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本日から、品質部門配属になりました 第34回 『市場品質の保証)』(その3)

2021.01.18

前回に続いて、「市場品質」を保証するために何が必要であるかを検討します。前回、そのための課題として、(1)営業・販売(購入前のサービス)、(2)付帯サービス、(3)不具合への対応、について検討しました。これらのすべての段階で得られた情報を「市場品質」に関わる全てのプロセスの改善に活用することが次の課題です。

 

(4)「市場品質」を製品・サービス実現、販売・サービス及び品質保証プロセスのPDCAサイクルに組み込む

「市場品質」は、製品・サービスに対する顧客の最終評価です。製品・サービスを通じて顧客のニーズ・期待を実現し続けるためには、この評価結果が、次の製品・サービス実現、販売・サービス及び品質保証プロセスのPDCAサイクルの出発点とならなければなりません。

 

 1.市場品質を評価する。

  ISO 9001は、「顧客のニーズ及び期待が満たされている程度について、顧客がどのように受け止めてい
  るか」を監視すること、及び、「そのための情報の入手、監視及びレビューの方法を決定」することを
  求めています(9.1.2顧客満足)。これは「市場品質評価」の仕組みを構築・運用することに他なりま
  せん。多くの組織で顧客アンケートなどが取り組まれていますが、アンケートで寄せられるのは、一部
  の顧客の、ある程度配慮を含んだ意見であることに注意が必要です。組織が本当に知る必要がある「耳
  の痛い話」はなかなか書いてもらえません。「市場品質(ニーズ及び期待が満たされている程度につい
  ての顧客の受けとめ)」を評価するためには、もっと多くの場面で、顧客の「声」を聴く必要がありま
  す。

  組織は、「声」を聴き「市場品質」を評価するプロセスを確立しなければなりません。

 

  1.市場品質を評価するために多様なデータを活用する

   a)販売実績等のデータ:

    想定販売量とのギャップ、前年比などの趨勢。仮に想定した販売量に到達しない、あるいは趨勢で販
    売量が減少しているなら、ニーズ及び期待は満たされていないということです。同業他社の製品・
    サービスで売り上げを伸ばしているものがあれば、それと比較することで、ニーズ・期待とのギャッ
    プがどこにあるかを推定することができます。

 

   b)クレームデータ:

    クレームの中には、当該製品・サービスの欠陥に起因するものだけでなく、顧客のニーズ・期待との
    ギャップ(当該製品・サービスがそもそも顧客の要求するレベルの品質を想定していない)に起因す
    るものがあります。

 

   c)営業・販売プロセスで入手できた「声」:

    “このような問題で困っている” “〇〇のような機能の製品・サービスがほしい”など、ニーズ・期待
    に関わる「声」、自社の製品・サービスが選択された理由・選択されなかった理由に関わる「声」、
    使用・利用後の満足・不満足に関わる「声」など。

 

   d)付帯サービスを通じて入手できた「声」

    使用・利用方法の説明時に寄せられた質問、サービスセンターへの「問い合わせ」、保守点検などの
    訪問時に入手できた使用実感などの「声」。

 

  2.組織としての評価方法を確立する

   上記のようなデータに基づいて、当該製品・サービスの「市場品質」を評価します。難しく考える必要
   はありません。

 

   1)数値データや顧客の「声」を、組織の主観を交えずに見える化する

    営業・販売、付帯サービス中に耳にした「声」を営業日報などの方法で「文書化」し、共有する等、
    様々な方法が考えられます。それらを要約する過程で組織の主観が入らないよう注意が必要です。

 

   2)それを踏まえて、顧客のニーズ・期待の実現度合いを評価する例えば、ニーズ・期待の中で実現で
    きているもの、実現できていないものを明らかにすることで、実現度合いを評価することができま
    す。

 

   3) 「顧客のニーズ・期待を実現するための改善課題」を明らかにする

    製品・サービスの企画(後述)から、営業・販売、付帯サービス、クレーム・不具合への対応に
    おいて、改善すべき課題を明確にします。

 

    例えば、毎期末の品質会議において上記の1)~3)を議題とするなどの方法で、市場品質評価を
    仕組みとして確立します。最初は「手探り」であっても、回を重ねるにしたがって、見える化や
    分析の方法などが組織独自の手法として確立されていきます。

 

 2.「企画品質」を検証する

 

  上記の「市場品質評価」を通じて、「企画品質」の検証を行います。「企画品質」とは「顧客ニーズ
  が製品・サービスの企画にどのくらい反映されているか」に関する品質レベルです。企画段階で想定
  した顧客のニーズ・期待は適切であったか、そのニーズ・期待を実現するために想定した品質特性が
  的を射ていたか等について検証し、次の「企画」へのインプット情報とします。

 

 3.営業・販売~付帯サービスの評価・改善に取り組む

  「市場品質の評価」の中で、営業・販売~付帯サービスのプロセスについても検証を行い、そこで明
  らかにされた改善課題は、各々のプロセスのPDCAサイクルにインプットします。

 

  1.ニーズ・期待への対応において他社に後れを取らない

   前回も述べましたが、仮に「企画品質」・「設計品質」・「量産品質」が他社をある程度上回って
   いても、営業・販売や付帯サービスなどが原因して「市場価値」では他社に後れを取る場合があり
   ます。営業・販売(製品・サービス購入前のサービス)、付帯サービスに対する顧客(市場)のニー
   ズ・期待は、高齢化などの要因によって大きく変化しています。自社の営業・販売~付帯サービス
   が顧客のニーズ・期待を満たしているかを検証することは、品質保証上の重要課題です。

 

  2.営業・販売に「科学的にアプローチ」する

   前回のメルマガで取り上げたように、営業・販売は「購入前のサービス」であり、そこには応える
   べき顧客のニーズ・期待が存在します。言い換えれば、「購入前のサービス」に対する顧客のニー
   ズ・期待に応えることが、成果が上がる営業・販売活動を実現する王道であるということです。

 

   営業・販売活動における成果は担当者の力量次第で、製品・サービス実現プロセス(製造)のよう
   に手順を標準化することは困難と考えられがちですが、実際の営業・販売活動は、どの担当者も、
   a.対象のリストアップ b.アポ取り付け c.対話(要望のヒアリング、製品・サービス提案、クロー
   ジング) d.契約 e.販売後のフォロー f.次期の商談 など同様の流れを反復することで進めてい
   ます。

 

   例えば「a.対象のリストアップ」において、製品・サービスが実現を想定しているニーズ・期待を
   持つ潜在顧客層を確実にリストアップし、ニーズ・期待をベースに置いたアプローチで「b.アポの
   取り付け」を効率的に行う。

   「c.対話」においてはヒアリングによって顧客のニーズ・期待を鮮明にし、自社の製品・サービス
   がどのようにニーズ・期待に応えるのかを分かりやすく説明する。「e.販売後のフォロー」で、
   顧客がニーズ・期待を実現できているかを確認して必要なサポートを行う ・・・ 要するに、成
   果を上げる担当者は、各々の場面において“売れるように行動しているから売れる”のです。

 

   ある出来事の因果関係(どのような要因からその結果が生じたのか)を明らかにして、同じような
   状況で同じように行動することで同じ結果を得られるようにすること(再現性) ・・・ これが
   「科学的アプローチ」です。製品・サービス実現プロセスにおける標準化をはじめ品質マネジメン
   トシステムの基本的な考え方でもあります。

 

   市場品質評価を通じて、営業・販売プロセスが顧客のニーズ・期待を満たしているか、どのように
   すれば顧客のニーズ・期待に応えられるのかを検証することは、営業・販売に科学的にアプローチ
   することに他なりません。

   それは、営業・販売を確実に強化する道でもあります。

 

(5)市場品質向上は組織全体の課題

 

 組織が重大な事故・クレームを発生させることでブランドに対する信頼が揺らげば、例えそれが当該
 製品・サービス以外の製品・サービスであったとしても、顧客が安心・信頼して使用・利用すること
 に一定の影響を与えて、ニーズ・期待の実現度合いが左右される場合があります。仮に、重大事故・
 クレームが発生した場合は、顧客全体に対して、信頼回復・維持のための取り組みが重要になります。

 

 また、製品・サービス以外のコンプライアンスに関わる問題であっても、それが社会的に問題視され
 るようなことであれば、同様の事態が発生するかもしれません。逆に言えば、組織に対する社会的評
 価が高まることは、「市場品質(ニーズ・期待の実現度合い)」に好影響を及ぼす可能性があるとい
 うことであり、その意味では、「市場品質」の保証は全組織的な課題ということが出来ます。

 

 このような全社的課題に対して、品質部門はどのように対応すればよいのかは、次回メルマガで検討
 します。

 

(土居 栄三)

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