ここがポイント、QCツール 第41回 管理指標(1) (2017-8-21)
2017.08.21
今回から3回にわたって管理指標について解説したいと思います.
1.管理指標とは
1-1.管理指標の目的
管理指標とはその名の通り,業務を管理するための指標のことであり,その指標に基づいて何らかのアクションを打つための物差しです.業務を管理するとは,いわばPDCAを回すことなのですが,そのPlanの部分を詳細に展開すれば,
Plan (1)業務の目的の明確化
(2)目的達成の度合いを測る指標(管理指標)の設定
(3)達成すべき目標(管理水準)の決定
(4)目的達成手段,実行手順・方法の決定
となります.
管理指標は,このPlanの中の(2)の段階で設定され,(2)の管理指標に対して達成すべき目標である管理水準(3)が決定されます.そして(4)で目的達成手段が決定された後,Doで業務が実施され,Checkで(2)の管理指標のデータを集計して実績値が求められ,最終的にはこの実績値が(3)の管理水準を達成できたどうかが評価されます.もし未達であれば,(4)の目的達成手順を改訂することが行われ,次なるDoに移行していくことになります.
管理指標の基本的な目的は,上記(2),(3)の目的達成度合い,レベルを測ること(目的尺度)なのですが,それと同時に,その目的達成をどのぐらい効率的に行えたか(効率尺度)から捉えることも重要です.
大企業や中小企業であれ,好きなだけ無限に資源(人,モノ,金,時間など)が使えるわけではありません.ある制約の中で,いかに目的を効率的に達成できるが常に求められており,目的尺度と効率尺度の2側面から目的達成度合いを測るのが管理指標です.
例えば,顧客の要求仕様に合った製品を製造する場合の目的尺度は,その製品の品質レベルで評価し,効率尺度はその品質レベルを達成するためにかけた管理コストになりえます.
また,検査業務について考えてみると,検査業務とは不良品を不良だと検出することなので,検出力が目的尺度になり,効率尺度としては検査工数が挙げられるでしょう.
1-2.良い管理指標の条件
良い管理指標とは,次の4条件を満たすものであると考えられます.
―目的適合性:ある管理対象業務のアウトプットを的確に表すことができること
―解析容易性:結果に対して注目すべき要因の特定が容易であること
―再現性:誰が測定しても同じ結果が得られること
―測定容易性:データの測定にかかるコストが合理的であること
管理指標はある業務の目的達成度合いを測ることですから,それをまっとうに測れているかどうかを示すものが「目的適合性」です.当たり前のように聞こえますが,測りたい対象の状態を適切に示す指標というのは,それほど簡単に準備できるわけではありません.
本当に測り対象を技術的に測れない(例えば,破壊試験)ことも少なくありませんので,その場合はそれを代用するような指標,すなわち代用特性を取り上げることもあります.
例えば,医療においては「注射業務におけるインシデント・アクシデント報告件数」を収集していますが,これは注射業務の良し悪しを的確に測っていると思いますか?報告は,医療者が気が付かなければなされませんし,気が付いたとしても自主的な報告に頼っていて,「目的適合性」が高いとは必ずしも言えないでしょう.
逆に,自主的な報告に頼っているという点を考慮して,報告件数が増えていることは現場の医療者の医療事故に対する危機意識,改善意識の高さと捉えることもできます.
このように,管理指標というのは多面的な意味を持っていて,その指標の背景を理解した上で解釈することが重要であるといえます.
次の「解析容易性」は,その管理指標の値が呼び起こす,その値に至った背景にある原因・要因を示唆する指標が良い管理指標である,という意味です.
例えば,外見不良というのは,外見にかかわるあらゆる不良をまとめた管理指標になっていますが,表面のカケなのか,塗装膜厚不足なのか,異物混入なのかによってそれを引き起こす原因の類が大きく異なりますので,原因を引き起こすプロセスや工程条件がある程度,特定・想定できうる管理指標にすべきです.
3番目の「再現性」というのは,いわゆる検査精度のことであり,同じ対象を複数回測っても許容範囲内の誤差に収まっているか(測定誤差)と同時に,どの作業者が測っても同じ値が得られるかということを示しています.
特に後者においては,いくら「目的適合性」が高い管理指標であったとしても,その測定のための環境条件の設定や測定方法そのものがすごくシビアで,ちょっとしたそれらの作業者間の誤差が値に大きな影響を与えるのであれば,それはベストな管理指標とは言えないでしょう.
最後の,測定容易性とは,測定時にかかるコスト・工数の大きさのことを言っており,もちろんコスト・工数が少ないほうがよい管理指標になります.
技術的には測定可能であったとしても,実運用上でのコスト・工数(測定機器や作業者の導入など)を考えれば,後工程での検査で不良品としてはじいて廃棄または手直ししたほうがトータルで安上がりということもありえます.
(東海大学 金子雅明)