ISO9001改正のこころ 第6回 QMSを支える活動(2015-11-16)
2015.11.16
住本が担当の最終回となる第6回です。
第4回及び第5回は、組織の特徴を活かし、持てる能力を最大限発揮するための仕組み構築の基本仕様としてISO 9001の戦略的利用について述べた。
第4回及び第5回は、ISO 9001がマネジメントシステム規格であること強く意識して述べてきたが、第6回では、ISO 9001には規定していないQMSのコンテンツとなるべき具体的活動をどう管理するかについて述べる。
器(マネジメントシステム)に料理(能力と活動)を盛る
ISO 9001:2015の箇条5リーダーシップの5.1.1 一般のc)に、「組織の事業プロセスへの品質マネジメントシステム要求事項の統合を確実にする」と規定されている。
組織の事業プロセスの主要部分は価値創造のプロセスであり、価値創造を通じて持続的な成功に導くことがQMSの目的であることを考え合わせれば当然と言うべき内容である。
この規定の導入は、多くの組織でQMSと実際の事業活動の乖離がみられることに端を発している。
事業活動の乖離と共に、多くの組織で忘れられていると思われるのは、QMSの下、現場で行われる活動の内容とそのレベルである。
マネジメントシステム規格は、目的を達成するための一連の要素、及び各要素の基本仕様並びに要素間の関係を規定しているが、具体的な管理方法について、その詳細について規定していない。
構築したQMSを具体的な成果に繋げるためには、QMSの下に繰り広げられる活動及びそれを支える能力が担保されなければならない。
このための基本活動の展開は、日本が培ったTQMをベースにすると良い。
TQMの活動要素は、新製品開発、プロセス保証、方針管理、小集団改善活動、品質管理教育、標準化及び日常管理である。
この内、システム要素としてのプロセスを定義する際は、標準化とプロセス保証の考え方を、システムの目標展開及び進捗管理には、方針管理を、設計・開発には、新製品開発を適用すればQMSの下で行うべき活動の詳細が見えてくる。
又、システムの日々の運用は、日常管理の考え方がベースとなる。
プロセスアプローチとプロセス保証
ISO 9001が採用しているアプローチにおけるQMSのアウトプットの保証は、個々のプロセスが、要求される基準を満たしたアウトプットを確実に排出することを前提にしている。
又、QMSはプロセスの集合であり、QMSのアウトプットである製品の品質レベルの限界は、個別プロセスのバラツキの積で決まる。
システムは、プロセス間の相互関係のミスマッチなどを排除し、プロセス固有の能力の実現をサポートするが、要求されるアウトプットの基準とプロセス固有の能力の乖離を解消することはない。
要するに、プロセスアプローチでプロセスを構築することとプロセス保証を実践することは不可分な関係にある。
ちなみに、品質管理学会規格 JSQC-Std 00-001-2011では、プロセスの保証を「プロセスが要求される基準を満たすことを確実にする一連の活動」と定義している。
プロセス保証の活動とは、プロセスの標準化を行い、工程能力を把握し、事前にトラブルの未然防止を行い、プロセスを監視し問題の未然防止及び改善を推進することである。
QMSの計画と方針管理
ISO 9001:2015年版の箇条6 計画の6.1.1にQMSの計画に関して以下の通り規定している。
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品質マネジメントシステムの計画を策定するとき,組織は,4.1に規定する課題及び4.2に規定する要求事項を考慮し,次の事項のために取り組む必要があるリスク及び機会を決定しなければならない。
a)品質マネジメントシステムが,その意図した結果を達成できるという確信を与える。
b)望ましい影響を増大する。
c)望ましくない影響を防止又は低減する。
d)改善を達成する。
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ここで、c)は、リスクに関連するので深く言及しないが、a)、b)及びd)は、組織の目的や課題及び機会に関連する。
課題とは、組織の目的達成の障害となる事項であり、機会は、目的達成の推進要因となる事項である。
要するに、6.1.1は、機会を活かし、課題を解決し、組織の目的を達成するために機能するQMSを計画せよと規定している。
品質管理学会規格 JSQC-Std 00-001-2011では、方針管理及び方針を、各々「方針を、全部門・全階層の参画のもとで、ベクトルを合わせ重点施行で達成していく活動」及び「トップマネジメントによって正式に表明された、組織の使命、理念及びビジョン、又は中長期経営計画の達成に関する、組織の全体的な意図及び方向付け」と定義されており、注記にその要素として、重点課題、目標及び方策が挙げられている。
方針管理をQMSを計画する際の指針とすることで、より確実な結果を追求できるQMSとなる。
設計・開発と新製品開発
ISO 9001:2015で設計・開発は、「対象に対する要求事項を、その対象に対するより詳細な要求事項に変換する一連のプロセス」と定義されている。
そのインプットは、4.2で特定した利害関係者のニーズや期待であるが、これを詳細な要求事項に変換することは、そう単純な活動ではない。
特に新しい製品の設計・開発では、その製品が市場に受け入れられるかどうかは、設計・開発の良否が決定し、失敗した時には取り返しがつかない。
採用技術の成熟度や入手可能な経営資源など組織の状況を含め、考慮すべき事項が多々ある。
また、新しいニーズや期待に応える能力を確保するため、計画的で、かつ継続的な活動を展開し、知識と技術の蓄積を図ることも重要である。
新製品開発管理 における市場分析や顧客ニーズの把握は、4.2項により強く関連し、設計・開発におけるニーズの重要度付けやニーズの設計への展開に関しては、品質展開の考え方が適用できる。
これらを実施することにより、顧客ニーズをより確実に製品に反映することが可能になると共に、結果の蓄積が必要な知識や技術の獲得につながる。
QMSの運営と日常管理
日常管理とは、組織が定めたプロセスが、常に期待通りの効果を発揮することを確実する総合的な活動である。
QMSを構築したにも拘らず、品質問題が多発するケースが散見される。
QMSには多くの人が関わっており、すべての人が決まり事を確実に守ることでQMSの真価が発揮される。
日常管理を確実の行うことで、プロセスの活動の詳細が明確になり、各個人がより確実に業務を遂行できるようになると同時に、継続的な監視を通して、異常の早期発見、迅速な対応やトラブルの未然防止が可能となる。
まとめ
ISO 9001:2015を特徴づける、
(1)組織及びその状況の理解、
(2)利害関係のニーズ及び期待の理解、及び
(3)QMSと事業プロセスとの統合
が意図していることは、QMSの運営主体は組織であるということである。
ISO 9001は、組織が保有する能力を最大限に発揮し、組織が品質を通し事業の目的達成するために展開する活動の枠組みを規定しているに過ぎない。
組織は、組織を取り巻く外部環境や組織自身の文化や能力に対応したQMSを構築しなければならず、又QMSの下で展開すべき活動を自身で考え、事業の現場で確実に実施しなければならない。
以上
(住本 守)