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基礎から学ぶQMSの本質 第17回 第6の原理・原則「現状維持と改善」(2016-5-16)

2016.05.16

 

原理・原則の6番目として,現状維持と改善を取り上げる。

 

 

 

■現状維持

 

現状維持とは、現在のQMSに関するパフォーマンスレベルを保つことである。

 

例えば、月イチのゴルファーの最近のスコアが95前後のレベルであったとする。

この半年の間、練習場にも行かず久しぶりにコースにでてゴルフをした場合、果たして以前のように95前後のスコアを出すことができるであろうか。

半年間練習をしなかったという環境になったことで、スコアが悪化するのは当然予測されうることであり、退化しないように練習場にでかけてトレーニングするという努力が必要となる。

いつものように95前後で回るためにはそれが可能となる条件・方法を知り、現実にその通りに実施できなければならない。

実施できるためには、腕前を維持するための訓練が必要である。

さらには、スコアを乱す原因となる様々な状況に対して、的確に対応できるように技術的にも精神的にも準備し、しかも現実に期待通りに実施しなければならない。

練習を通して、様々な改善のヒントを得ることも必要だろう。

 

現状維持というと、革新的な製品開発や技術開発に比べ大したことはないとお思いかもしれないが、それは大変な考え違いであり、実は非常に難しいことである。

現状維持の基本は、第一に、目標とするパフォーマンスを達成できる方法(良品条件)を知ることである。

これは技術標準、QC工程表、作業標準などに反映される。

 

第二に、その条件・方法を実現できるだけの準備、例えば、従事者の知識・技能・意欲、設備・治工具類、作業環境などの維持管理が必要であり、また標準に従った良い意味での“愚直な”業務実施が重要である。

第三に、実施結果が思わしくないときに、的確な対応をすることが必要である。一つは起きてしまった不具合に対する迅速・的確・誠実な応急処置であり、さらにはプロセスやQMSの改善につながる的確な再発防止・未然防止である。

 

以下、これらについて概観してみよう。

 

 

 

■プロセスの構築:良品条件を明らかにする

 

望ましい結果を得ようと思ったら、要因系に着目すべきである。

目標とするパフォーマンスをあげたければ、それが可能となる条件・方法を知るべきである。

製造工程における良品条件と言われるものである。

 

この条件に関して、プロセス管理の観点では、2つの側面を考慮する必要がある。

一つはプロセスの技術的条件である。ある硬度の金属が必要なら熱処理において必要な昇温・降温パターンを知る必要がある。

 

第二はこの技術的条件を満たす工程管理方法である。

対象となる材料が望ましい昇温・降温パターンをたどるためには、炉や冷却システムを具体的にどう管理すべきかを指示する必要がある。

これらは通常、QC工程表や作業標準などに反映されている。

 

「現状維持」を「プロセス管理」の原則で成し遂げようとするとき、「管理状態」という概念の理解が必要である。

結果は様々な条件によって左右される。

それの結果がバラツキとなる。すべての要因を抑えてバラツキをゼロにすることはできない。

現実的な方法は、抑え込みたいバラツキの要因を明らかにし、それを良品条件として固定し標準化し、その他のバラツキは“諦める”ことである。

このバラツキが「工程能力」という概念につながる。抑えるべき条件が抑えられ、管理を“諦めた”偶然原因のみによるバラツキに管理されたプロセスの状態を「管理状態」という。

プロセスの現状維持とは、プロセスを管理状態に維持することである。

 

 

 

■プロセスの維持:良品条件を維持する

 

どのようにすれパフォーマンスを維持できるかが明らかにできたら、次にすべきことはその通りに実施することである。

その第一は、良品条件の前提となる状況を整えることである。

人や設備、業務インフラを望ましい状況に維持する。人について言えば、業務に必要な力量を明らかにし、その力量を維持するための管理が必要となる。

人の能力開発・人財育成については、次回のテーマで触れる。設備・治工具・計測機器・ユーティリティ・業務環境や支援プロセスについても、その要件を満たす活動を確実に実施することが維持管理の基本となる。

 

第二は、業務標準通りの作業の実施である。

標準は良い方法の再利用の手段であるのだから、遵守することが基本である。

標準通りに実施しても望ましい結果が得られないなら次項以降で述べるように標準の改訂が必要となる。

維持管理においては、ABC(A:当たり前のことを、B:バカにしないで、C:ちゃんとやる)こそが基本である。

 

 

 

■管理外れへの対応:迅速・的確な応急処置

 

望ましい結果が得られる条件・方法が明らかになっていて、その通りに実施しても、いつでも望ましい結果が得られるとは限らない。

 

例えば,作業者の能力や意欲によって、作業標準を守らなかったり、守れなかったりするかもしれない。

作業者の力量はいつも同じとは限らず,人間であるがゆえにバラツキが生じるし,時には作業者自体が変わることもある。

設備や治工具についても性能劣化していくだろう。

標準に想定されていない要因により良品条件が崩されるかもしれない。

 

こうした状況に対して、重要なことは、迅速・的確・誠実に応急処置・影響緩和処置を行うことである。

「応急処置」とは、目の前で起こっている問題(事象)を取り除く対策をとることである。

例えば、適合製品置き場に不適合製品が置かれていた場合には、その不適合製品を不適合製品置き場に置くという処置をとる。

応急処置では、望ましくないアウトプットを意図したアウトプットに戻すことを行う。

これが適切に行われないと問題が他の製品やプロセスに拡大する恐れがある。

 

このため、応急対策では、後で対応しようとのんびり構えるのではなく、時間との勝負であるので迅速な処置をすることが基本となる。

とりわけ,世間にとって“不祥事”と言われるような問題を引き起こした際には,迅速さとともに「誠実さ」が重要となる。

 

「影響緩和」とは、応急処置の一貫として、生じた不具合の影響を小さくする処置のことである。

例えば、火が出たら、燃焼部分の消火とともに延焼防止の手を打つことであり、消火によって汚染された状況を望ましい状況に復帰させることである。

一連のラインのあるプロセスで問題が起きたとき、場合によってはライン全体を止めること(トヨタのあんどん)も影響緩和のための応急処置となる。

 

 

 

■異常原因への対応:再発防止・未然防止

 

望ましくない状況への対応としては、プロセスの結果の修復に重きを置く応急処置に加え、再発防止・未然防止によりプロセスやQMSの改善を図ることも必要である。

 

「再発防止」とは、問題発生のメカニズムを分析し、原因・要因を追究し、この対策をとることである。

例えば、機能不良によりクレームが発生したことに対して、なぜ機能不良が発生したのかのメカニズムを明らかにする。

メカニズムを明らかにする際には、機能不良に関する、設計、調達、製造、輸送の各プロセスについての関係性を検討する必要がある。

機能不良が発生する原因としては、設計FMEAが機能していたのか、購入部品の評価方法が調達先の能力に基づいたものなのか、製造する際に部品にストレスをかけていなかったのか、輸送中の振動が部品の機能に影響を与えていなかったのかなどについて検討することで、機能不良の原因を特定することができる。

 

再発防止では、プロセスに着目して問題発生のメカニズムを明確にし、なぜなぜ分析などを活用して原因の特定をすることが大切である。

このような活動ができなければ、取り繕った再発防止を行うことになり、同様の問題が場所と時を変えて再発することになる。

このため、再発防止では、原因について論理的な分析を行うことが基本となる。

 

「未然防止」には二つの活動がある。

一つは、問題が発生したときに、他の製品や業務に問題が発生していないか、または発生する可能性がないかを確認し、問題があれば対策をとる活動である。

これを水平展開とか横展開と言っている。

再発防止が、問題のあるプロセスに対する対応であるのに対し、未然防止は、本質的に同じ原因で発生する問題の防止をねらったもので、考えようによっては広義の再発防止と考えてよい。

例えば、測定機器の校正漏れが日常点検で検出された場合には、他の測定機器に校正漏れがないかを確認する。すなわち検出された問題は、社内に存在し,精度管理をする必要のあるすべての測定機器を“母集団”と考え,今回校正漏れが発覚した測定器は“サンプル”として捉えることができる。

すなわち,この母集団からサンプリングされたものに問題があったということは、この母集団(=全ての測定機器)を対象としてほかに問題がないかを調査する必要がある。

 

もう一つは、ある製品や業務の実施計画を立てるときにその計画内容で問題が発生しないように事前に対策をとる活動である。

例えば、新しい作業手順を作成した時に、この作業手順で品質、コスト、量・納期、安全、環境、時間などの側面において潜在的な問題が潜んでいないかを事前に検討し、問題があれば作業手順を修正する。

 

このため、未然防止では、計画の段階でリスクに着目して分析を行う、問題発生時には、問題が発生したサンプルに留まらず,その母集団が何であるかを考えて対策を広く,深く実施することが基本となる。

 

 

 

■改善

 

業務プロセスやQMSの運営のような、継続的な目的達成行動においては、妥当な目標達成手段の確実な実施と目標との差異への的確な対応による「維持管理」とともに、目標達成手段の見直しを基本とする「改善」もまた重要である。

日本の品質管理の特徴を「カイゼン」に求める方々は多いが、それでも改善は維持管理が基本であること、そして維持活動には小さな改善の積み重ねも含まれることを忘れないでほしい。

 

改善を促す要因には、プロセスやQMSの設計・構築の際の考慮不足による不備や脆弱性の解消と、環境変化に応じた自身の変化という改善・改革とがある。

前者のプロセス・QMSの不備や脆弱性の解消においては、望ましい結果が得られない、あるいは得られにくい、その因果メカニズムの全体を分析する必要がある。

問題の直接要因のみならず、遠因、誘因、間接要因なども含め、因果メカニズムの全体像を理解したうえで、現実的な改善策を講じるべきである。

 

後者の環境変化への対応においては、変化の様相と本質の認識、近い将来も含め事業構造の変化の理解、そして適切な対応が必要となる。

重要なことは、対応策の妥当性について、有効性、副作用などの考察である。

現状の業務を変えることは、今までの業務実施方法が最善であると思っている人、または現在の方法に問題がないと思っている人にとっては苦痛である。

この苦痛を取り除くためには、業務の目的・目標が何であったかに立ち戻って考え,その中で業務に携わる者の役割を理解させることが重要である。

 

また,改善活動は一過性のものではない。事業活動は常に変化しているので、これに連動してパフォーマンスやプロセスを改善することが市場における競争優位を確立する基盤となる。

また,改善活動は個人で実施することも可能だが、できれば組織的な活動にすべきである。

ブレークスループロジェクト活動(不良がゼロになるまで徹底的に改善する)、プロジェクト活動、QCサークルなどの小集団活動、提案活動など,改善を組織的に推進する体制を確立することが重要である。

 

(福丸 典芳)

 

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