基礎から学ぶQMSの本質 第14回 第4の原理・原則 「標準化」(その1) (2016-4-25)
2016.04.25
今回と次回の2回に分けて、標準化、特に社内標準化についてその意味とそれをおこなう意義を、少し詳しく伝えたいと思う。
初めに、標準と標準化の一般的な意味について解説する。
■標準及び標準化(標準の目的)
「標準」は、品質管理学会規格JSQC-Std 00-001:2011で、「関係する人々の間で利益又は利便が公正に得られるように統一・単純化を図る目的で定めた取り決め」と定義されており、注記1にその対象として、物体・性能・能力・配置・状態・動作・手順・方法・手続・責任・義務・権限・考え方・概念などが挙げられている。
又、「標準化」は、「効果的かつ効率的な組織運営を目的として、共通に、かつ繰り返して使用するための取り決めを定めて使用する活動」と定義されており、この定義の中の「取り決め」が標準に該当する。
標準には、2つのタイプがある。
第一の標準は、国際標準、国家標準等で多く見られる「決めなければならない標準」である。
その目的は、統一による混乱の回避である。
例えば、交通の右側通行・左側通行は、原理的にはどちらでもよいと思うが、とにかくどちらかに決めておく必要がある。
さもないと正面衝突が頻発する。
第二の標準は「決めた方がよい標準」である。
このタイプの標準の代表が社内標準で、このタイプの標準は、経験の活用、計画の簡略化のための標準と言い換えてもよい。
■標準(標準空間、互換性と統一)
標準は、それが制定される場により、国際標準、地域標準、国家標準、業界標準及び社内標準等に分類される。
標準化の目的は、利益又は利便を得られるような標準を制定し、「統一」或いは「単純化」を行い、それによる利益或いは利便を具現化することにある。
国際、地域、国家など複数の当事者が関連する標準化は、多くの場合、統一することに主眼を置いている。
統一することで「互換性」が確保され、ネジ、プラグ、電球のようにどこでも使えるようになる。
何気なく使っている携帯電話も標準化をベースにしている。
標準化により通信方式が「統一」されているから通信が可能となり、基本OSが統一されているから各種ソフトがどの端末でも機能できている。
私たちは日常ほとんど意識することなく標準化の機能の一つである「統一」の恩恵を受けている。
■社内標準(決めた方がよい標準)
「決めた方がよい標準」の代表である社内標準では、互換性の確保に加え単純化が重要な意味を持つ。
社内標準による統一・単純化によって、組織は、スムースな思考・情報伝達、信頼性・安全性の向上、改善の促進などの利便を得る。
組織内における標準化は、単純化によりこれらの利便を具現化し、大量生産、効率向上、原価低減、品質向上を可能とするために行われる。
■標準化と管理(実現手段の計画)
標準は、先に述べた通り、統一・単純化を図り利益又は利便を得るために決められる。
社会や組織は、標準を管理のベースとし、狙った利益又は利便を具現化する。
「管理」とは「目的を継続的に効率よく達成するためのすべての活動」をいう。
効果的な管理のためには、計画(Plan)を立て、実行(Do)し、チェック(Check)を行い、処置(Act)をとるという4つの機能が必要である。
このPDCAのサイクルの Plan(計画)においては、
① 目的を明確にする、
② 管理項目を決める、
③ 目標(管理水準)を決める、
④ 実行手順を定める
の4つの事項が実施される。
計画(Plan)の「④実行手順を定める」という機能は、例えば作業標準、マニュアル、ガイドラインを定めることである。
この文脈に於ける標準とは、ある目的を達成するための実現手段の計画と言える。
ある業務を実施するためにマニュアルを作る理由は、マニュアルを標準化することで、作業に必要な判断基準などを的確・確実に伝達し、繰り返し行われる業務の均一化を図ることにある。
■標準(その時点のベストプラクティス)
先に例に挙げたマニュアルもこれに該当するが、「決めた方がよい」とは、その通りに実施すると効果的、効率的という意味である。
別の表現をすれば、「効果的、効率的にするために役立つことは、約束事として決める」である。
標準は、「すでに経験して良いということが分かっているモノや方法」であり、経験やベストプラクティスを形式化したものである。
経験をして良い結果が得られることが分かっていることを標準に定め、それに従うから、当然のことながら良い結果が得られる。
日本人の美徳として、責任がグレーな領域に関しても多くの人がほっておけないとして関心を示すことが挙げられる。
この延長線上に、約束事を個人の判断で修正してしまうことが度々行われ、不味いことにそれが良い結果を示すと褒められることがしばしば起こる。
これなどは、標準化そのものの意味が正しく理解されていない現れである。
誤解されては困るので付け加えるが、これは標準を固持しろと言ているのではない。
標準は、その時点のベストプラクティスを形式化したもので総合的に考慮された結果だが、完全ではない。
問題があることが明らかになった時は、標準を改訂し、関係者に連絡し、それに従った実施を確認する必要がある。
これらを完全に行うことで初めて、標準化がその機能を発揮する。
個人の判断で標準からの逸脱は、決して許されるものではないと言っている。
次回は、標準化による利便について詳しく述べたいと思っている。
(住本 守)