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TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第30回『品質管理と品質保証は同じことですよね』(その1)  (2019-11-25)

2019.11.25

 

「品質管理」と「品質保証」は同じなのでしょうか、異なるのでしょうか。
各社の品質関連部門の名称を見ても、品質管理と品質保証が混在しているようです。
それぞれの会社は、意味の違いを認識して使い分けているのでしょうか。それとも……。

 

今週と次週の2回にわたり、この二つの経営機能の意味の相違、そして日本とISO 9000流の理解の相違、さらには「品質保証」とは何をすることなのか、考えてみたいと思います。

 

 

 

1.日本の品質管理の進展

 

日本の近代的品質管理は1949年に始まったと言えます。
日本は、戦後アメリカから品質管理を学び、SQC(Statistical Quality Control;統計的品質管理)をコアにした科学性を重視するとともに、これに管理における人間的側面への考慮を加えて、製造業を中心に熱心に推進してきました。

 

さらに、1960年ごろアメリカからTQC(Total Quality Control;総合的品質管理、全社的品質管理)という用語を学び、これを拡大解釈して1970年代には総合的な品質マネジメントに仕上げ、1980年にはGDP世界二位の経済大国の基盤になったと世界の注目を浴び、工業製品分野における品質を中心とする総合的な経営アプローチとみなされるようになりました。
そして1990年代半ばには、欧米での呼称にならいTQM(Total Quality Management;総合品質経営)と呼ばれるようになりました。

 

こうした日本における近代の品質管理の歴史のなかで「品質保証」という用語がブレークしたときがあります。
それは1960年ごろのことです。
そのころ「品質管理のドーナツ化現象」と言われる現象が現れました。
ドーナツ化とは「中心がない」という意味です。製造業において熱心に品質管理を推進して10年ほどですが、品質抜きの品質管理が目につくようになって問題視されたそうです。
すなわち、品質管理の手法を使って、原価低減、生産性向上、リードタイム短縮、在庫削減などの改善が盛んに行われるようになり、何とかしたいとの声が起こったとのことです。

 

原価、生産性、リードタイム、在庫の問題は、もとを正せば品質問題に起因することが多いですし、何であれ経営改善に貢献するなら、品質管理の手法を活用することが間違っているということはありません。
しかしながら、深因である品質問題の解決というより、原価や生産性などの問題に直接効いている要因を特定して改善を図るようなアプローチに対し、品質管理のあり方としてこれでよいのかという問題提起があったのです。
品質管理は、品質を維持し向上することに中心を置く活動にすべきだという見解です。

 

そこで、品質のための品質管理、品質中心の品質管理を進めようということで、「品質保証」という用語を使い始めました。
そして、品質保証とは「お客様が安心して使っていただけるような製品・サービスを提供するためのすべての活動」を意味し、それは「品質管理の目的」であり、「品質管理の中心」であり、「品質管理の神髄」である、などと言われました。

 

日本において、品質管理は、1960年ごろまではQC(Quality Control)と呼ばれていました。“control”という英語は監督、統制、管轄、制御というニュアンスを持つ用語ですが、日本ではこの対応日本語の「管理」を効率的・効果的な目的達成活動ととらえ、むしろ英語での“management”に近いニュアンスで理解し、「品質管理」を進めていました。

 

品質保証は、上述したように、この広い意味での品質管理における中心的な活動、品質管理において本来目的とすべき活動、というような意味と受けとめてきました。

 

 

 

2.ISO 9000の世界

 

ISO 9000シリーズが普及し始めたころ、日本においてある種の混乱、ある種の誤解が生じました。
日本の近代の品質管理の歴史や基本的考え方について十分な知識がなく、ISO 9000の世界こそが品質管理の本丸と思いこみ、的外れの持論(≒暴論、誤った解釈)を展開する品質専門家と自称する方々も出てきて、善良な子羊たちを混乱させもしました。

 

ISO 9000シリーズ規格を審議するISO/TC176のタイトルはQuality management and quality assurance(品質マネジメント及び品質保証)です。なぜ、このようなタイトルとなっているか不思議に思いませんか。
ISO 9000シリーズ規格は、品質に関わる組織運営についての用語として、quality management(QM;品質マネジメント)、quality control(QC;品質管理)、quality assurance(QA:品質保証)、quality improvement(QI;品質改善)を取り上げ、
QM = QC + QA + QI
というような図式でこの4者の関係を説明していました。

 

ISO 9000の世界の理解では、QA(品質保証)は、QM(品質マネジメント)の一部です。
それではQC(品質管理)はどうなるのだ、となります。実は、QM、QC、QA、QIという4つの用語のなかで、日本が使ってきた同じ用語と意味が大きく異なるのは、QCとQAです。

 

QCは、ISO 9000の世界の用語法では、抜取検査、デザインレビュー、手順書、内部監査などの、品質管理手法や品質管理活動要素というような意味です。
上述したように、日本は相当早い時期に、品質管理をずっと広い概念と受けとめ、QCという用語を、ISO 9000でいうQMと同じような意味で使っていました。
ISO 9000が日本に導入された当初、このQMとQCの訳語に困り、QMを「品質管理」、QCを「品質管理(狭義)」などと言ってみました。
当時は、QMを「品質経営」というのはおこがましいと感じたからです。
時を経て日本語お得意の外来語をそのままカタカナ表記にする方法を採用して「品質マネジメント」を訳語にあて、繰り返し使っているうちに違和感がなくなり、いまではmanagementを「マネジメント」、controlを「管理」と訳すようになりました。

 

ISO 9000でいうQAとは、「品質要求事項が満たされるという確信を与えることに焦点を合わせた品質マネジメントの一部」という意味です。この意味の本質を理解するためのポイントは2つあります。第一は「品質要求事項」の意味です。そして第二は「確信」を与えるためには「実証」が必要、ということです。

 

「品質要求事項」とは、もちろん品質に関する要求事項ですが、その「要求事項」とは「明示されている、通常暗黙のうちに了解されている又は義務として要求されている、ニーズ又は期待」という意味です。
すなわち、仕様等で合意されているか、常識的に満たすべきか、法的な規制に適合しているかであって、顧客の潜在ニーズに応えるとか、Customer Delightなどに関わるニーズ・期待は含まれていません。

 

確信を与えるために「実証」が必要という視点は、日本の品質管理には薄かったように思います。
これから提供する製品・サービスについて実証しなければなりませんので、製品・サービスを提供するシステムが妥当であることを訴えなければなりません。
「私たちはこういう仕組み、プロセスを持っているから大丈夫です。その証拠に品質保証体系図、プロセス仕様書があります。それらは、国際標準に準拠しています。そして、決められた通りに実施しています。その証拠に記録があります。どうぞ見て下さい」というわけです。
証拠を示すことによって「これからもずっとお約束した通りの製品・サービスを提供できますので信頼して下さい。契約して下さい」、これがISO 9000でいう品質保証です。

 

 

 

3.品質管理と品質保証-日本とISOの理解

 

さて、テーマに戻ります。
「品質管理と品質保証は同じことですよね」については、国際的理解において、この両者は異なると考えているし、国際的取引をするのであれば、その概念の相違を明確に理解しておいた方がよいということになります。
とくに「品質保証」については、何が求められているのか十分に理解しておく必要があります。

 

上述しましたようにISO 9000でいう品質保証(quality assurance)の意味は、日本での理解とはずいぶん違っていました。
実際、ISO 9000が日本に入ってきたころ、少し混乱がありました。
日本人が胸を張って、わが社はスゴイ「品質保証」をしていると言っても、何を自慢しているのか通じませんでした。
日本人は、総合的な品質保証、品質管理、品質経営を自慢しているのですが、欧米人から見れば、品質保証をきちんとするとは、仕様通りの製品・サービスを提供している証拠の提示みたいなものですから、こんなことは当たり前で、「いったい何を自慢しているんだ」となります。

 

日本での意味は、お客様との間で明示的に約束しようがしまいが、とにかく徹底的に満足させてやろうとすることです。
ISO 9000での意味は、合意した品質レベルの実現です。
真の顧客満足のためには、仕様通りの製品・サービスの提供では不十分で、日本的な意味での品質保証のための品質マネジメントシステムを構築・運用すべきでしょう。
そして、自慢するには、スゴイ「品質保証」ではなく、TQM、総合的品質マネジメント、真の顧客価値提供マネジメントを実施していると訴求すべきでしょう。

 

ちなみに、顧客満足(customer satisfaction)という用語に対し、日本人が感じるニュアンスと欧米人とのそれはかなり違います。
ISO 9000における定義は、「顧客の期待が満たされている程度に関する顧客の受けとめ方」です。
顧客がどう思っているかであって、満足のレベルには言及していません。
日本では、相当高いレベルで満足した状態を示すと理解するに違いありませんが、ISO 9000の世界での意味が違うのです。

 

そればかりではありません。“satisfaction”は、「満足」という語感より「充足」という感じで、native speakerにどのくらいsatisfyするのかと聞けば“just satisfy”という答えが返ってくるでしょう。例えば、形容詞の“satisfactory”は決して誉め言葉ではなく、優・良・可・不可の「可」の程度です。本当に良ければ“excellent”、“super”、“wonderful”などと言うに違いありません。顧客の期待をかろうじて超えた状態でも、顧客満足と言うのです。

 

それにしても、日本の品質管理の発展において、1960年当時の「ドーナツ化現象」の反省は貴重だったと思います。品質管理という方法論を勉強してきた人々は、このころ「この思想・方法論を原点に返って品質のために使おう。
本当にお客様が喜ぶものを作っていくために使おう」と再確認したのですから。
近代の品質管理の本格的適用の約10年目にして、品質回帰(原点回帰)のような現象が起きたことは素晴らしいことでした。

 

品質管理と品質保証の関係について、日本国内における取引や組織運営に限定したとしても、この2つの用語の概念の相違を理解し、使い分けた方がよいと思います。
品質管理(=品質マネジメント、TQM)とは、品質を中核にした顧客志向の総合マネジメントであり、品質保証とは、その中心的な目的であり、そのための固有の活動を意味する、と理解しておくのが良いでしょう。
その一つは、ISO 9000流の品質保証から学んだ、保証のため、確信を与えるため、あるいは信頼感を与えるために「実証」です。

 

「品質管理」については、このメルマガの全編を通して、その何たるかを語っていますので、ここでは「品質保証」に焦点を当て、それがどのような活動であるのか、次週考察することにします。

 

(福丸典芳、飯塚悦功)

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