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メルマガ⑤ ISO9001改正のこころ

ISO9001改正のこころ 第7回 QMSの適用範囲;組織の状況、利害関係者,製品・サービスへの考慮 (2015-11-23)

2015.11.20

 

“ISO9001改正のこころ”第7回と次回(第8回)は,箇条4.3「品質マネジメントシステムの適用範囲の決定」を取り上げ,TC176国内対応委員であった経験と,実務者として品質マネジメントシステム(以下QMS)の導入・推進に携わってきた見地から,ISO9001:2015に基づくQMSへの展望をまとめていきたい。

 

第7回(今回)は,組織の状況,利害関係者,製品・サービスをふまえたQMSの適用範囲の決定について考える。

(超ISO企業研究会委員 村川)

 

 

 

 

■持続可能な発展への基盤となるQMS

 

“ISO9001改正のこころ”第1回で問題提起された「認証のためのシステムが形式的に構築され,日常の組織活動とは異なる二重の仕組みが作られてしまっている」ことや審査登録制度で懸念された“負のスパイラル”が,完全には払しょくされていない実態を現場で実感することがある。

筆者が属する業界でも,組織の事業活動とかい離したQMSによる認証取得や,適用範囲の不適切な限定などがままあり,有限の経営資源を効率的に活用して経営に貢献するQMSとして十分に活かしきれていない様相が垣間見られる。

 

ISO9001:2015に基づくQMSの構築・維持においては,規格の形式的な適用は避け,組織の目的と戦略的な方向性に深くかかわらせて,QMSが“意図した結果”2回参照を達成する本質的なQMSを志向することを念頭に置くことが重要である。

組織の持続可能な発展の取組みのためにQMSを構築又は維持することを決めた組織にとり,先ず重要なことは,製品・サービスの提供によって他組織を凌駕する高い顧客価値を安定して実現する基盤となるQMSとして何を実施していくかという適用範囲を決めることとである。

ISO9001:2015は,顧客要求事項を満たすことによって顧客満足を向上させるという枠組みにおいて,箇条4「組織の状況」を活用してQMSを適用する範囲を決定することを要求事項にし,経営に貢献するQMSの実現を目指している。

 

 

 

 

■QMSの適用範囲

 

箇条4.3「QMSの適用範囲の決定」は,

箇条4.1「組織及びその状況の理解」に関する監視・レビューされた情報をもとに明確化した“外部・内部の課題”,

箇条4.2「利害関係者のニーズ及び期待の理解」に関する監視・レビューされた情報をもとに明確化した“密接に関連する利害関係者とその要求事項”,並びに“組織の製品及びサービス”を考慮したうえで,QMSの境界と適用可能性を決定し,QMSの適用範囲を定めること

を要求している。

 

QMSは,組織が自らの目標を特定する活動と,組織が望む結果を達成するために必要なプロセス・資源を定める活動からなっている。

特に,トップマネジメントにとっては,QMSによって,自ら決定した長期・短期の結果を考慮しながら資源-例えば,人々,インフラストラクチャ,プロセスを運用する環境,監視・測定の資源,知識など-の利用の最適化が図れる。

箇条4.3は,箇条4.1による課題,箇条4.2による要求事項,そして組織が提供する製品・サービスが実現しなければならない顧客価値をふまえて,組織がQMSの確立,実施,維持,改善を行う適用範囲を決定していくための要求事項である。

 

 

 

■外部・内部の課題に対する考慮

 

ISO9000:2015は,組織の状況を理解することをプロセスの一つとしている。このプロセスでは次の事項を考慮するとよい。

 

・組織の目的,目標,持続可能性などに影響する要因の明確化

・組織の価値観,文化,知識,パフォーマンスなどの内部要因への考慮

・法的環境,技術的環境,競争環境,市場環境,文化的環境,社会的環境,経済的環境などの外部要因への考慮

 

組織の目的は,組織のビジョン,使命,方針,目標などを通じて表明できる。

QMSの適用範囲を決定するときに,これらの観点を参考にして外部・内部の課題は何かを捉える。組織の状況を適切に理解することによって,戦略性をもった事業活動の遂行に不可欠な長期・短期の事業計画とQMSとが必然的に深いかかわりをもつようになる。

このように,ISO9000:2015は,組織の事業プロセスへのQMS要求事項の統合を確実にするという意図が強調されている。

 

審査登録という面では,外部・内部の課題はトップマネジメントに対するインタビューによって確認されることが多い。

組織の状況とその重要性の理解に基づいた外部・内部の課題を組織内で共通的に認識していることが,より一層重要になってくる。

そして,トップマネジメントのリーダーシップのもとで,これらの外部・内部の課題を考慮した計画が立案されてマネジメント(運用管理)され,パフォーマンス評価及び改善が確実に実施されていることの実証が重要になる。

 

 

 

 

■密接に関連する利害関係者の要求事項に対する考慮

 

組織の状況を理解するためのプロセスの一部として,利害関係者を特定することが必要である。

利害関係者は,顧客だけを重要視する考え方を超え,組織と“密接に関連する利害関係者”のすべてを対象にするという観点に立つ。

利害関係者(ステークホルダーという場合もある)は,顧客,所有者,組織内の人々,提供者(製品・サービスを提供する組織),銀行家,規制当局,組合,パートナ,社会(競争相手,対立する圧力団体なども含む)などである。

 

“密接に関連する利害関係者”は,そのニーズ・期待が満たされない場合,組織の持続可能性に重大な“リスク”(不確かさの影響)を与える利害関係者を指す。

重大なリスクを低減するために,密接に関連する利害関係者の要求事項に対して組織が提供しなければならない結果は何かを明確にし,確定する。

そして,組織自らの成功を左右する利害関係者からの支援を引き出して獲得し,保持することが重要になる。

 

リスクについて,箇条6.1に組織がリスクへの取組みを計画しなければならないことを規定しているが,リスクマネジメントのための厳密な方法や文書化したリスクマネジメントプロセスに関する要求事項はない点に注意してほしい。

密接に関連する利害関係者とその要求事項は,何らかの形で組織内に周知して共通認識化しておくことが必要である。

 

 

 

 

■組織の製品・サービスに対する考慮

 

QMSの適用範囲を決めるときに“組織の製品及びサービス”を考慮することの要求事項は,2014年第5版「附属書SL」1回参照にはなく,ISO9001:2015における追加規定である。

なお,ISO9001:2015が対象とする製品・サービスは,顧客向けに意図した,又は顧客に要求された,製品・サービスに限定されて用いられる。

組織がどのような製品・サービスを顧客へ提供するのかは,QMSを構築又は維持するときに最も重要な考慮事項となる。

なぜならば,組織がその使命を果たし,競争優位を維持して持続的成功を実現するには,提供した製品・サービスが創出する価値によって,顧客や密接に関連する利害関係者が満足し,組織の存在価値を持続的に高めていくことが不可欠なためである。

 

製品・サービスの適用範囲を定めるときに,ISO9001:2015の要求事項ではないが,次の取組みを念頭に置くとよい。

 

 

・“顧客価値”(組織が提供する製品・サービスを通じて顧客が認識する価値;顧客は組織が提供する製品・サービスの何に価値を見出して購入するのか)を明確にする。

 

・顧客価値提供のために組織がもつべき能力と活かすことができる特徴-能力の源泉となり得る属性・性質-を明確にする。

 

・明確にした能力と特徴を考慮し,提供価値に対する顧客の評価にかかわる競争優位の視点から“組織能力像”(競争優位であるために組織がもつべき能力の全体像)を明確にする。

 

・明確にした組織能力像をQMSに実装する。

 

 

 

これは,変化への対応能力を強く意識したQMSのモデルとして,2014年12月22日に改正されたJIS Q 9005:2014「品質マネジメントシステム-持続的成功の指針」の箇条4.2「顧客価値提供における成功」に規定されている手引である。

詳しくは,「ホンモノ志向の品質経営シリーズ」のテーマ1:成熟経済社会の真・品質経営モデル(第1回~第20回)を参照してほしい。

 

組織は,箇条4.1に規定する外部・内部の課題,箇条4.2に規定する利害関係者の要求事項,及び製品・サービスを考慮し,QMSの適用範囲を決定する。

QMSの適用範囲は,文書化した情報として利用可能な状態にするとともに,維持することが必要である。

なお,文書化した情報には,“維持”するもの(例えば,文書化した手順,品質マニュアル,品質計画書など)と“保持”するもの(例えば,記録)がある。

 

 

(第8回に続く)

 

(村川賢司)

 

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