活動報告 超ISOメンバーによるつぶやき 第2弾 第12回 青木恒享(その1)
2019.02.12
事務局長の青木です。
本来は黒子役の私ですが、このメルマガシリーズの時だけは失礼して登板させていただきます。
さて、私の方では今回と次回の2回に分けて是正処置についてつぶやきたいと思います。
今さら是正処置について十分なご経験をお持ちの読者の皆様方に申し上げるのは憚られるものではありますが、私自身が経営者として日々の対応をしていく中で、そして研修講師を時々する中で、わかっているようでも、是正処置への対応がうまくできているかというと、なかなかここには一つの大きなそして厚い壁が立ちはだかっていることをよく感じます。
その点に着目して、以下に論じてみたいと思います。
まず、是正処置と修正の違いについての理解が、簡単なようでやはり難しい、という現実が大きく立ちはだかっています。
修正は応急処置のことであって、原因をしっかり追求して、真因に手を打つ是正処置とはその難易度も深さも全く違うものであることを、確実に押さえておくことがとても重要です。
頭では皆さん分かっておられるのですが、ではそれをいざ、実践しようとしたとき、あるいは社内研修の講師として伝えようとしたとき、本当にその違いが認識できているか、あるいは教えきれているか、という視点であるとともに問題意識です。
私自身がよく例として持ち出すのが、ある時社内(工場内)を歩いていて、何かにつまづいて転び、結果として出血するようなケガを負った、という事例です。
この時何をするかといえば、すぐさま状況を判断し、救急車を呼ぶことまでするのか、社内で止血処理をするだけで様子見をするのか、という判断のはずです。
ここまでの処理は一刻も早くこなす必要がありますから、当然、修正だ是正だ、といったQMS(仕組みの維持)の観点での対応は何もないまま進んでいきます。
そして例えば、幸いそれほどの傷でもなく、腫れも出てこない状況なので、社内で消毒をしてあとは絆創膏をはっておくだけで大丈夫であろう、となった場合、ようやく次の段階に入っていきます。
そして、さあ、如何でしょう。
ここまでの処理が、規格で言う修正、つまり応急処置である、ということにはどなたも異論がないはずです。つまり処置は緒に就いたばかり、ということです。
ところがこのレベルであとは対応したとしてもせいぜい簡単な事故報告書を書き記す程度で終わりにしてしまう、というケースが圧倒的に多いのではないでしょうか。
そこまでの対処で終わりにしては法令違反である、ということではもちろんありません。
しかしせっかくISOを勉強し、活用されようとしている方々であれば、さすがにこのレベルでおしまい、ということではさびしすぎることは私が申し上げずとも感じていただけると思います。
そうです、この状態では、修正(応急処置)は完了した、とは言えても、是正処置については全く取り組むことができていない、ということになるからです。
下記にISO9001の是正処置に関する要求事項を掲載しておきます。
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10.2 不適合及び是正処置
10.2.1 苦情から生じたものを含め,不適合が発生した場合,組織は,次の事項を行わなければならない。
- a) その不適合に対処し,該当する場合には,必ず,次の事項を行う。
1) その不適合を管理し,修正するための処置をとる。
2) その不適合によって起こった結果に対処する。
- b) その不適合が再発又は他のところで発生しないようにするため,次の事項によって,その不適合の原因を除去するための処置をとる必要性を評価する。
1) その不適合をレビューし,分析する。
2) その不適合の原因を明確にする。
3) 類似の不適合の有無,又はそれが発生する可能性を明確にする。
- c) 必要な処置を実施する。
- d) とった全ての是正処置の有効性をレビューする。
- e) 必要な場合には,計画の策定段階で決定したリスク及び機会を更新する。
(以下 略)
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ここで大事になってくるのはb)項です。
『不適合の原因を除去するための処置』となっている部分をしっかり踏まえ対応をすることが何よりも大事なことである、という認識が必要な点は大丈夫ですね。
是正処置は、応急処置とは違い、不適合の原因の除去をするものである、ということはほとんどの方が理解しているはずです。
そして上述の、ケガをして出血し、その対処として消毒及び絆創膏による処置、という話であれば、応急処置は取ったものの、原因の除去つまり是正処置はまだこれから、ということも皆さんご理解のことと思います。
しかしながら、実際の業務では、この段階で是正処置完了としてしまったり、あるいはこの先の本当の意味での是正処置の検討、そして対処は難しいから、上司に何か言われるまでは放っておいてもよいか、ということになってしまっていることがあなたの周りでは本当に起きていないか、ということをくどいようですが、今一度考えてみてください。
実際に社内で出血にまで至るような怪我をする人が出た場合、止血をしてホッとする、という状況になることは容易に想像がつきます。ですが、ISO9001でも求めていることは、人命に危険が及ぶような大きなものではなくても、そのような事故が起きた場合には、二度と同様事象がおきないように、なぜその事故が起きたかの原因分析を確実に行い、表面的な問題への対処(この場合は、状況判断(例えば骨折していることはないか)と止血)で済ませることなく真の原因の明確化とその部分への対処です。
いわゆる「なぜなぜ分析」をしっかり行って、根本原因に対処する、ということです。
例えば先ほどの出血するような事故について、
「なぜそのような怪我をすることになったのか?」
と確認してみると
「床に油が落ちていて、滑ってしまったから」
という状況が判明したとします。
すると次には
「なぜその場所に油が落ちているような事態が発生したのか?」
と考え、調査を進めると
「廃油を運ぶ際に、台車を使わずに、両手に持って運ぶと共に、廃油を入れる容器に目一杯の廃油を入れて対応した時が●月●日に発生していた」
ということが判明したとします。
すると次には
「なぜ台車を使って運ばないのか?なぜ容器に目一杯入れるのか?」
ということになります。
ここまで来ると、取るべき対処策として、廃油は容器の7分目までしか入れない、という手順が存在しなかった。故に担当者が個人的判断で対処していた。台車についても、工場内に1台しかなく、他の人が使っていると、その返却がなされるまで待っていると非効率なので人力で運ぶケースが時々発生していた、ということがわかってくるはずです。(あくまで一例です)
そうするともうご説明をするまでもなく、どのような対処が必要かお分かりになりますね。
これを読まれた読者の方々も、おそらくそんな簡単なことを今さら・・・・
という気持ちが芽生えたのではないかと思います。
釈迦に説法で申し訳ないのですが、一呼吸おいて冷静になって考えていただけると嬉しいのですが、ではこの用語の意味の理解及びロジックについて、全社員の人が我がこととして理解し、実践できているかどうか、です。
「分かっている」ということと「出来る」ということにはずいぶんと力量差がある、ということはお聞きになったことがあると思います。
あくまで組織経営の実践においては「わかる」だけでは不足で「出来る」ようになってこそ一人前です。そのレベルにまで引き上げるための部下教育、社員教育が出来ているか、そして部下、社員の方が育っているかが皆様には問われているとお考えください。
何パーセントの方がハッとされるかは想像が全く尽きませんが、わずかではあるかもしれませんが、ハッとされた方がいらっしゃるのではないかと僭越ながら考えております。
私自身も自社での経営実践の中で、お恥ずかしながら「えっ」という時が起きている故のつぶやきです。
是正処置についてもう少しつぶやきたく、次回に続けさせていただきます。
(青木 恒享)