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本日から、品質部門配属になりました 第16回 『企画品質の保証』(その2)   (2020-09-07)

2020.09.07

    4.市場調査・分析

4-1. 中長期的な市場トレンド調査
全くの新規の市場に新製品を出そうとしているのであれば,通常はその新規の有望な市場がどんなものでどこに存在するのかがわかっていないことがほとんどですから,いわゆるマクロ環境分析として政府機関や業界段階,調査系シンクタンク等による産業統計,国民生活調査,技術動向レポートなどの資料を用いて,社会全体の動向を把握します.マーケティング分野でいうPEST(Politics:政治,Economy:経済,Society:社会,Technology:技術)分析が代表例ですね.
また,社会全体の動向のみに留めず,今どのような新規市場が出来つつあり伸びているのか,その時点で十分な解決手段が提示・提供されていない社会的な問題・課題などを把握して,有望そうな新規市場をいくつかピックアップしておくことも必要です.
既存の市場に対して既存製品の改良または新製品を出そうとしている場合には,その既存の市場規模の将来展望や動向を中心に調べることになります.既に市場が形成されているので,マイケル・ポーターが提唱している業界分析手法で「売り手の交渉力」「買い手の交渉力」「競争企業間の敵対関係」「新規参入業者の脅威」「代替品の脅威」の5つの要因を分析し,当該業界全体の将来の収益性について推測することも多いです.
 

4-2. 有力及び既存市場における(新たな)ニーズの詳細調査
上記4-1の調査で有望そうな新規市場をいくつかピックアップできたら,それらについての新たなニーズがどのようなものであるかの仮説を設定し,それを検証するためのニーズ詳細調査が必要となります.
有力そうな新規市場におけるニーズの詳細調査には注意が必要です.なぜならば,製品・サービスが目の前にあるわけではないので,顧客自身が自分に何が必要なのか,どんなニーズを持っているかをはっきりと認識していない,またはそれを説明できる適切な言葉が見つからないということが多々あるからです.この場合には,通常よくやる顧客に対するアンケートや質問票によるヒアリング調査では不十分です.むしろ,顧客の日常的な行動観察を行い,顧客の声にならないその行動の裏にある顧客の意識・認識,価値観・生活感,メタファーを把握することが極めて重要といえます.このための手法としてエスノグラフィ調査というものが有名で,元々は民族学や文化人類学などで広く行われているフィールドワークによって行動観察をし,その記録を残す研究手法でしたが,これをマーケティング分野の顧客の心理,意識や価値観を調べるために援用しています.
 
既存の市場に対して既存製品の改良または新製品を出そうとしている場合には,自社の既存製品,他社の競合品,同一機能をもつ他の製品について,「B4.市場品質の保証」の段階で収集可能な市場クレーム,顧客満足度,使われ方などを調べ,顧客がその製品群に対して持っているがまったく見逃されてしまっているニーズや,一部は満たされてはいるがまだ十分ではないニーズを把握します.
 

4-3. “新”用途開発
上記4-1,4-2が顧客のニーズが何かを直接的に調べるための活動であるのに対して,この新用途開発は既存の製品・サービスに用いている既存技術について,その特徴を活かして,今は対象としてない別の周辺顧客市場にも新製品を売り出せないかについて,調査する活動です.つまり,ニーズ→シーズという向きではなく,その逆のシーズ→ニーズという形でマッチングを図ることになります.
例えば,皆さんが良くご存じでよくお使いのポストイットは,接着剤を開発中に,失敗して接着力が弱くて付けても手ではがせるものが出来てしまったのですが,幸い何度でも付けられそうなので,“いつでもはがせる”接着テープや“いつでもはがせる”メモ用紙を開発し,大ヒットしました.また,東レが開発した炭素繊維は鉄に比べて1/4と軽量でありながらその強度は10倍ありますので,その特徴を活かして飛行機やシャトル宇宙船の材料ばかりでなく,高級ゴルフシャフトや釣り竿,自動車にも使われており,非常に多用途な材料だといえます.
計画通りの売上にならないとき,特に“売れすぎている”ときには,十分な解析が必要です.なぜなら,大きく売れすぎている背景には,製品を開発・提供した企業側が当初想定していなかった,顧客の新たな用途が隠されていることが多いからです.
 

    5.研究開発

5-1.中長期研究開発計画の立案

4-1において中長期的な市場トレンド調査を行うと説明しましたが,そこでの調査結果を踏まえて,その市場や顧客においてどのような最終商品が必要となるかのロードマップを策定します.そして,その最終商品に応えるために必要な自社の製品・サービス開発の中長期計画を立て,製品・サービス実現に必要な技術ロードマップを作成し,それを進めるための研究開発計画・スケジュールを立案します.

言い換えれば,研究開発の目的とは魅力的な製品・サービスの企画に対応できる技術の蓄積を図ることでもあります.なお,研究テーマすべてを自前で開発することは得策ではありません.自社の競争優位の源泉やコアコンピタンスをよく考えながら,他社や大学研究機関等の異業種,異分野が持つ技術,ノウハウを活かすオープンイノベーションも考慮すべきでしょう.

例えば,自動車業界では今が100年に1度の大変化の時代だと認識して,様々な技術開発を行っています.それが新聞やニュースに頻繁に出てくる「CASE(ケース)」という言葉です.CASEは以下の4つのキーワードの頭文字をとっていますが,いずれも車という商品が今後将来どう変わっていくのか,自動車メーカがどんな商品ロードマップを目指しているのかの方向性が理解できますし,そのような商品開発のために異業種と積極的に連携していこうという意図も読み取れます.

・Connected・・・つながる車
 →例えば,スマートフォンやインターネットとの接続
・Autonomous・・・自動運転 
 →例えば,レベル3以上の自動運転が開始
・Shared・・・共有
 →例えば,サブスクリプションサービス(定額)の開始
・Elected・・・電動化
 →例えば,電動自動車などの増加

 

5-2. 研究開発テーマの進捗管理と中間評価

5-1で策定した中長期研究開発計画に沿って研究を進めますが,一般的には基礎研究,応用研究,開発研究という段階を経て進んでいくことになります.その各段階において研究開発の進捗管理及び評価が行われます.評価においては,通常は

 

・見込まれる市場規模や売上高
・技術優位性
・コスト優位性
・他の製品への応用展開
・顧客/社会からのニーズの強さ
・開発失敗のリスクとその対応

 

などの評価項目を用いて,5段階評価するなどが行われます.また,評価結果に基づいて各研究開発テーマの優先度を決め,開発リソース配分を柔軟に変えていくことも必要です.

 

5-3.製品・サービス開発への適用

5-2で開発した要素技術のうち,どれを新たな新製品・サービスに適用させるかを検討し,決定します.既に5-1で作成した技術ロードマップには,顧客のどの商品に対して自社のどの技術を適用させるつもりかについての,ある程度の幅を持ったラフ計画が示されているわけですから,原則はその計画に沿って検討すればよいでしょう.ただ,ある特定の製品・サービスに適用する際に解決すべきボトルネック技術が新たに見つかることも少なくないので,その場合には新製品の企画,設計と同時並行にボトルネック技術の開発と評価を行うことになります.

(金子雅明)

 

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