ここがポイント、QCツール 第25回 デザインレビュー(1) (2017-4-10)
2017.04.10
新QC七つ道具の連載がしばらく続きましたが、QCツールに関する次のテーマとして今回から3回に分けて、デザインレビューについてのご説明に入ります。
まずは第1回目です。
戦後の日本に品質管理の手法が導入された当初は、主に検査を中心としたものでした。
その後間もなく、“工程で品質を作り込む”方が得策でありまた大切であるということになり、さらにはその上流である新製品開発プロセスの源流管理の取り組みが重要視されてきました。
その源流における品質保証活動の中核となる活動のひとつの手法としてデザインレビューが提唱され、実施されるようになってから久しくなります。
今回は、そんなデザインレビュー(DR)について、3回に分けて取り上げます。
第1回目は、デザインレビューの基本知識を確認し、
第2回目では、その運用上の留意点に焦点を当て、
第3回目では、それがどのように行われるのか、身近な製品のDR事例を通してお話しする予定です。
1. デザインレビュー(以下DRと呼ぶ時もある)とは
JIS Z 8115(信頼性用語)では、設計審査とデザインレビューを同列にして、“アイテムの設計段階で、性能・機能・信頼性などを考慮しながら設計について審査し改善を図ること。
審査には設計・製造・検査・運用など各分野の専門家が参加する”とあります。
また品質マネジメントシステム規格であるISO 9001:2008でも、次のようなことが要求事項となっていました。
(2015年版では、このような具体的に要求する記述はなくなってはいますが基本的には同じと考えてよいでしょう)
・設計・開発の適切な段階において,設計・開発の結果が,要求事項を満たせるかどうかを評価し、問題を明確にし,必要な処置を提案するために、体系的なレビューを行う.
・レビューへの参加者には,レビューの対象となっている設計・開発段階に関連する部門を代表する者を含む.
このようなデザインレビューとは、そもそもはアメリカで1950~1960年代に、軍事や航空・宇宙などの一発勝負で失敗が許されない複雑な製品の設計開発時にその信頼性を確保することから生まれた手法です。
1970年代初めに日本の宇宙開発分野に紹介され、それが民生の自動車や電気製品などに普及し、さらには様々な分野の製品に広がっていったものです。
また、ちょっと堅苦しい感じのする“設計審査”も、“デザインレビュー”という呼び方が多くなってきました。
そんなDRを、平易な一般的な言葉で言うと、次のようになるでしょう。
・新製品を開発する活動の中で
・製品要求事項の満足をより完全に近づけるために
・関連する社内(場合により社外も含む)の専門分野の人々の知識を結集して
・当該製品の設計内容を評価し、改善する活動
2. デザインレビューの目的
DRの目的には、次の3つがあります。
(1)社内各部門の知識の活用
そもそも新製品を生み出す要因には、市場のニーズの変化と、技術革新があります。
この変化と革新は近年ではますますスピードアップし、ニーズは多様化し、技術は細分化が進んでいます。
このような状況の中でも、新しく生み出す製品の品質としては、単に機能・性能だけでなく、コスト、安全性、信頼性、生産性、使い易さ、保全性、サービス性、周囲への影響、法規制などすべての要求事項がみたされなければなりません。
これを、担当の設計者・担当部門だけで行うことは容易なことではありません。
そこで各分野から専門的知識を持っている人々が集まり、その知識を組織的に活用し、設計の内容を、より完全なものに近づけるためにDRが行われるのです。
(2)設計のプロセスを完全に実施するためのマイルストンとしての役割
設計・開発プロセスは、一般的には、企画、構想設計、詳細設計、試作、量産試作、というような段階を経て、設計の最終的なアウトプットを出します。DRはこれらの各段階のしめくくりとして行なわれ、その段階に応じて、製品企画審査,構想設計審査,中間設計審査,最終設計審査など呼ばれることもあります。
それぞれの審査(DR)では、それ以前の設計プロセスが定められた手順に従って実施された事を確認し,またその段階における設計内容に不備がないかどうかの審査をします。
さらに,以前のDRなどで指摘された未解決の課題への対処の状況も審査します。
このようにして、マイルストンとしての節目を明確にし、その関所を通って次の設計のステップに移行してもよいかどうかをしっかりと判断して、設計プロセスを確実に進めていくのです。
(3)開発の早い時期からの部門間の意思統一
例えば,ある製品の寸法がもう1mm小さければ既存の生産機械がそのまま使用できるのに、そのまま設計が進んでしまったために、後に大きな工数や費用のロスがでてしまったというようなことは、構想設計段階から生産技術部門や製造部門がDRに参画することにより防止が出来ます。
このように、社内の関連する部門の人々が、DRに参加することにより、設計中の新製品に内在する課題が早期に明らかにされ,各部門が早くから適切な手を打つことができるのです。
上記の目的のうち(1)は本来のねらいなのですが、実際的には、むしろ(2)や(3)の目的の方に意味があることが多いのです。
設計とは、要求・ニーズを満たす手段・方法を指定する行為です。
設計解は一意には決まりません。
要求・ニーズの充足する多様な手段・方法があります。
それらの手段・方法を講じると、要求・ニーズを充足するばかりでなく、様々な副作用・副次効果が生まれます。
これらの副次的な効果までも考慮して設計仕様を定めてこそ、良くできた設計と言えます。
その意味では、DRとは、単に設計の不備を補う活動というよりは、ニーズを満たす実現手段を明確にするのとは逆向きの、実現手段候補の影響の考察という、設計には欠かせない活動と考えられます。
(丸山 昇)