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QMSの大誤解はここから始まる 第10回 ISO9001では結局,文書があればそれでよいんでしょ?(1)   (2017-12-11)

2017.12.11

 

 

「QMSの大誤解はここから始まる」シリーズ、

今回と次回で5つ目のテーマ「ISO9001では結局,文書があればそれでよいんでしょ?」をお届けしたいと思います。

 

 

ISO9001導入時に最も苦労される点として「文書化」が良く挙げられます.

少なからずの企業においては,文書化や文書管理のための活動がISO9001導入作業の大部分を占め,それがISO9001=(イコール)文書(管理)というイメージが引き起こし,結果として「ISO9001では結局,文書があればそれでよいんでしょ?」という誤解が生まれているのだと思います.

 

これによって,文書管理さえやればISO9001の認証取得ができ,かつ自社の品質保証体制を構築できたと思い込んでしまい,最終的にはISO9001は役に立たなかったと嘆くことになるのだろうと推測されます.

 

 

このような「ISO9001では結局,文書があればそれでよいんでしょ?」という誤解が生じてしまう背景には,そもそも文書とは何なのか,文書を作成する目的は何か,どのように文書を作成していけばよいかについて十分な理解ができていないことがあると思われますので,本誤解ではこれらの点について解説したいと思います.

 

 

 

1.良質な製品サービスを提供するためには

 

まず,文書を作る最終的な目的は,当然ながら顧客ニーズに合致した製品・サービスを確実に提供するためです.

 

読者の皆さんもよくご存知のように,製品・サービスは提供企業側から見れば企業活動のアウトプットであり,そのアウトプットの質を高めるためには,それを生み出す業務プロセスに着目する,すなわち,システム志向とかプロセス志向といわれる考え方を重要視しています.

ISO9001の品質マネジメントの原則においてもプロセスアプロ―チとして示されています.

 

このプロセスアプローチの考え方においては,プロセスは

 

・プロセスネットワーク

・ユニットプロセス

 

の2つから構成されていると考えます.

 

前者はユニットプロセス同士のつながり,相互関係を表現したものであり,フローチャート形式で業務の流れが記述されます.

 

ユニットプロセスは,プロセスネットワークを構成するひとつひとつのプロセスのことであり,以下の4つの構成要素から成り立っています.

主に手順書やマニュアル等でこれらが記述されています.

 

インプット・・・プロセスに入力されるモノ,情報,状態.(モノ:原材料,部品など. 情報:作業指示・条件,入力情報など.状態:対象の初期状態)

 

アウトプット・・・プロセスから出力されるモノ,情報,状態.(モノ:製品,版製品,加工済部品など. 情報:出力情報,分析結果など. 状態:処理後の対象の状態)

 

タスク・・・InputからOutputを変換するために必要な活動.(実施事項,手順,方法,条件など)

 

リソース・・・Taskを実施するために必要な経営資源.(人,インフラ,作業環境,知的財産など)

 

コントロール・・・Taskの実行状況,目標達成状況を測定し,問題があれば修正するための活動.(温度,加工条件,中間製品特性の測定,不良発生時の異常処置など)

 

 

つまり,質の高いアウトプットを生み出すためにはプロセスを構成するこれらの各構成要素を的確に決定する必要があることを意味します.

言いかえれば,何らかの不具合があればこれらのプロセス構成要素のどこにどのような問題があるかを考察することが,再発防止にも有用です.

 

 

 

 

2.標準(化)と文書の関係

 

このように,プロセスに着目し,良いプロセスであることが質の高いアウトプットを得るための秘訣となります.

そして,この“良いプロセス”の内容を規定したものが「標準」です

 

一般的に,標準とはある目的を達成するための業務内容やその実施方法を定めたものであると理解されていることが多く,それはそれで正しい理解なのですが,もう少し踏み込んで言えば,現時点でその業務内容や実施方法についてベストであるもの,すなわちベストプラクティスとも言えます.

 

そして,「標準化」とはそのようなベストプラクティスが示された「標準」を定める行為といえます

 

現実的には,ベストプラクティスが何であるかを明確にはわからないことが多いので,今やっている業務のやり方,方法を書き出して,それを現時点でのとりあえずの「標準」として採用し,業務を繰り返し実施していく過程で「標準」を改訂し,ベストプラクティスに近づけていくことになるでしょう.

 

標準(化)の対象は,上で紹介したプロセスの構成要素のすべてが当てはまります.

プロセスネットワークはある一連の業務の流れのことですので,業務フローチャート形式であらわされた標準類が多く占めることになります.

ユニットプロセスについても,「○○業務実施手順書」,「△△取扱マニュアル」といったような標準類が作成されることになります.

とりわけ,ユニットプロセス内の構成要素である「リソース」,「コントロール」については,また別の標準類が用意されることが一般的です.

 

例えば,リソース内の“人的資源”に関しては,教育・訓練計画や実施方法を規定した標準が相当しますし,“インフラの一つである設備”についても,その保守・メンテナンス方法を定めた標準類が作成されます.

 

 

このように,プロセスのあらゆる構成要素について「標準化」を行うことが可能であり,その結果として「標準」が得られますが,この「標準」を誰もが目に見える形で可視化したものが「文書」になるのです.

もちろん,文書といっても,何も文字のみを並べて書く必要はなく,図や写真を用いても構いません.

 

ここで,少なからずの方が“標準を可視化しなくても(つまり文書にしなくても),実施者が覚えていればそれでよいのではないか?”という疑問を持つことが多いようです.

 

例えば,作業を実施する人が一人の場合を考えてみましょう.作業者が一人なのですから,作業者がそれを覚えていれば文書がなくても大丈夫と思うかもしれません.

もちろん,毎日その同じ作業のみを,しかも同じ作業者がずっと実施するのであれば,不要かもしれません.

しかしながら,作業者は同じ日に他の作業も(つまり複数の作業を)やることがあるかもしれませんし,作業者が日によって異なる場合もあることもあるかもしれません.

さらに,作業を実施する頻度が毎日ではなく,1週間に1回,月に1回,または年に1回など,たまにしか実施しない作業かもしれません.

 

このような場合には,たとえ一人で同じ作業を実施する場合であっても,目に見える形にした「標準」,すなわち文書があったほうが良いでしょう.

実際には,組織は同じ日に複数の人が互いに連携しながら複数の仕事を実施しているわけですから,文書の必要性はなおさら高まることになります.

 

 

 

 

3. 文書の3つの役割

 

では,文書が果たすべき役割とは何でしょうか.これには大きく分けて,

 

・知識の再利用

・コミュニケーション

・証拠

 

の3つの役割があることを理解すべきです.

 

2.でも少し触れましたが,作業者が一人の場合であってもそうでなくても,多くの業務は日々繰り返し実施されます.

 

例えば,通勤・通学の例で考えればわかりやすいと思いますが,入社した当時は遅刻しないようにかなり通勤に気を使い,どんなルールで行くべきか,交通トラブルがあった場合の迂回路があるか,乗り換え時間がどのぐらいかかるかなどを考えたと思います.

それが,今では当たり前のように問題なく通勤できていて,通勤そのものに頭を使うよりも,通勤時間を趣味の読書やちょっとした勉強時間に充てたりしています.

つまり,これまでに培ってきたベストな通勤方法を標準として持っていて,それを毎日繰り返して適用している(使っている)ことになります.

これが,第1の「知識の再利用」という役割です.

 

第2のコミュニケーションとはその言葉通り,作業者どうしの情報伝達のことです.

 

例えば,ある作業を作業者Aがやっていたが,その同じ作業を作業者Bが実施する場合,作業者Aが実施していたベストな方法,すなわち「作業標準」を作業者Bにも共有しなければなりません.

また,ある作業を作業者A→作業者Bという順番で作業を分担して実施する場合,作業者Aから作業者Bに作業指示なるものが伝達され,その作業指示に従って残りの作業を作業者Bが実施することになるでしょう.

この作業者AとB間の作業指示内容の伝達は「作業指示書」といわれる,文書の一種である帳票類が用いられます.

つまり,コミュニケーションを取る手段としての文書の役割もあるということです.

 

 

最後の文書が果たすべき役割は「証拠」です.

 

ISO9001の一つの特徴が認証制度であることから,外部に対して自社の品質保証体制がちゃんとしていることを証明しなければなりませんので,そのための文書がどうしても追加で必要になります.

“うちはちゃんとやってます”と口だけで言ってもダメで,業務のやり方を規定した手順書と,その通りにやったことを示す記録を外部に対して示す必要が出てきます.

したがって,どうしても従来よりも多くの文書(手順書+記録)を整備する必要性が出てくるのは仕方がない部分でもあるのです.

 

 

では,文書として何をどこまで持つべきなのでしょうか.

 

長くなりましたので、次号にて続きをお話しさせていただきます。

 

(金子 雅明)

 

 

 

 

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