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活動報告 超ISOメンバーによるつぶやき 第2弾 第2回 村川賢司(その1)

2018.11.26

 

 

今回のつぶやきは、村川賢司が2回に分けてお届けします。

 

 

品質問題を考える(その1):同じ過ちを繰り返さない

 

 

■平成後に大切にしたい価値観

2019年は平成から新しい年号に改まります。

中高校生を対象に「平成後に大切な価値観」を讀賣新聞社がアンケート調査したところ、二万一千人近くの回答を得ました。

最も多かった価値観は「平和」、次いで「安全」、そして「安心」と続きます。

未来を担う若者の穏やかな暮らしへの希望が垣間見られる半面、現代社会に対する不安な気持ちも窺えます。

私たち大人は、安全・安心な社会の実現への責任を本当に果たしているのだろうか、という疑問が脳裏を過ぎりました。

 

 

■二つの品質問題

私は建設業界に長く籍を置いています。

今年発生した建設事業に関わる二つの大きな不祥事-広く捉えれば品質問題-を事例に、品質管理として何ができるかに思いを巡らしました。

一つ目は東京都多摩市のビル建設現場で竣工間際に起きたウレタン火災事故、二つ目は免振・制振装置の数値改ざんを取り上げ、2回にわたりメルマガで考えます。

 

経営トップが再発防止を徹底したと表明した後も、第三者委員会の報告書が出された後も、産業界で次々と発覚する不祥事の実態は、その根深さや解決の難しさを物語っています。

断片情報では結論を見誤る懸念が否めませんので、同様の経験から私の会社が学んだ品質問題を防ぐための品質管理の実践をご披露します。

 

 

■品質管理は同じ過ちを二度と繰り返さないこと

ビル建設現場のウレタン火災事故では、作業員5名の尊い命が失われました。

この会社は昨年6月にも東京都江東区の工事現場でガスバーナーによるウレタン火災を発生し、作業員一人が全身やけどを負う痛ましい事故を起こしたと報じられています。

 

私が特に残念に思ったのは、建設内容、建設場所などが異なるとはいえ、人命にかかわる同種事故の再発防止をできなかったということでした。

 

品質管理は同じ過ちを二度と繰り返さないこと、

そのために、経験を事実・データで次の仕事に活かすこと、

が大切であると、品質管理の先達から教えられました。

しかし、現実には大変に難しいことをこの不祥事(品質問題)は示しています。

 

 

■悲劇の繰り返しは許されない

私の会社も、この品質問題とまったく同じような辛く悲しい経験をしました。

1970年代後半、山形県のトンネル現場で台風通過時に坑内が負圧になりメタンガスが染み出して爆発し、9名の尊い命を失いました。

この惨事では、隣工区で起きた同種事故の教訓を活かせませんでした。

この翌年、山岳トンネルとして建設当時世界最長の大清水トンネル貫通後、施工現場で火災を発生させ、社員と作業員16名の尊い命をまたもや失いました。

 

重大災害は、本来幸せに暮らせるはずだった家族や友人など多くの人々を巻き込み、覆い尽くせない悲しみをもたらします。

 

 

■TQM(総合的品質管理)との出会い

悲劇の繰り返しは事業を営む者にとって許されないという強い危機感を経営トップは募らせました。

このとき、品質管理の指導的立場にあった経営者からTQM(当時TQC)を勧められ、ワラをもつかむ思いで取組みが始まりました。

とはいえ、TQM実施は思うようにはかどりませんでした。

個別受注の一品生産、生産現場が全国に点在、工事ごとに生産場所・方法・組織が変わるなど、建設業の特殊性を隠れ蓑にして製造業向けのTQMは建設業に向かない、と誤解したのでした。

 

幸運だったのは、経営トップがTQMの大切さを信じて旗印を降ろさなかったことです。

その後、一品受注産業のTQMを模索し、建設業でも実践できることが次第に理解されていきました。

 

 

■健全な企業文化を育むTQM

TQM実施によって学んだことは、時間がかかるものの、健全な企業文化をDNAとして企業に埋め込む体質改善にTQMの役割が大変に大きいということでした。

 

健全な企業文化を育むために試行を重ねた私の会社の取組みを次に紹介します。

第一は、正しいことの王道の道筋となるTQMの思想、QC的ものの見方・考え方の理解。

第二は、TQMを実践できる能力を培う人材育成の仕組み作り。特に、問題解決・課題達成の能力を養う品質管理教育の実施。

第三は、これらに基づく継続的な改善の実践。

第四は、全員参加で事業成功を促進する日常管理・方針管理の仕組みの確立。

第五は、TQMの主要な目的となる品質保証による顧客価値創造。

これらが連鎖的に機能することで企業の持続的成功を促すことを、私の会社は悟りました。

 

第五の要素の品質保証の実効を上げるには、第一から第四の要素の有機的なつながりが不可欠なことから、企業内で幾世代にもわたる取組みが求められます。

私の会社は、不祥事を防ぎ、健全な事業を遂行していく企業文化をDNAとして企業内に埋め込むことの大切さを学習したわけですが、体質改善は一朝一夕では実現できず、弛むことなく多くの試行を積み重ねました。

 

 

■品質保証体系図(QA体系図)の形骸化を防ぐ

ウレタン火災事故に再び思いを巡らすと、品質保証システムが脆弱ではいけないこと、端的に言えばQA体系図が形骸化しないことが重要になります。

 

過去の重くかつ貴重な経験を活かした再発防止策が、QA体系図とこれを構成する施工標準や作業標準、帳票などにきちんと盛り込まれたのだろうか、

そして、工事現場でこれが活かされたのだろうか、

を真摯にかつ深くレビューすることで、次第に形式的でない実質的なQA体系図へと深化していきます。

 

また、建設工事では日常的に変化が発生し、変更もよく行われます。

頻繁に発生する変化や変更に対して、建設工事への影響評価やリスク評価の方法がQA体系図やその実施に欠かせない標準類、帳票類に正しく規定されているか、

規定されていたら、その通りに業務が遂行されているか、

などが形骸化していないことも重要です。

 

事業環境が激変する現代社会では、実効性の高いQA体系図の確立は困難さを伴い、油断していると形骸化します。

従って、品質保証にかかわる仕組みや標準類の問題点を摘出し、改善でより良くしていくことが、品質保証に基づく顧客価値創造で大切になります。

このためには、従業員一人ひとりの問題意識と問題解決能力を高めていく品質管理教育が不可欠と言えます。

 

QA体系図は、一般的に、縦軸に事業領域全般を対象にした品質保証のステップ、横軸に品質保証にかかわる部署・会議体・標準類を配置したマトリックスを作り、各セルに品質保証に必要な主要実施事項が記載されます。

品質保証活動の要諦が透明性をもって表明されているQA体系図は、経験を活かすための仕組みであり、これに基づいた実務を通して従業員が品質保証を学習、習得、体質化していくことができます。

 

経験を次の仕事に活かすツールとしてQA体系図を実質的に活用できたならば、同じ過ち―悲しいできごと―を繰り返さないで済んだかもしれないという思いが募りました。

 

 

次回に続けます。

 

(村川 賢司)

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