ここがポイント、QCツール 第40回 QC工程表(2) (2017-8-7)
2017.08.07
前回に続いて、QC工程表です。
3. 適用場面とその効用:
QC工程表は,ある製品の工程設計時に作成され,量産試作結果を受けてその内容の妥当性を確定し,量産開始後にその通りに実施されます.
生産自体が初めてであるという場合には.量産開始直後の初期流動管理の枠組みの中でQC工程表の内容が素早く検証されます.
QC工程表は,具体的な作業方法を記載したものではなく,どのような作業標準を使えばよいかの標準であり,かつ,工程が安定的に稼働しているかどうかを管理する計画(標準)であると述べました.
後者の意味では,QC工程表は主に工程管理者・現場監督者が使用するものであり,これによって,良質な製品を安定した製造できているかどうかを確認するために使用されます.
また前者の意味では,QC工程表はどの作業標準を使えばよいかを示した標準書でもあるため,作業標準に沿って作業を行う作業者への教育ツールとしても,QC工程表が使われています.
次の新たな製品の工程設計においても,過去の類似製品のQC工程表を活用することができます.
新製品といっても,まったくこれまでと製法が異なることは稀であり,部分的に従来の製法をそのまま,もしくは多少アレンジすることで援用できることが少なくありません.
このように,過去の類似製品(群)のQC工程表を部分的に援用し,組み合わせることで,当該新製品の工程設計の多くの部分をカバーすることができます.
これによって,工程設計担当者は,新たな製法が必要となる部分にのみ集中検討する時間をとれ,工程設計条件の検討スピードを向上させ,検討の抜け・漏れ防止による,過去に起きた類似の製造不具合の再発防止に貢献できる可能性もあります.
さらに,工程設計時に検討・作成され,製造開始後も引き続き,良質な製品が得られるように常に更新・改善され続けてきたQC工程表は,その会社の生産技術や生産方法に関わる重要なノウハウ・知識が蓄積されているものであるとも考えられるのです.
最後に,QC工程表の適用場面と効用としてあげたいのが,不良や製造起因のクレーム発生した時の原因追及での活用です.
もちろん,原因が作業標準の中身やヒューマンエラーである場合もあるのですが,不良発生原因の多くは良質な製品を安定的に作り出すための工程の(技術的な)良品条件に起因しているので,品質特性と良品条件間の因果関係の理解のどこにまずさがあったのかを解析するために,QC工程表が大いに役立ちます.
このように,QC工程表をベースにした,品質特性と良品条件間の技術的な因果関係の解析は工程(プロセス)解析といわれ,そのためのツールとして「統計的方法」や「QC七つ道具」が使われています.
4. 他の手法・活動との関係:
QC工程表ではまず工程フローを記載しますが,どのような工程が必要であるかを明らかにする方法として,以前紹介したQFDで紹介した「業務機能展開」があります.
また,QC工程表は,作業者及び工場管理者・現場監督者が製造現場での日常管理を自然体で行うためのツールであるともいえます.
日常管理とは,端的に言えばPDCAを回すということですが,それとQC工程表との対応関係を挙げると以下のようになるでしょう.
P:
―作業者にとっては,各工程でどのような作業標準を使うべきかという標準
―現場管理者・現場監督者にとっては,当該工程をどのような管理項目,管理の方法を用いて管理すべきかという計画
D:QC工程表通りの実施(作業者+工場管理者・現場監督者)
C:結果系+原因系の管理項目のチェック
A:異常処置,(別の機会で検討する)再発防止,QC工程表の改訂
最後に,変化・変動への対応の視点からQC工程表をとらえてみますと,日々の微細な変動・変化への対応は上記で述べたQC工程表の中でうまく対応できるように思えます.
一方で,あらかじめ想定しうる,影響が比較的大きい変化・変動に関しては,QC工程表を用いた工程管理の枠組みの中で対応するのは困難であるため,別途「変化点管理」として取り上げて活動・対応していくのがよいでしょう.
ただし,変化点管理の中で取り上げなかった重要な変動・変化については,その異常を最初に発見するのはQC工程表による工程管理活動の中であるため,その場合にはQC工程表内で記載されているように,異常判定された場合の対処方法に沿って対応し,後日,そのような変動・変化を変化点管理として取り扱うかどうかを検討すればよいのです.
これによって,プロセスの“頑健性(あらゆる外乱の中であっても,良質な製品の安定した製造が可能となる能力)”が大いに向上すると思われます.
5. 注意事項:
既に上でも少し述べましたが,妥当で質の良いQC工程表が作れるかどうかは,最終的な製品で保証すべき品質特性と各工程の良品条件間の因果関係(製造にかかわる固有技術,知識)がどのぐらい明確にされているかに大きく依存します.
これが曖昧であると,良い工程条件を設定できないですし,工程で何らかの問題が起きても適切な異常対処ができないことになります.
これを避けるためには,工法や実現方法などの生産技術要素の研究開発が必要です.研究開発には比較的長い期間が必要ですから,前もって長期生産技術研究計画を立てて進めておくべきでしょう.さらに,開発した生産技術や発見した知見を蓄積し,ある新製品の工程設計時にそれがスムーズに活用できるような仕組みや組織体制にしているかも重要となります.
また,新製品の工程設計といっても,過去の製品に係るQC工程表の援用や組み合わせで対応できることも多いので,過去のQC工程表を蓄積して利用できる仕組み,またその際には,そのようなQC工程表の内容にした根拠となる技術資料とのトレースをも取っておくことも大事です.
6.参考文献
飯塚悦功(2009):「シリーズ<現代の品質管理>1 現代品質管理総論」,朝倉出版
(社)日本品質管理学会(2009):「新版 品質保証ガイドブック」,日科技連出版社
(東海大学 金子雅明)