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本日から、品質部門配属になりました 第10回 『品質情報システム』(その1)   (2020-07-20)

2020.07.20

第3話 品質情報システム(その1)
 
■経営と情報システム
 
第2話「品質保証システム」において品質保証体系の全貌についての解説がなされ,その効果的運営のためには品質保証に関わる情報の有機的活用のためのシステムとしての「品質情報システム」と,品質保証の実施に必要な業務知識の形式知化とその組織的活用に資する「社内への標準化推進」が重要であるとの説明がありました.それを受けて,第3話では「品質情報システム」を取り上げます.
 
品質管理,TQCの分野で「品質情報システム」という用語・概念に強い関心が払われたのは,1970年代半ばにさかのぼります.品質管理,品質保証のために,品質に関わる情報が重要となるのは当然のことであって,この時期に「○○情報システム」という用語に大きな関心が向けられた理由は,手段,道具としての計算機の進化にあります.品質情報システムよりは,MIS(Management Information System;経営情報システム)に関する議論の方が遥かに活発になされました.
 
現在のPCベース,ネットワークは当たり前というような現在の計算機環境とは異なり,当時はいわゆる大型計算機によって基幹システムを構築し,そこに端末をぶら下げるようなものでした.品質情報システムも,受注から出荷に至る業務の流れを,QCDの目標達成のためにコントロールする一貫システムの一部,一つの機能と位置づけられて検討され,実装され始めていました.
 
初期のころの議論は,情報・データをその発生時にシステムに取り込み,転記などを省き,関連情報と関係づけ一元管理するというような原則論でした.情報システムを考えるときには当たり前のことで,そのような考慮だけでは不十分です.それまでの人手による紙ベースの業務を“置き換える”という思想で設計した失敗例(というか期待した効果の上がらない導入例)が散見されました.どのように業務をしているか(how)ではなく,どのような業務機能を果たすべきか(what)を考慮すべきですし,情報の処理の仕方にしても,どのような流れでどう変換され,どこでどのようなデータ構造で蓄積され,どこでどのように参照されるかという視点での検討が必要で,そのようなかなり初歩的な議論がなされていました.(もっとも,いまでも似たような指摘が有効な組織もあるようですが……)
 
そして約20年,時代は変わりました.1990年代半ばから,ネオダマ(ネ:ネットワーク,オ:オープン,ダ:ダウンサイジング,マ:マルチメディア)などと叫ばれ,大型計算機ベースの情報システムからの大きな転換がなされ,情報技術の活用は飛躍的な進展を遂げました.とにかく小さく,速くなりました.ネットワーキングはけた違い,画像・動画を含む多様なデータを扱えるようになりました.速度と容量の影響が大きいのですが,CAEの進展,ビッグデータ,AIなどの解析技術の進化にもすさまじいものがあります.
 
■品質情報システム
 
さて,このように大きな発展を遂げこれからも進化していくこと間違いない情報技術を活用することができる「品質情報システム」として,どのようなシステムを構築し運用していけばよいのでしょうか.
 
ここでは「品質情報システム」とは,「品質を保証していくために必要な品質情報を明確に定義し,その収集方法,処理方法,伝達経路,活用方法を明示し,有機的に関連づけた体系」であると考えることにします.品質保証システムの運営には業務システムが必要です.業務システムのうちのかなりの部分は情報システムであるといえます.したがって,品質保証のためには,どのような情報システムが構築・運用されるかが重要になります.
 
また「品質情報」とは,「品質保証活動を効率的に推進するために新製品の企画段階から市場に至るまでの各ステップにおいて得られる製品・サービスやその中間段階での成果物や状態の品質に関する情報,さらにはそれらに影響を与えるプロセスの状況に関する情報の総称」であると考えることにします.
 
経営,組織運営において,「情報システム」あるいは「情報技術」はどのような意味を持っているのでしょうか.手段・道具としての情報技術に期待する機能としては,「伝達」「記憶」「計算」が考えられます.
 
「伝達」は,計算機の入出力機能とそれに接続される通信システムによるコミュニケーション手段としての機能を期待してのことです.文字,画像,音声,動画など多様な形式で電子化された情報・データを高速で“伝達”することが可能です.通信技術の進展もあり,極めて短時間に,たとえ極めて遠方であっても伝送可能です.もちろん,どこからどこへ何を伝えるかが重要ですが,活用する側が賢ければ,いかようにでも役立てることができる能力を持っています.
 
「記憶」とは,計算機の記憶装置を利用した,情報の記憶・取出し機能を期待してのことです.2つの意義が考えられます.第一は「記録」です.証明のため,あるいは後日の参照のため,大量の情報の記憶が可能です.第二は「知識」です.そのままの形や必要に応じて変換して有用な情報に変え,再利用可能な有用な情報としての知識を“蓄積”し,必要に応じ“参照”することができるという機能を期待できます.もちろん,どのようなコンテンツをどのような構造で記憶・蓄積し,どのような検索方法で有用な知識を参照するかについて,活用者の力量が問われますが,賢い使い手の期待に添える十分な能力を有しています.
 
「計算」とは,まさに計算機としての計算能力,すなわちインプットからアウトプットを得る超高速処理能力を期待してのことです.これによって,制御やCAE(Computer Aided Engineering)により,多様な意味での最適値を高速で得ることができます.また大量のデータ・情報を分析することにより有用な知見を得て,優れた設計,計画,改善案につなげることもできます.
 
さて,品質情報システムとは,上述したように「品質保証に必要な品質情報の収集,処理,伝達,活用の有機的体系」となりますので,これらの情報(テンプレート,図表,メールなどに記された電子的情報・データ,紙ベースの帳票・伝票など,ときには口頭での伝達事項)が定められた経路に従って部署・担当者間を移動し,それぞれの部署・担当者で参照,入力・記入,転記,変換され,定められたタイミングでデータ・情報が集計・分析され,しかるべき報告・指示・依頼をしていくシステムであると言うことができます.
 
品質情報システムが有すべき機能の一端を担うサブシステムは多様であり得ますが,以下のような例が考えられます.
 ・量産プロセスの品質管理:検査データ,プロセス条件データ,それらの関連の把握・分析
 ・市場品質情報システム:苦情・クレーム情報,サービス情報の収集・分析
      クレーム処理プロセスの進捗管理,リコール対応管理
 ・生産管理:生産進捗状況の迅速な把握,適時適切な介入・管理のための情報システム
 ・トレーサビリティ管理:原材料,加工・組立ロット,最終製品に至る識別の追跡システム
 ・品質保証情報展開:品質保証に必要な技術情報の連鎖(製品企画→設計・開発→
     工程設計・工程管理計画→製品品質特性→市場品質特性)の展開・関連づけ
 ・DR管理システム:各段階のDRレビュー観点リスト,判定・根拠,レビュー結果のフォローの進捗管理
 ・原価企画プロセス管理:原価企画案,原価低減案,レビュー,品質確認,原価目標達成の活動の進捗管理
 
このようなシステムを運用していくために必要となる「品質情報」の例としては以下のようなものが考えられます.
 ・仕様:製品・サービス仕様,プロセス仕様,作業標準
 ・社内品質情報:(中間)製品の検査・測定データ,DR指摘,試作品質データ,初期流動品質データ,
           量産品質不良,過去トラ
 ・市場品質情報:市場・フィールドデータ(使用履歴,アフターサービス歴,クレーム・苦情,
           顧客満足度情報など)
 ・供給者品質情報:調達関連の品質データ
 ・会議資料:品質会議資料・記録,DR資料・記録,企画・開発会議資料・記録,量産移行会議資料
        ・記録など
 ・書式・伝票:品質異常報告書,クレーム処理票,試験結果報告書,検査結果連絡票,工程チェックシート
 
こう見てくると,品質情報システムの構築・運営において最も重要なのは,情報システムそのもの,あるいは情報技術そのものではなく,品質保証体系の企画・設計であることが分かってきます.このことを心にとめて,品質部門として,どのような品質情報システムを設計・構築・運用・改善していくべきなのか,来週考察を続けます.
 
                              (飯塚悦功)

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