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TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第35回『品質(Q)? 今の時代では「価格」こそが競争優位要因なんだよ. 』(その2)  (2020-1-6)

2020.01.06

 
3.コモディティ化 
 
「コモディティ(commodity)化」とは、市場参入時には高付加価値を持っていた製品・サービスが、普及段階における後発品との競争のなかで、その機能・性能・信頼性などの優位性や特徴・特異性を失い、一般消費財のように定着していくことを言います。消費者の側から見ると、「どのメーカー、プロバイダーを選んでも大差ない、いつでも手軽に購入できる製品・サービス」がコモディティ化された製品・サービスということになります。 
 
本来、コモディティとは、日用品あるいは、穀物・鉱産資源など国際市場で取引される一般商品のことを言います。特別な機能はありませんが、市民生活や産業活動に欠かせないため、あるカテゴリーの製品・サービスがコモディティ化されると、提供する企業は安定した需要を見こみやすくなります。しかしながら、価格と物量だけが消費者の判断材料になるため、大量生産による低価格販売を余儀なくされ、高い収益は期待できなくなります。 
 
すでに多くの分野でコモディティ化が進展していますが、とりわけ近年では、インターネットの普及に伴って、IT分野でのコモディティ化が顕著になっています。つい最近まで、時代の先端を行く技術のように思われていたのに、「ITはすでにコモディティ化しており、もはや戦略的価値を持たない」という主張もあります。 
 
実際、パソコンやその周辺機器はもちろん、携帯電話や薄型テレビも、低コストで製造された商品が市場にあふれ、多くの企業が低価格競争を強いられる「コモディティ・ヘル」(コモディティ地獄)と呼ばれる状態に陥っています。こうした状況を打破するために、ブランド戦略やプレミアム戦略など、独自の「脱コモディティ化」を図ることが、企業の最重要課題と指摘する声が多くなっています。 
 
4.コモディティ化脱却戦略 
 
「脱コモディティ化」について考えるとき、コモディティ状態から脱するために、コモディティ化していない新規事業を見つけようとしたり、“変わった”新製品・新サービスを作ろうとする流れがあるようですが、大企業以外にとっては、あまり得策ではないと思います。それは、成功するために、多大な投資と高い技術力が必要になるのが普通だからです。 
 
むしろ、「コモディティ化しているからこそ、その製品・サービス群が買われている」ということを忘れないことが重要と思います。 
 
上述したように、コモディティ化は、市場に流通している製品・サービスが提供者ごとの個性を失い、消費者にとってはどこの製品・サービスを購入しても大差のない状態のことです。“commodity”には「日用品」のほかに「必需品」という意味もあって、生活・産業に欠かせないもの、生活・社会・産業にとって無くては困るものも指しています。すなわち、似たり寄ったりで個性を失って一般化しているというマイナス面と、必要欠くべからざるものというプラス面の、2つの意味があることに注意しておくべきです。 
 
「コモディティ化」によって引き起こされる現象、それは上述したように「価格競争」です。顧客の選択肢は「価格」のみに変わり、提供者同士の価格競争が起こります。すると価格が下がりますので、顧客側からすると買いやすい状態になり、さらにその製品・サービスが広まり、一般層までがその製品・サービスを買うようになっていき、市場はその適正規模まで拡大していきます。市場は拡大しますが、競争が続くことで価格低下が続き、コストをそれ以上に下げない限り利益が縮小していきます。 
 
コモディティ化が引き起こされる原因の第一は「模倣」です。他社の良いところを真似して取り入れる、ということをほぼ全ての会社がしますので、それによって似たような製品になり、市場の製品の全てが特徴がない状態になっていきます。第二の原因は「供給過多」です。市場が大きくなれば参入企業も増え、それにより市場に出回る製品・サービスが増え、結果的に購入者よりも供給者の方が多くなってしまうことになります。 
 
このような現象を知ると、コモディティ化は事業にとって最悪なことのように思えます。でも、この節の最初に記述した「コモディティ化しているからこそ、その製品・サービス群が買われている」ということ、そしてコモディティには「必需品」という意味もあることに思いを巡らせてほしいところです。 
 
コモディティ化した製品・サービスが持つ特徴には、「顧客数の多さ」と「使用頻度の高さ」があります。多数が購入する「大衆品」であり、よく使う「日用品」であるということです。少数派がたまにしか買わない製品・サービス以外については、市場が大きいという点に注目をして、ここから少しのシェアを獲得していく、低価格戦略以外のビジネスモデルを考えるのが正論ではないでしょうか。 
 
そもそも、今はごく少数しか買っていないが、いずれ多くの人が買うようになるような、将来期待が持てる成長市場市場というものは、「コモディティ化に向かっている」市場と言えます。コモディティ化を毛嫌いするのではなく、このような市場で逞しく生きていける道を探したいものです。 
 
コモディティ化から脱却するには、いわゆる「製品・サービスの価値」の向上によって差別化を図ることが本筋です。しかし、これには多くの資金とノウハウ・技術が必要です。そのような実力をもつ企業は、顧客価値向上による差別化戦略を進めるべきでしょう。 
 
それほどの体力のない企業はどうすべきでしょうか。もちろん「価格競争」に巻き込まれてしまったら将来はありません。 
 
重点志向と称して「客層の絞り込み」を図るのは得策ではないでしょう。単に、顧客数が減るだけです。そもそもコモディティ化した製品・サービスは多くの顧客層を対象としています。大きな市場という意味での「コモディティ化された市場」を対象にし続けることが重要です。 
 
そのコモディティ化された市場で、他社との“つまらない”競争をやめるべきではないでしょうか。価格競争はもちろん、機能・性能の競争、ブランド競争、付帯サービスの競争など、他社が打ち出してくる差別化競争に巻き込まれないことです。競合他社と一緒になって、「うちはもっとすごい」とか「こんなこともできます」などという、軽薄な競争はやめるべきです。コモディティ品をひねくり回して、“変わった”製品・サービスに見せる努力をしても自社のターゲット市場を縮小させるだけです。 
 
むしろ、「競争がないニーズを見つけること」にこそ努力を注ぐべきと思います。製品・サービスはコモディティ化していても、対応の仕方によっては、それは問題となりません。水のない砂漠でごく普通の水が価値あるものになり、深夜にどこにでもある商品を買いたいと思う人がいるのでコンビニが成長しました。どこにでもある商品、同じ内容のサービスでも、夜間の買い物需要という砂漠に対応した、ということです。 
 
コモディティでも構いません。コモディティでないと、市場が小さくなります。誰も一般的に買っていないようなサービスは売れるわけがありません。コモディティになっているものを、満たされていない需要に対応するから付加価値が生まれるのです。 
 
5.真・品質経営のすすめ 
 
顧客はどうありたいか、顧客は何をしたいか、顧客はどんなときにどんなものをほしいのか、こうしたことに応えることが「顧客価値」の創造であり、提案であり、提供というのであれば、広い視野をもって、ここにこそ焦点を当てるべきです。 
 
品質とは、「製品・サービスを通して顧客に提供しえた価値に対する顧客の評価」と考えるのであれば、「競争優位には品質より価格が重要」という考え方は、大きな誤解と言わざるを得ません。拡大・深化した意味での「品質」による競争優位性を高め、それによって価格だけの競争に陥らずに妥当な価格で売れるようにすること、好ましくない意味での「コモディディ化」を抑え、競合よりも価格低下を抑えることができるような戦略こそが経営の王道ではないでしょうか。 
 
次のテーマは、その「顧客価値」に焦点を当てて、丸山さんが語ります。どうぞお楽しみに。 
 
 
(飯塚悦功)

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