昨今の品質不祥事問題を読み解く 第6回 品質不祥事を切る!(2) (2018-6-18)
2018.06.20
品質不祥事を切る!
先週に引き続いて、今回はその後半です。
4.問題の深層
最近の品質不祥事に関するマスコミ報道では、大半のケースが製造現場で行われていた不正を本社が知らなかった、本社と工場とのコミュニケーションが欠如していた、経営陣が製造現場の状況を理解していなかったことが根本原因であったと伝えています。
現場において不正と認識しながら確信的に不正を行っていたということは、そのような状況が生まれる何らかの要因があったはずです。
社員は、正しい作業をやるべきと考えていたと思います。
このような状況では、やりきれない思いを持つ社員により、内部告発という形で発覚している例があることも事実です。
なぜ、そのようなことが起こってしまうのかの要因を考えてみました。
①現場の声が経営者、管理者に届かない
②部門間及び階層間のコミュニケーションが乏しい
③ヒエラルキー指向の強い会社→現場の意見、部下の意見が通らない
④親会社、子会社の力関係→無理な目標が与えられる(利益目標、コスト削減目標など)
⑤良いニュースしか報告しない→悪いニュースは立場が悪くなるので報告しない
⑥トップが過大な目標を与える→目標が達成できないので虚実の数値をでっちあげる
⑦トップの目標が“売上げアップ”など利益面だけの目標に偏っている
⑧営業部門が、品質部門及び製造部門に対して大きな力を持っていて、無理な計画を強いる
⑨本社と、生産現場(工場)の交流が乏しい
⑩品質部門などの直接生産資源となっていない経験豊富な高年齢の社員をリストラする。
これらには、企業風土という側面も大いに関係していると思われます。
トップが示した目標が、「利益・売上げ最優先」に偏って設定され、「品質ガバナンス」に係る目標が含まれていないような会社に、不祥事が発生しやすいとも聞きます。
5.ISO認証における不祥事企業への対応
不祥事、重大事故、重大品質問題が発生すると、その企業にISO認証を与えた認証機関は、調査や臨時審査などを行います。
これは、認定基準(JIS Q 17021)に基づいて、認証機関が対応手順を定めているからです。
臨時の特別審査などにおいて、不正事実が発見された時は、QMSでは、ISO 9001の要求事項に対する重大な不適合を特定します。
不正の重大性によっては、認証の一時停止となり、この重大な不適合に対する是正処置が、有効でない場合や期限内に是正処置が完了しない場合は、一時停止から認証取り消しという処置がとられます。
前述の認定基準(JIS Q 17021)とは別に、公益財団法人日本適合性認定協会(JAB)が定めている「マネジメントシステム認証に関する基本的な考え方-故意に虚偽説明を行っていた事実が判明した認証組織に対する処置-」(JAB NS511:2017)という文書があります。
これは、経済産業省が、2008年7月に公表した「マネジメントシステム規格認証制度の信頼性確保のためのガイドライン」に基づいた対応方針ですが、その内容は、“基本的な考え方”の領域であり、JIS Q 17021のような認証機関に対する要求事項とはなっていないこと、及び組織が審査の過程で「故意の虚偽説明」を行った場合に適用されるもので、認証機関(審査員)が“騙された”ことを実証しない限りは、適用が難しいと考えられます。
ISO9001審査は、サンプリングがベースであり、年1回、半年1回の審査では、最近の品質不祥事を見つけることは困難です。
また、法規制項目については、その法規制適合性そのものを検証するのではなく、仕組み、すなわちコンプライアンスを維持するプロセスの適切性を審査するわけで、適合している証拠についてサンプリングで検証するという形をとるのがQMSの審査です。
ただ、セクター規格(自動車、航空宇宙、医療機器など)においては、もともと法規制、業界規制項目への適合が最も重要な要求事項であるため、ISO9001、ISO14001より不正を発見できる機会は多いと考えます。
6.ISO 9001:2015の活用
不祥事を防ぐためには、組織全体にコンプライアンス意識を醸成することが最も重要です。
加えて、組織の監査室などによる業務監視機能、及びQMSの内部監査が、リスク回避の観点から自浄能力を高める活動であるとの認識が必要です。
ISO 9001:2015では、 “事業プロセスとQMSとの統合” 及び “リスクに基づく考え方” が強調されています。
また、「附属書SL」由来の箇条4、5、6の要求事項を見ると、組織の上位マネジメントプロセスで実施すべき事項が多く含まれています。
それらの要求事項への適合性を検証するには、従来のQMS内部監査の範疇では十分でなく(この意味は、上位のマネジメントプロセスが対象となること)監査室機能とQMS内部監査を連携させるなどの工夫をしてコンプライアンスの維持を継続的に検証してゆくことが、有効な不祥事防止策になるのではないかと考えます。
また、ISO9001の審査では、コンプライアンスのプロセスに対して、組織が内部監査でどのようにアプローチしているかを審査することにより、組織のコンプライアンス意識を高めることにもつながるので、不祥事防止の観点から有効であると考えます。
加えてISO 9001:2015の箇条5.リーダーシップの審査においては、トップマネジメント一人でなく、他の経営陣も対象として多面的なインタビューを行うことが、企業ガバナンスが適切に保たれているかを確認するうえで有効と考えます。
7.最後に
前回から、JAPAN QUALITYの歴史的背景、品質不祥事の要因、不祥事防止のための監査機能、深層の問題、ISO 9001:2015の活用などについて述べてきました。
最近の品質不祥事の発覚で分かったことは、産業の歴史的背景、企業風土、品質人材資源などが複雑に関係していることです。
不祥事を起こした会社は、社会からの糾弾、ISO9001認証停止、JIS認証取り消しなどのペナルティーも課されましたが、高品質の製品を製造する技術は失われたわけではありません。
3月末の新聞で読んだのですが、2000年、2004年のリコール隠し、2016年の燃費不正が社会問題化した自動車会社が、過去の不祥事の経緯などを展示する「過ちに学ぶ研修室」を作り社員教育に活用してゆくことを報道陣に公開したそうです。これは企業風土を変えようという試みと理解しました。
最後に不祥事を起こさない会社の要件を述べて、締めたいと思います。
■部門間、階層間のコミュニケーションが活発→組織の縦、横のつながりを確実に
■ 下位職制の者でも、ものが言える環境→ワンウエイからツーウエイコミュニケーションへ
■ 問題を表面化する→悪いことは隠さない、隠せないしくみを作る
■ 経営層が現場で起こっている事実を把握する→本社、製造現場(工場)の交流活発化
■(トップに対しては)価値基準を利益優先の目標のみにしない、働く者が共有できる価値基準の目標を作る
■ リスクに基づく考え方から、内部監査機能を充実させる
■ コンプライアンス(倫理、法令順守)を尊ぶ文化を醸成する
企業風土を変えなければならないことがある → 意識改革には時間がかかります
(長谷川 武英)