QMSの大誤解はここから始まる 第5回 ISO9001の認証取得(維持)費用は高すぎる(2) (2017-11-6)
2017.11.06
大誤解2:「ISO9001の認証取得(維持)費用は高すぎる」の第1回目 はISO9001認証取得の“効用”について,以下の(a)~(f)があることを述べました.
【認証制度としてのISO9001の効果】
(a)第三者機関による認証による,ビジネスを行う相手企業の評価を受け取引決定に至るコストの低減
(b)ISO9001認証取得企業であるということを外部公表にすることによる会社ブランド力への貢献
(c)ISO9001認証取得という“外圧”を利用して,品質保証体制を構築,推進する際に必要となる,会社内部の従業員に対する旗振り,モチベーション維持
【QMSモデルとしてのISO9001の効果】
(d)決められたことをきちんと実施する(基本動作の徹底)ことによる,標準の不順守などによる不具合発生の低減と,再発防止によるコスト削減
(e)良いとわかっている手順(ベストプラクティス)が会社内で容易に共有化され,再利用されることによる,業務効率の向上
(f)顧客の要求事項を明確にし,それに適合した製品を提供しているかを常にチェック,レビューする品質保証体系が構築できることによる,顧客ニーズに合致した製品・サービスの安定的かつ確実な提供能力の獲得
本第2回目では,上記の効果を踏まえて,ISO9001認証取得の“費用”について述べたいと思います.
ISO9001認証取得の費用というと,多くの方は初回のISO審査・登録費用とその後の維持更新費用をイメージされるでしょう.
もちろん,これらも費用に含まれますが,あくまでも,
・認証制度としてのISO9001の効用(a)と(b) (前回の配信メルマガを参照)
に必要な費用といえます.
多くの方が「ISO9001の認証取得(維持)費用は高すぎる」というのは,この部分の費用を指していると思われます.
「ISO9001の認証取得(維持)費用は高すぎる」といわれる方に,「では,いくらぐらいだったら良い(妥当)ですか?」と聞いても,「んー,多くても数十万程度に抑えたいな・・・」と曖昧な返答が多く,その根拠も明確ではありません.
本来は,費用が高いか低いかは,その効果と対比して,すなわち費用対効果で考えるべきです.
すなわち,認証制度としてのISO9001の効果(a),(b)を測定し,それと上記の費用と比較してみることです.
前回も言いましたが,効果(a)と(b)を測定することは容易でありません.
逆に,「初回のISO審査・登録費用とその後の維持更新費用」は容易に把握可能です.
このアンバランスさがもしかして「ISO9001の認証取得(維持)費用は高すぎる」という誤解を多くの方が抱きやすくなってしまっているのではないかと,危惧しています.
また,極論ですが,認証制度としての効果がISO9001に取り組む目的ではなく,QMSモデルの効果を狙っているのであれば,ISO9001の認証取得自体は不要で,ISO9001に書いてある要求事項を自己評価項目として,自社内の品質マネジメントシステム,品質保証体制に不備がないかをチェックし,自律的に改善していけばよいでしょう.
この場合,当然ながら,「初回のISO審査・登録費用とその後の維持更新費用」はゼロです.
一番よくないのは,どんな効果を狙ってISO9001を取ろうとしているか曖昧のまま,「初回のISO審査・登録費用とその後の維持更新費用」を払い続けることです.
この場合,効果はゼロで費用が一方的に増えていくので,費用対効果も限りなくゼロに近づくことになるでしょう.
さらに,読者の中にはお気づきの方もいると思いますが,直接審査機関に支払っている審査費用だけでなく,自社内でQMSの基本的な考え方の勉強会・講演会を実施したり,品質保証体制の構築や標準化・改善活動を行うための手間,人的工数が多々掛かっています.
これらを含めた費用は膨大になりそうですが,この費用は果たして“ISO9001認証取得のための”費用として考えてよいでしょうか.
確かに,認証制度の効果を狙ってであれば,認定証を取るための審査・認定料は費用として考えてよいでしょう.
しかしながら,認証制度の効果のみならずQMSモデルの効果をも目的にしているのであれば,そのための活動にかかる手間や人的工数は“ISO9001認証取得の”費用というよりは,顧客満足を目指した全社的な品質保証体制の構築・推進に必要不可欠な活動そのものではないかと思いますし,そう捉えるべきです.
言い換えれば,ISO9001の認証取得の有無に関わらず,顧客満足を目指した全社的な品質保証体制の構築推進は本来は自社で実施すべきことであったがそれ(の一部)を実施しておらず,ISO900の認証取得をきっかけに,それを実施することになっただけなのに,それをISO9001の認証取得の費用と考えるのはお門違いではないか,ということです.
さらに,ISO9001の認証取得によって,本来やるべきことを実施できていなかったという気付きを与えてもらったという意味で,“費用”というよりはISO9001の“効果”と考えたほうがよいでしょう.
あと,QMSモデルとしてのISO9001の費用対効果を考えるにあたっては注意が必要です.
効果としては(d)~(f)を挙げていますが,いずれもISO9001を認証取得すればすぐに効果が表れるものではありません.
ISO9001を取るというのは,何らかのITソフトフェアの導入や新規の商品開発とは異なり,会社内の品質保証の仕組み,組織基盤を整理し確立することですので,効果については,短期的ではなく少し時間軸を長く取って中長期的な視点で評価する必要があります.
掛かった費用に対してISO9001の効果を導入直後に性急に現場に求める経営者もいるようですが,費用は先行投資(教育投資)と考えて,このような行動は是非とも避けて頂きたいものです.
最後に,少なからずの企業がISO9001の認証取得を外部コンサルタントに“丸投げ”依頼することがあるようです.
依頼自体は悪いとは言いませんが,丸投げ依頼に問題があると考えます.
これによって,確かに認証制度の側面での効果の一部は得られるかもしれませんが,QMSモデルの側面の効果のほとんどは得られないでしょう.
“仏作って魂入れず”ということわざがあるように,手順書や品質マニュアルという仏があっても,会社の運営の実態(=魂)が伴っていなければ,何も効果が得られません.
つまり,丸投げ依頼は費用対効果で言えば,“最も高く付く”好ましくない手段であると認識すべきだと思います.
(金子 雅明)