活動報告 超ISOメンバーによるつぶやき 第2弾 第11回 長谷川武英(その2)
2019.02.04
マネジメントシステムにおけるコミュニケーションの役割
“コミュニケーション”が日常生活の中では無論のこと、会社の事業を営む上でもいかに重要であるかということをISOのマネジメントシステムに関連付けて、つぶやいてみたいと思います。
ご存じのとおり“コミュニケーション”に関する要求事項は、以前からISO 9001にもISO 14001にもありましたが、現在の2015年版では次のような記述になっています。
ISO 9001:2015 7.4コミュニケーション
組織は、次の事項を含む、品質マネジメントシステムに関連する内部及び外部のコミュニケーションを決定しなければならない。 a) コミュニケーションの内容 b) コミュニケーションの実施時期 c) コミュニケーションの対象者 d) コミュニケーションの方法 e) コミュニケーションを行う人 |
ISO 14001:2015 7.4コミュニケーション
7.4.1 一般 組織は、次の事項を含む、環境マネジメントシステムに関連する内部及び外部のコミュニケーションに必要なプロセスを確立し、実施し、維持しなければならない。 a) コミュニケーションの内容 b) コミュニケーションの実施時期 c) コミュニケーションの対象者 d) コミュニケーションの方法 コミュニケーションプロセスを確立するとき、組織は、次の事項を行わなければならない。 -順守義務を考慮に入れる。 -伝達される環境情報が、環境マネジメントシステムにおいて作成される情報と整合し、信頼性があることを確実にする。 組織は、環境マネジメントシステムについての関連するコミュニケーションに対応しなければならない。 組織は、必要に応じて、コミュニケーションの証拠として、文書化した情報を保持しなければならない。
7.4.2内部コミュニケーション 組織は、次の事項を行わなければならない。 a)必要に応じて、環境マネジメントシステムの変更を含め、環境マネジメントシステムに関連する情報について、組織の種々の階層及び機能間で内部コミュニケーションを行う。 b)コミュニケーションプロセスが、組織の管理下で働く人々の継続的改善への寄与を可能にすることを確実にする。
7.4.3外部コミュニケーション 組織は、コミュニケーションプロセスによって確立したとおりに、かつ、順守義務による要求に従って、環境マネジメントシステムに関連する情報について外部コミュニケーションを行わなければならない。 |
これでお分かりのとおり、ISO 9001の要求事項はISO 14001に比べて、よりシンプルな内容になっています。
アンダーラインを付した部分の重さが違うように思えます。
それ故の理由かも知れませんが、QMSとEMSの側面の違いはあるとしてもISO 9001の方はISO 14001に比べて審査や内部監査等において、注目度と優先順位が低いのではないかという実感が私にはあります。
プロセスアプローチにより前後のプロセス及び関連する他のプロセスとの間の有効性を確認する方法として、コミュニケーションを通してマネジメントシステムがどのように機能しているのかということに、もっと注目すべきと思うのですが、特にQMSにおいては、このコミュニケーションの有効性に対する認識が気になります。
日本のTQC活動の中で、「ホウレンソウ」(報告・連絡・相談)という言葉がよく使われていました。
私はこれがコミュニケーションの神髄だと思っています。
組織ではコミュニケーションを通して今起こっていることが「見える化」(共有化)され、不祥事などが起こりにくい「風通しのよい会社」につながっていくのだと思っています。
コミュニケーションのツールとしてEメールが普通の現在では、隣の人とも会話ではなくEメールでやり取りしているという状況が常態化しており、真の情報が正しく伝わっているのか心配しています。
この傾向は家庭においてもそうですし、会社においては、例えば朝礼,打ち合わせなど部門内のミーティング、部門間をまたぐ会議体などでフェースtoフェースによるリアルタイムのコミュニケーションの機会が益々少なくなっています。
このようなコミュニケーション形態の進化には逆らえませんが、適正な事業運営を行うためには、縦横、すなわち組織内では、部門内、部門間、階層間、外部に対しては顧客と利害関係者とのコミュニケーションのプロセスを確実にする必要があります。
ITの発達により、映像コミュニケーションサービスで“ZOOM”というTV会議を超えたツールなども普及してきており、一堂に会さなくても情報の共有化やリアルタイムでの決定が容易にできるようになってきていますが、大事なのは、コミュニケーションの中身と質です。
一昨年の秋ごろから発覚した品質不祥事は、留まるどころか日本を代表するような大企業において次から次へと発覚しています。
私が関係している活動の中で、これらの品質不祥事の事例について分析を行ったところ、それらの品質不祥事が起きた会社では、その背景に、コミュニケーションの欠如が共通的にあったということが分かりました。
それは、一部の担当者だけで行っていたため他部門では分からなかった、経営層に現場の声が届かなかった、上司に報告したが、それが共有化されずもみ消された・・・とか、会社の部門内及び階層間でのコミュニケーションプロセスが機能していなかったという現実が分かったのです。
企業不祥事は極端な例としても、組織では情報を共有化し、部門の役割責任において必要な展開を行うことが事業運営において最も大事なことです。
2015年版以前のISO 9001では、内部コミュニケーションの要求事項の「QMSの有効性に関しての情報交換が行われることを確実にする」に基づいて、会議体などを内部コミュニケーションのプロセスとして特定している組織が多かったと理解していますが、2015年版になってもISO 9001の要求事項は基本的に変化してなくプロセスを確立するという表現も入っていないため、EMSに比べ、コミュニケーションが軽視されているような気がしてなりません。
そのような背景からコミュニケーションのプロセスに関して2015年版の「リスクに基づく考え方」が、第3者審査や内部監査においても、あまり重要視されてないのではと思っています。
私自身も、品質不祥事の事例分析を行う前は優先度が低かったことは事実です。
昨今、発覚している品質不祥事を考える時、このコミュニケーションについてはISO 14001並みのより具体的な要求事項にブレークダウンして、組織の産業分野、属性などの特性に基づいてコミュニケーションプロセスを決定し、QMSの中で展開する必要があるのではないでしょうか。
そのヒントの一つとして、組織内のコミュニケーション機能を、要求事項として効果的な形で示している自動車セクター規格(現在はIATF16949:2016)について紹介してみたいと思います。
自動車セクター規格(現在はIATF16949:2016)の要求事項では、従来から部門横断機能展開(CFT活動…Cross Functional Team)による活動が重要なプロセス(例えば、設計開発におけるFMEAなどのリスク分析)において要求されています。
これは自動車産業の特性から、多岐に亘るサプライチェーン、製品開発、複雑な製造プロセス、多くの部品の納入同期性などから必然的なものであり、自動車産業においては以前から実践されてきたものです。このCFTは組織内のコミュニケーションでは最も効果的な手段と考えています。
すなわち、CFT活動は、計画、目標、問題点の共有化を行い、リアルタイムで意思決定を行って、関連プロセスの機能 (部門) における活動を効率的、かつ迅速に展開するための手法となっています。
例えば、自動車産業のCFT活動の一つとして、朝一番で関係部門の代表者が一同に集まり(製造業の場合、多くは現場において)、前日に起こった問題やプロセスの変化点などの情報を共有化し、各部門における対応について意思決定するということが日常的に行われています。
これは、問題点を始めとして、情報をリアルタイムで共有化するコミュニケーションプロセスの最も効果的な手法だと考えています。
これが、まさに「ホウレンソウ」の実践と思っています。
このつぶやきで私が言いたかったことは、
ISO 9001に規定された“コミュニケーション”の目的を理解し、自社組織の特性から「リスクに基づく考え方」で、どのようなコミュニケーションプロセスが必要かを決定し、それらのプロセスを日常的に運用することで組織内に「見える化」が促進され、課題やリスクが共有化される結果、問題への対応がタイムリーかつ適切になり、都合の悪いことを隠さない「風通しのよい会社」になり不祥事防止にも寄与するのではないかと思うのです。
以上