超ISO企業研究会メルマガ 番外編(3) (2017-9-25)
2017.09.25
ISO9001:2015版の活用について考える第2回目です。
ISO9001:2015 箇条4.4.1には、この規格の根本である要求事項「組織は,この規格の要求事項に従って,必要なプロセス及びそれらの相互作用を含む,品質マネジメントシステムを確立し(establish),実施し(implement),維持し(maintain),かつ,継続的に改善(improve)しなければならない。」という規定があります。
「品質マネジメントシステムを確立し,実施し,維持し,かつ,継続的に改善しなければならない」という表現は、QMSの構築及び運用をPDCAに沿って展開することを要求しています。
最初の「確立し」の原文は“establish”です。欧米の立派な建造物の礎に“established ○○年”と刻印されている風景をよく見かけます。
「確立する」と言われると、目的が期待どおりに達成できた状態、堅固で壊れない基礎が出来上がった状態(完成した状態)をイメージしますが、ここでの意味はあくまでも計画を堅固に設定すること、すなわちPlanをきちんと行うことを意味しています。
このきちんと行うとは、組織自身の実態を見据え将来への展望を吟味した構築計画、さらにいえばQMSの設計を行うことを意図しています。
この最初の段階をなおざりにしている組織が多いのですが、それではその上に構築するシステムは脆弱で壊れやすいものになってしまうでしょう。
最初のPlanの段階において“establish”という英語が使われている意図は、このような堅固な土台となるQMSの設計をすべきであるというところにあります。
では設計する内容について考察しましょう。
マネジメントシステムを設計するには、まずそのシステムの目的を明確にしなければなりません。
それは組織の目的と関連しかつ戦略的な組織の向う方向と整合していなければなりません。
箇条4.1が要求している「組織は,組織の目的及び戦略的な方向性に関連し、・・・」とはこのことを指しています。
さらにシステムの目的そのものは何かについてですが、当然のこととして製品及びサービスの品質向上を達成することに関連したものになるでしょう。
箇条4.1では「その品質マネジメントシステムの意図した結果」という表現でシステムの目的を明確にすることを要求しています。
箇条1「適用範囲」では「組織が、顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を満たした製品及びサービスを一貫して提供する能力をもつことを実証する必要がある場合」と、QMS構築の目的を述べていますので、組織能力の向上と実証も目的の一つになり得ます。
更に箇条4.2「利害関係者のニーズ及び期待の理解」で述べられている、品質マネジメントシステムに密接に関連するそれらの利害関係者の要求事項を満足させるという目的もあります。
いづれにしても組織はQMSを設計する際に、QMSを活用して何を達成しようとするのかを明確にしなければなりません。
目的は複数あってよく、また途中で見直しされても構いません。
QMSの目的、すなわち意図した結果を達成するために、日常の業務においてどのような活動をしなければならないかを規格の要求事項に沿って明確にすることが、QMSに必要なプロセスの決定になります(箇条4.4.1)。
ここでQMSに必要なプロセスは事業プロセスに統合されている必要があります(箇条5.1.1c))。
規格のプロセスに関する要求はこれで十分であると思われますが、規格は念を入れて後続の箇条でプロセスの計画及び確立について2つの箇条で要求しています。
組織に必要なプロセスの中には、次の2つは必ず必要なプロセスとして含んでおかなければならないという要求です。
-8.1 運用の計画及び管理
組織は,次に示す事項の実施によって,製品及びサービスの提供に関する要求事項を満たすため,並びに箇条6 で決定した取組みを実施するために必要なプロセスを,計画し,実施し,かつ,管理しなければならない(4.4 参照)。
-8.3.1 一般
組織は,以降の製品及びサービスの提供を確実にするために適切な設計・開発プロセスを確立し,実施し,維持しなければならない。
次に「実施し」ですが、原文は“implement”です。
文字通り計画したことを実行に移すことを要求しています。
この実施するということは生易しいことではありません。
組織トップの確固たる覚悟とそれを支えるガバナンスが必要となります。
そして次は「維持し」です。原文は“maintain”であり品質マネジメントシステムが維持されていることを要求しています。
維持されているかどうかを確認することはPDCAのCheckに当たりますが、維持されていなければ、当然のこととして維持するための対応を図らねばなりません。
最後は「継続的に改善し」ですが、原文は“continually improve”であり、PDCAのActに当たります。
品質マネジメントシステムにおいてなおパフォーマンスを向上させるための改善はいたる所にあります。
QMSの改善にはいろいろなことが想定されます。
QMSが維持できているかどうかは、改善の入口と位置付けられます。
維持できているならば、それ(品質マネジメントシステム)をより高いパフォーマンス達成に繋がるようにします。
しかし、多くの場合、維持されていないことが発見されるでしょう。維持されていないという状況にはいろいろな要因が内在しています。
システムが脆弱であり、実行すべき人に確立されたことが伝わっていなかった、伝わってはいたが確立されたことが実態と異なるので実行できなかった、というような場合が多くあります。
よくある例として、今は実施できていても今後ともそのことを継続的に実施できる見込み、保証が無いことが上げられます。
このことは規格の読み方にも問題があると思われます。
規格の多くの箇条には「○○を実施しなければならない」としか記述してなく、箇条4. 4. 1の規定のようにその後に続けて「・・・維持しなければならない」とは書いてありません。組織の方は、実施しているのだからこれで規格要求事項には適合していると思っているかもしれませんが、それは規格適合性の一部でしかありません。
規格は細分箇条でいちいち「○○を実施し、維持し、継続的に改善しなければならない」と冗長的に記述してはユーザの目障りになるので、まとめて箇条4. 4. 1で「○○を実施し,維持し,かつ,継続的に改善しなければならない」と要求しています。
まとめてと表現した根拠は4. 4. 1に記述されている「この規格の要求事項に従って・・・」というところを指しています。
この要求事項は実行されているだけでなく、今後とも維持され改善されていくことが必要で、そのためのシステムを要求していることがISO9001初版(1987年発行)以来のマネジメントシステムの根幹にある概念です。
1987年版では「文書化したシステム」という表現で規定していますが、20ある箇条の中の要求事項は、すべて手順を文書化することが規定されていました。
初版では、要求事項を文書化することで今後ともシステムが維持されていくことを期待していたのです。
(平林 良人)