本日から、品質部門配属になりました 第14回 『社内への標準化推進』(その3) (2020-08-24)
2020.08.24
前々回と前回と今回の3回にわたり,「社内への標準化推進」を解説しています.
前々回は,「2.標準化の狙い,意義」を、前回は「3.標準化の対象」と
「4.標準化推進(1)標準化推進の組織的運営」を解説しましたが,今回は「4.標準化推進(2)標準化の推進組織を運営する上での留意事項」以降と「5.まとめ」を解説します
4.標準化推進
(2)標準化の推進組織を運営する上での留意事項
1)標準化活動は,全社的な体制で運営する
社内標準化は,経営方針に基づいた組織的・永続的な活動であり,経営トップを核とする全社的な
体制で運営することが必要です.
ISO 9001の認証を取得する際に,このような全社組織を立ち上げて,必要となる標準書の整備・
作成を進める会社が多いようです.
しかし,認証取得後は,その全社組織の活動は,ISO 9001で要求されている内部監査やマネジメン
トレビューの事務局機能だけとなり,その活動が形骸化している例もよく見られます.
2)標準化はライン部門主体の活動である
標準化活動は,本来は,その標準を活用するライン部門主体で進めるべきものです.
標準化活動の企画運営を担当するスタッフ部門である「品質部門」は,協力者あるいは陰の推進者
として側面的支援が任務となります.
(3)「標準化」と「文書化(文書過?)」
品質保証活動においては,決め事とその実施結果を,文章にして記録に残すという,適切な「文書化」が必要です.
「文書化」の意義は,次の3つに集約できます.
①「コミュニケーション」-情報伝達,周知徹底のため
②「知識」-経験・知見を再利用可能な「形式知」にする,技術標準が代表例
③「証拠」-実施の証拠,規定した内容の証拠
ISO 9001の審査登録のためばかりでなく,組織として競争力を高め,業績を維持・向上させるために,果たしてどれほどの「文書化」が必要・十分か,原点にかえって何のための「文書化」であるかを考えることが重要です.
ISO 9001の認証取得の最大(?)の要件としての「文書化」の弊害(?)として,
仕事のやり方をただ文章にして(「文章化」),規定と定め(「規定化」)れば,「標準化」
こと足れりという誤解があります.
すなわち,「文書化」=「文章化」=「規定化」=「標準化」という誤解です.
前回説明した「標準」の定義にある「関係者の間で利益が得られるように,物や仕事のやり方を統一・単純化する」という「標準化」の作業が,「文章化」の前に絶対必要です.
これを抜きにした「文書化」は,不必要に過重であったり,ルールとして機能しない「文書」だらけのシステム(「文書過システム」)ができてしまい,ISO 9001の認証取得が実効性を上げられない要因になっていると考えています.
(4)「社内標準化の進め方10則」(試案)
筆者の製造会社での業務体験を踏まえて,社内標準化を進めるときに考慮すべきポイントを「社内標準化進め方10則」(試案)として,PDCAとして,まとめてみましたので,それを以下に示します.
<Plan>
①標準化は常に使う人,守る側の立場に立って考え,工夫する
(守らない/守れない のはなぜか?と考える)
② 現場の作業に関係するものは,できるだけ現場から提案してもらうか,現場の意見を十分考慮する
<Do>
③真の要因を標準化する(川上/源流管理)
④標準化は要点のみをルール化し,「がんじがらめ」にしない
⑤標準化は人間の特性をよく理解して,よい意味での「習慣化」する
⑥人がミスしても良いようなポカヨケも考える
⑦標準化は,決めることより,タイムリーに正しく伝えることが肝心
<Check & Act>
⑧標準化はそれぞれの結果の把握(効果の確認)まで行う
⑨標準の改訂の要否を適時,迅速に検討し,見直しを行う
⑩品質問題(クレーム等)が起きたときに,関連する標準との関係をチェックし,
対応策を検討・実施する
(5)「品質部門」の果たすべき機能
以上,全社的な「社内への標準化の推進」の進め方を説明してきましたが,このメルマガの主テーマである「品質部門」の果たすべき機能としては,以下の1)~3)と考えると良いでしょう.
1)標準化推進体制の確立,標準・手順類の管理規定の改廃管理,標準化状況の評価,
標準化計画や推進体制の改善
これは,前述の「標準化委員会」の推進事務局として「品質部門」が積極的に機能
するということになります.
2)品質部門としての標準・作業手順類の作成
一般的には,品質部門が主管する以下のような業務の標準類の作成が求められます.
・検査標準(規格) ・試験標準(規格) ・計測機管理標準
・材料(製品)保証書管理規定 ・クレーム処理標準
3)標準化計画の立案とその実施指示・支援,標準・作業手順類の一元管理
これは,上記1)と同様に,「標準化委員会」の推進事務局としての「品質部門」
の役割であり,標準化センターとしての標準・作業手順類の一元管理も重要です.
(6)品質不祥事と社内標準化(「ABCのすすめ」)
最近多発している品質不祥事の様々な背景、原因、対策等については、多くの議論や発表がなされているので、そちらに譲るとして、社内標準化との関係では次のように考えます。
端的に言うと、「組織が守るべき標準(社内ルールや規範)を明確にして、それを組織全員が確実に守る」という「標準化」というか「コンプライアンス」を、トップから徹底することが肝心である。
その意味では、「ABCのすすめ」=「<あ>たり前のことを、<ば>かにしないで、<ち>ゃんとやる」-「正しいことを愚直に継続的に行う」(賢者の愚直)飯塚悦功
は、示唆が深いと感じています。
5.まとめ
1)標準や標準化は,その一般的なイメージと異なり,実は以下のような深淵で本質的な意味合いを
含んでいる.
目的達成のための実施計画(PDCAのPlan)→知識の再利用(ベストプラクティスの共有)→技術基盤→
改善とイノベーションの基盤・創造性発揮の基盤
2)社内標準化は,製品サービスの品質を確保し,社内の技術を標準化し,蓄積・伝承・活用したり,
社内業務の合理的・効率的な運営に欠かすことができない活動で,特に重要なことは,物であれ
事項であれ,できるだけ統一,単純化するということである.
3)社内標準化の推進には,「標準化委員会」等の全社的な推進体制の確立が望まれるが,
品質部門は,そのPDCAを回す推進の要であり,品質部門としての担当(主管)業務に関する
標準書類の作成も当然実施しなければならない.
(松本 隆)
【引用文献】
・久利孝一他(1999):社内標準化とその進め方,新版QC入門講座3,日本規格協会
・松本隆(2008):社内標準化とTQM,標準化教育プログラム,日本規格協会のHP