業界の動向等の調査・研究を踏まえた政策提案や進言を行うとともに、毎期の「市場品質評価」結果に基づいて適切なリーダーシップが発揮できるようにトップを補佐することが求められます。

 

《ニーズ・期待の実現を保証する》

 

以前にも述べましたが、「品質保証」とは「品質が期待通りであることを請け合い、顧客に信頼感を与える」こと、でした。「保証」すべきことは、顧客のニーズ・期待の実現です。「市場品質」は、「製品・サービスを通じて顧客が期待した価値が得られたかどうか」という視点で品質をとらえるものであり、「品質保証」は「市場品質保証」を含むものでなければなりません。

 

これまでに検討したように、市場で発生した不具合の対応は「市場品質保証」の一部でしかありません。「市場品質」は、顧客のニーズ・期待を実現し得る製品・サービスが企画~設計・開発~量産されることを前提に、営業・販売、付帯サービス、不具合への対応などのすべてのプロセスにおいて、顧客のニーズ・期待に積極的に応えることで保証されるものです。

 

まずは、「市場品質」の保証を単に“発生した不具合への対応”とするのではなく、顧客のニーズ・期待の実現が組織の使命であること明確にして、積極的に「市場品質保証」に取り組み、企画品質の検証や営業・販売プロセス、付帯サービスプロセスの改善をすすめることが必要です。さらに言えば、ニーズ・期待実現の前提は組織への支持・信頼であることを明確にして、「市場品質保証」を組織全体の取り組みとして推進することが求められています。

 

このことを再度指摘して、「市場品質保証」のしめくくりとします。

 

 

(土居 栄三)

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