活動報告 超ISOメンバーによるつぶやき 第2弾 第6回 土居栄三(その1)
2018.12.25
「ISOの仕事」の「価値」を考える
この「つぶやき」が本年最後の配信とのことです。
今年は2015改正対応の締め切りということで、ご苦労をされた方も多かったことでしょう。
規格改正対応のたびに、「ISOの仕事」の大変さや、〝その仕事がなんらかの「価値」を提供しているのか〟について、様々な意見が出されます。
中には、「ISOの認証を取得することは重要であっても、それを取得するための〝ISOの仕事自体〟は価値を生むものではないのだから、いっそ外部委託してコストダウンする方がよい」という意見もあります。
外部化を自らの事業経営判断として選択する組織もあることでしょう。
外部化をするか内部でそれを担うかは、各組織が自らの判断で選択すべき事項ですが、それでは、「ISOの仕事」を「外部化しないことを選択した組織」にとって、その仕事はどのような意味をもっているのでしょうか。
それは事業経営に何らかの「価値」を生み出し得るものなのでしょうか。
誌面の都合で、ここでは二つに絞って考えてみます。
(1)自社の仕組みの見える化・点検・改善 ([ ]内はISO9001、及びISO9000の項番)
①「ISOの要求事項に従って・・・」
ISO9001は「この国際規格の要求事項に従って ・・・ 品質マネジメントシステムを確立し、実施し、維持し、かつ、継続的に改善[4.4.1]」することを要求しています。
「ISOの仕事」とは、第一に、〝ISO要求事項に従ってシステムを確立・実施・維持・継続的改善〟することです。(以下、〝要求事項に従ってシステムを確立〟と表記します)
但し、その際に規格は、「様々な品質マネジメントシステムの構造を画一化する」こと、「文書類をこの国際規格の箇条と一致させる」こと、及び「この国際規格の特定の用語を組織内で使用する」ことを意図していません[序文]。
さらに、2015年版では、「組織の事業プロセスへの品質マネジメントシステム要求事項の統合を確実にする[5.1.1c]」ことが要求されています。
以上のことから、〝要求事項に従ってシステムを確立〟とは、組織の事業経営の中で機能しているマネジメントシステムの構造・手順書・記録・用語の中にISO9001の要求事項を統合し、機能させるということを意味しています。
言い換えれば、組織のマネジメントシステムの中にISO9001の要求事項が機能しているかを点検し、欠落があれば補完せよ、ということです。
②自社のマネジメントシステムの点検と補完
上記の作業は、自社のマネジメントシステムを「要求事項を満たした製品及びサービスを一貫して提供する能力」という視点で点検・改善することに他なりません。
システムとは「相互に関連する又は相互に作用する要素の集まり[ISO9000、3.5.1]」です。
〝マネジメントシステムが確立〟しているとは、必要な「要素」が要件を満たして十分に存在していて、必要な「関連・作用」が確立(=連動が機能)している状態のことであり、そのような状態であってはじめて、マネジメントシステムは成果につながります。では、わが社のマネジメントシステムはどうなっているでしょうか。
例えば事業・経営に関わる目標を設定しない組織はないでしょうが、その目標は、2015改正で新たに要求されている「e)監視する、f)伝達する、g)必要に応じて、更新する[6.2.1]」などの要件を備えているでしょうか。あるいは、組織で働く人々が関連する品質目標について「認識をもつことを確実に[7.3]」できているでしょうか。
また、品質目標については新たに達成させるための計画として「a)実施事項 b)必要な資源 c)責任者 d)実施事項の完了時期 e)結果の評価方法[6.2.1]」の決定が要求されていますが、これらが適切に運用され成果をあげているでしょうか。
ISOを「モノサシ」として自社のマネジメントシステムを点検し、その結果を活かして、自社が当面する課題達成のためのシステムの改善点を明確化することは、事業経営の強化・改善につながります。
③ISOは自社の仕組みを見える化し強くする
どんな組織にも既存のマネジメントシステムがあるといわれますが、多くの場合、部署間・事業所間で、あるいは課題(品質・安全・情報など)によってその確立度合い(どの程度までルール化されているか)には格差があるし、そのようなマネジメントシステム全体についての点検・見直し・改善がなされる機会はめったにないと思われます。
また、そもそも、マネジメントシステムが見直し・改善されるためには、それが「見える化」されていなければなりません。
私は、長らく小売業をはじめとするサービス業でISOマネジメントシステムに関わってきました。サービス業の場合、ISOの認証取得を通じて初めて、「ISO要求事項に関連して実際の仕事がどうなっているか」を洗い出すことができ、自組織のマネジメントシステムが見える化できたというケースも少なくはないでしょう。
「ISOの仕事」は、自社のマネジメントシステムの見える化・点検・改善課題の明確化という「価値」を生むことができる仕事なのです。
(2)「信頼」という「価値」を高めるために
①認証の価値は信頼
認証を取得するということは、「組織が、顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を満たした製品及びサービスを一貫して提供する能力をもつことを実証する[1.適用範囲]」ことです。
また、ISO17021(認証機関に対する要求事項)は、「認証の最終的な目標は,全ての関係者に,マネジメントシステムが規定要求事項を満たしているという信頼を与えること」であり、「認証の価値は,第三者による公平で力量が確保された審査によって確立される,社会の信頼及び信用の程度」であると規定しています。
昨今の超大手企業も含む事故や不祥事の連続を背景として「不信」が拡大しており、製品・サービスに対する「信頼」を社会的に再構築することが求められています。
そのような中で、ISOの認証取得は、「信頼」の手段の一つであるはずです。
但し、認証制度に対する信頼を高める努力がなされることを前提として。
②信頼につながる認証のために
認証制度への信頼を広げることは、認定機関・認証機関をはじめとして認証制度に関わる全ての人々に課せられた課題ですが、認証を受ける組織には、自社の認証の価値を高める責任があります。それは、組織自身のためでもあります。
結果として「認証」を取得しただけでは「信頼」は生まれません。
そのために必要なことを箇条書きで述べるならば
1.「見せるための仕組み」ではなく「仕事の仕組み」で認証を得る
審査の時にしか使用しない文書や記録類は廃止して、実際の仕事の仕組みで審査を受け、「仕事が適合している」ことの証明を得る。
2.そのような審査ができる審査員・審査機関の審査を受ける
「安かろう・悪かろう」の表面的な審査ではなく、実際の仕事を審査する能力を持った審査員を要求し、必要であれば審査機関を変える。
3.認証の価値を伝える努力・工夫をする
自社が「信頼」を追求していることが顧客に分かりやすく伝えられること。そのためにも、そのことが社内に共有され自組織への信頼となるようにする。
・・・ 以上、せっかく取得する認証がより価値あるものであるために、「ISOの仕事」としてなすべきことは少なくないと考えます。
「ISOの仕事」とは「ISOのための仕事」ではなく、仕事の仕組みをより良くし、組織の価値を高める「組織のための仕事」です。来る年に、この仕事が、より多くの価値を生むことを祈念します。
(土居 栄三)