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TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第52回『品質保証部門の主な業務は要するに 「検査」と「クレーム処理」ですよね?』(その2)  (2020-05-11)

2020.05.11

 
前回(第51回,2020-04-28配信済)は, 
「検査」と「クレーム処理」の重要性と限界, 
「品質保証」の意味(定義)や品質保証活動の要素
を概括的に説明しました. 
今回は,品質保証部門の果たす役割を,掘り下げて考えることにします. 
 
4.品質保証部門の役割 
 
「品質保証部門の役割」について,整理すると,以下の1)~4)となります. 
 
―――――――――――――――――――――――――――――――――― 
■品質保証部門の役割 
 
1)(狭義の)品質保証活動 
・クレーム処理 
・試験設備管理 
・検査業務 
・品質監査の企画・実施 
・品質報告書などの発行 
 
2)品質問題の全社的調整 
・各部門間にわたる品質問題に対する調整 
・クレーム処理についての全社的調整 
・品質会議の主催 
・全社重要品質問題解決にかかわる調整 
 
3)全社的品質保証体制の充実 
・品質保証規定の改廃の起案 
・品質保証体制の整備・推進 
・PLP(製造物責任予防)体制の整備・推進 
 
4)経営陣のブレーンとして 
・品質方針の起案 
・経営陣に対する品質状況の報告 
・年度品質保証計画の起案 
 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 
 
品質保証のための組織として,多くの企業に品質保証部門が設置されています. 
企業規模等によっては,独立した品質保証部門はなくて,製造(又は営業)部門の一部あるいは製造(又は営業)部門の人が兼務の形で,その機能を果たしている場合もあるでしょう. 
上記1)~4)のうち,「1)(狭義の)品質保証活動」は,どの企業でも間違いなく品質保証部門(又はその機能を含む部門)で実施されていると思いますが,2)~4)についてはいかがでしょうか? 
 
5.機能別管理(経営要素管理)と品質保証部門 
 
多くの企業では,品質,コスト,納期,安全,環境などの機能(管理目的,すなわち経営要素)を軸とした,部門をまたがるプロセスがあると考えて,このプロセスを全社的(または全事業部的)な立場から管理する仕組みとして,機能別管理(経営要素管理)を行っています. 
この機能別管理(経営要素管理)の観点から,品質保証のための組織としては,品質保証部門だけではなく,会議体・委員会の設置についても考慮する必要があります. 
品質保証部門は,品質保証活動の事務局として,各部門における品質保証活動の推進を支援し,品質保証に関わる全社的な課題・問題を明確にし,その解決を図るために設置されます.組織上は,中央集権的組織では社長直轄や事業部長直轄,技術・生産と販売の責任が分かれている場合には工場長または生産部長直轄にしていることが多いようです. 
 
多くの企業では,月に1回程度の「品質会議」を開催している場合が多いでしょう.ここでは,定例的な全社品質状況の報告と対応策案,品質保証体制に関わる課題と対応,個別の全社的重要品質問題の状況と対応などが議論されます.会議においては,全社的見地から問題・課題をとらえることと,それを受けて各部門が実施すべき事項を明確にすることが大切です. 
全社各部門に横断的に関わる品質保証上の特定重要課題については,委員会を組織して問題のありかを明確にし,対応策を検討することも行われます.ここでも,問題を全社的見地から把握することと,解決に向けての各部門の役割を明確にすることが重要です. 
 
前述の「品質保証部門の役割」の1)~4)の中では,1)の日常的な実務に追われて(あるいは,それを口実にして)重要である2)~4)が,なおざりになっている企業も見られます.このような弊害を防ぐためか,上記2)~4)の役割を担う部門として「品質管理部」というものを設け,上記1)を主に担当する「品質保証部」から独立させている企業もあります. 
 
企業によっては,この「品質管理部」と「品質保証部」の名称と担当業務の関係が逆転している場合もあります.ですから,品質保証関係の部門については,それぞれの企業で「どのような具体的な業務を担当していますか?」と聞くことが欠かせません. 
 
6.筆者の品質保証部門での役割の例 
 
筆者(松本)が務めていた会社(非鉄金属加工メーカー)では,前述の「品質保証部門の役割」2)~4)の役割に,全社的な品質管理教育実施の役割等を付加した形の組織として「品質管理推進室」という全社横断部門があり,これとは別に各事業部にそれぞれ,前述の「品質保証部門の役割」の1)にISO9001 認証取得・維持関連の業務を付加した「品質保証部」という部門がありました.
筆者自身は,最初は事業部(工場)の品質保証部門で,検査やクレーム処理に追われていました.その後,全社横断的に品質機能をはたす「品質管理推進室」に異動し,相対的に時間的,組織機能的に恵まれたこともあり,上記2)~4)の役割を果たすことができました. 
 
具体的には,以下のような役割でした. 
2)全社的品質課題の調整・推進: 
→クレーム削減のための営業・技術(開発)・製造・物流等の部門横断チーム活動の企画・推進 
 
3)全社的品質保証体制の充実: 
→全社PL(製造物責任)規定の制定とPL委員会の立上げ・運営 
 
4)経営陣のブレーンとして: 
→・材料ロス削減というトップの意向をうけての全社小集団活動の企画・立案 
 ・全社各事業部への「品質コスト」算出・評価システムの企画・立案 
 
その時に役に立ったのは,最初の経験である「検査」や「クレーム処理」の現場での苦労でした.それは,「品質管理」が,学問というより,実践の問題解決学だからだと思います. 
それらの経験を踏まえて考えるのは,「検査」や「クレーム処理」といった,待ったなしの迅速・的確さを要求される実務に追われる人とは別に,それらの品質保証の基本を踏まえて,全社的に品質を向上させるために何をすべきかを考え,行動する人材が要るのではということです.特に,中小企業の場合は,そのような人材を確保することは困難なので,トップ自身が考えるしかないのかもしれません.QMSの審査では,現実にそれを考え,実行している経営者に出会うこともあります. 
 
このような機能の一部は,JIS Q 9001の2015年版では,要求事項からは外れましたが,2008年版以前の「管理責任者」の機能に含まれていたのではないかとも考えます.
(以下の注記参照) 
 
<筆者注記> 
「管理責任者」の責任及び権限(JIS Q 9001:2008 5.5.2 から要約抜粋) 
 
・品質マネジメントシステムに必要なプロセスの確立,実施及び維持 
・品質マネジメントシステムの成果を含む実施状況及び改善の必要性の有無についてトップマネジメントへの報告 
・組織全体にわたって,顧客要求事項に対する認識を高める 
・品質マネジメントシステムに関する事項についての外部との連絡 
 
いずれにしても,『品質保証部門の主な業務は要するに「検査」と「クレーム処理」ですよね?』は,誤解というより,多くの組織の実態であり,本来は,『品質保証部門の主な業務は,「検査」と「クレーム処理」だけではなく,全社的な品質保証活動の企画・調整・推進の機能を担っている』ということになります.  
 
7.まとめ 
 
今回を含めて2回にわたって,筆者自身の経験も踏まえて,以下のことを書いてきました. 
・「検査」と「クレーム処理」の重要性と限界 
→「検査」と「クレーム処理」は重要だが,その役割には限界がある. 
・品質保証とは 
→国際的な定義より,日本的な考え方は幅が広く,「品質保証は品質管理の中心であり目的」とも言える. 
・品質保証の要素 
→“はじめから”品質の良い製品・サービスを生み出せるようにし,“もし不具合があったら”,適切な処置をとること 
・品質保証部門の役割 
→検査やクレーム処理だけではなく,品質に関する全社的な調整,品質保証体制の確立,経営陣のブレーンが重要 
 
その“結論”としては,以下のように考えます. 
 
『品質保証部門の主な業務は要するに「検査」と「クレーム処理」ですよね?』は誤解であり,『品質保証部門の主な業務は,「検査」と「クレーム処理」だけではなく,全社的な品質保証活動の企画・調整・推進の機能が重要』なのであり,そのような機能を,考え・実現する人材を確保する/育成する/経営者自身が実施することが,組織をあげて品質を高めるために必要です. 
 
【引用文献】 
・飯塚悦功(2009):シリーズ<現代の品質管理>現代品質管理総論,朝倉書店 
・飯塚悦功(2018):ISO運用の“大誤解”を斬る!,日科技連出版社 
・松本 隆(2005):超ISO企業実践シリーズ4,お客様クレームを減らしたい 日本規格協会 
・日本品質管理学会:品質管理用語(JSQC-Std 00-001:2011) 
 
 
(松本 隆)

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