昨今の品質不祥事問題を読み解く 第7回 自動車産業と品質不祥事(1) (2018-6-25)
2018.06.25
前回の 『品質不祥事を切る!』に続いて、今回はより具体的なお話しに進みましょう。
最近、次々と発覚している品質不祥事について、今回は自動車産業に特化した品質不祥事に関して考察してみたいと思います。
そこで、自動車産業における不祥事を2000年まで遡って検索したところ、私が月刊誌「アイソス」に寄稿した記事を思いだしました。
自動車産業の品質不祥事でどんなことが起こっていたのかと、当時を思い出しながら改めて読んでみました。
① 2000年11月号 No.36:自動車リコール隠しはグローバルスタンダードで防げるか?
我が国でリコール法が制定された時点から30年にわたる市場クレームの隠蔽による組織的なリコール隠しが発覚
② 2004年5月号 No.78:リコール隠しをISO/TS16949で検証する-問題はクレームを製品欠陥として認識するまでのプロセス
トラックの車輪脱落事故で死者、刑事事件に発展。会社は当初は整備不良と主張していたが、その後、構造欠陥が原因としてリコール実施
上記はいずれも三菱自動車のリコール隠しが社会的な問題としてマスコミで大きく報道された事件でした。
この事件で三菱自動車は“リコール隠し”のイメージが定着し、その後の長い間、苦難の道をたどって来ました。
実は、その前の1997年に富士重工業(スバル)とダイハツ工業がリコール隠しで運輸当局から摘発されています。
その時、富士重工業(スバル)にISO9002の認証を与えていた審査登録機関は、「ISO9000は製品の品質システムに対する認証であって、製品自体の品質を保証するものではないので、審査でシステムに問題がなければ認証は与える」との見解を伝えていました。
この意図は製品保証の規格ではないということを言いたかったのでしょうが、昨今次々と発覚している品質不祥事を、進化したISO9001のQMS規格で評価すると、現在では、この発言は受け入れられるものではないでしょう。
上記の2000年11月号の記事の内容は省略しますが、まとめとして私は以下を提唱していました。
1.企業リーダーシップの倫理
2.製品及びシステム欠陥防止の観点での「内部品質監査」の充実
3.第3者監査における法規制も含めた専門性の高い審査員の確保
4.認証基準にQS-9000(米国ビッグ3が作成したISO9000由来の自動車セクター基準で現在のIATF16949の元になっている)のように、認証取消しの罰則を盛り込むこと
2番目の2004年5月号の記事は、事象をISO/TS16949の要求事項にそって検証して、QMS要求事項のどこに問題があったのかを分析したものでした。
こちらのまとめとして、「内部監査を充実させ、経営者が内部監査に独立性、客観性の権限を与えると同時に内部監査には必ず法規制項目を含め、プロセスのアウトプットが実際の現場、現物、現実で検証されることを強調すると同時に、原点は企業倫理が最大の再発防止策になる」と結んでいました。
それから現在に至るまで、直近の10年を遡ると、国内、海外の自動車業界を含めてマスコミが報道した重大品質問題と品質不祥事には次の事件があります。
・2010年トヨタ自動車:回生ブレーキの制御プログラム、 米国運輸当局による公聴会など米国を舞台に厳しい状況が連日マスコミを賑わせた。豊田社長が米国で謝罪
・2014年 米国GM:エンジン点火スイッチの欠陥を10年放置、事故による死者、負傷者、260万台リコールと巨額の制裁金と賠償金発生
・2014年 タカタ:エアバッグのインフレーター不具合により作動時に金属破片が飛び散り死者、負傷者
日本の自動車メーカー、海外の自動車メーカーがそれぞれの国でリコール届を行っており車種も多岐に亘っているため、リコール数は米国だけでも6900万個、米国以外の6000万個と合わせ世界で1億2000
万個といわれている。戦後、我が国最大の負債を負って企業破たん。
・2015年ドイツのフォルクスワーゲン:車両型式認証の排ガス試験で使われるベンチテスト走行モードのソフトウエアプログラムの不正な改ざんにより規制値虚偽、リコール、主に米国、ECで巨額の制裁金と賠償金が発生
・2016年 三菱自動車:燃費データ改ざんが軽自動車OEM先の日産から発覚、国交省による調査で過去の燃費テストにおいても改ざんがあったことが判明。過去のリコール隠しと度重なる企業不祥事に対する不信が社会問題化
スズキ:燃費測定方法の不正
・2017年 日産自動車、日産車体:完成車検査において無資格要員が実施していた。日本の道路運送車両法に対する違反行為
スバル:日産と同様
上記の事件には、それぞれ特有の状況が考えられますが、今回のテーマで、これらの不祥事に共通する要因を分析してみようと考えました。
自動車産業は、それぞれの国の安全・環境基準に基づく法規制、ユーザーの使い方、道路事情、整備、燃料の質なども含めたインフラストラクチャ、そして自動車メーカーの過当競争…など、様々な外的要素に対応した製品づくりが求められています。
製品においても開発プロセスの規模と複雑さ、自動車部品メーカーのグローバルレベルのサプライチェーンなど、製造業の中でも突出して、複雑かつ広範囲にリスクが存在する産業です。
このような製品特性を持った自動車について、重大な品質問題、品質不祥事を起こさないためには、何が重要かを自動車QMS専門家の視点から考えてみました。
製品安全のための開発
自動車メーカーは、安全の絶対要件として法的な安全基準を設計のインプットとして自動車の開発を行っています。
規格で要求されている設計・開発の要求事項を満たす活動がそれに該当します。
自動車セクターIATF16949においては、想定される欠陥から故障モードを想定してFMEA(故障モード影響解析)を製品設計と製造工程において行うことが要求されています。
有効なFMEAのためには、厳しいユーザーモード、過去のトラブル、競合他社の問題などをインプットとしてリスクを解析することがポイントです。
このFMEAは、力量を持った技術者チームが行うことが重要でありIATF16949ではCFTチーム(部門横断機能アプローチ)で実施することが要求されています。
また、「設計開発の妥当性確認」では、想定される使用上の状況、すなわち気候(温度、湿度、紫外線、塩害など)、使用モード(高速、悪路、過負荷、運転モードなどの使い勝手)、使用者の特性(人種、性別、体形など)、社会インフラの特性(道路、燃料、サービスなど)などの使い勝手を要件として検証する必要があります。
単なる耐久劣化ではなく、想定外の条件が重なって起こる安全欠陥は開発段階のテストで発見できないケースもあり、市場で欠陥が判明したときは「こんな使われ方があったのか」とか、「気候条件でこんなに劣化するとは」とか、メーカーの技術者は驚かされることがあります。
これらの情報は貴重な設計のインプットになるわけです。
ここで言いたいことは、過去に経験した教訓からの技術蓄積を、組織の知識として確実に活用することです。
これは「ISO9001:2015の7.1.6 組織の知識」にもつながるものです。
また、「IATF16949 6.1.2.1 リスク分析」では、製品リコールから学んだ教訓、製品監査、市場クレームなどの情報を活用することが規定されています。
自動車メーカーと部品メーカーは自動車QMS用語でAPQP(新規製品品質計画)という開発プロセスにおいて製品の設計FMEA(DFMEA)及び製造工程FMEA(PFMEA)、そして妥当性の確認テストを行っています。
これらのリスク分析と検証が製品安全の原点となっているのです。
自動車リコールの多くは、この「妥当性の検証」に不足があったことがわかっています。
これは、非常にタイトな開発計画(開発期間の短縮、開発コストの低減)が要因である場合が少なくありません、更にコンピューター解析の発達により、以前は実地で行っていたテストの多くがコンピューターシミュレーションで代用されているのもそのひとつです。
特に、この10年では、ソフトウエア―のプログラムミスによる問題がリコールの中で急増していますが、まさに、これが「妥当性の確認」の不足ということです。
自動車部品メーカーのリスク
国内、海外の複数メーカー車種による部品の設計共有化、部品の共用化、それに生産拠点のグローバル化などで部品メーカーのリスクは大きくなっています。
開発時点では自動車メーカーと一緒に設計・開発プロセスをAPQP(新規製品品質計画)で行っています。
この過程で上記のFMEAは実施されますが、重要なことは、市場で不具合が発覚した場合は徹底的に問題を分析し必要な対策を迅速にとることです。
そのためには自動車メーカーからの情報ルート、クレーム対応プロセスの機能を内部監査等で監視することが有効です。
タカタのエアバッグは、北米市場でホンダ車のエアバッグのリコールを2008、2009、2010年と3回も行っていましたが、製品に対する適切な是正処置を怠ったことが命取りになりました。共通の部品が、多くの自動車メーカーで採用されるための部品共通化の典型的なリスクでした。
-前半おわり-
後半はリコールに関連した品質不祥事を更に深堀りしたいと思います。
(長谷川 武英)