概念編 第17回 変化への対応に必要な組織能力(つづき)(2015-09-14)
2015.09.15
■変化した暁に持つべき能力を自覚する(つづき)
前回、「変化した暁に持つべき能力の自覚」について語り始め、それが途中になっていました。
実は、この考察は、すでにこのシリーズで検討してきた、与えられた事業環境において持つべき能力を認識することと本質的には同じです。
持つべき能力を考察する際に、自分自身をよく理解する、自己の特徴を理解していることが重要になるという点でも同じです。
現在および近い将来の事業環境において持つべき能力の認識と異なるのは、「変化した暁」をどう理解するかです。
変化によって、提供すべき価値がどう変わるか、これまで武器にしてきた能力・特徴がそのまま通用するのか、他の能力が必要になりそうなのか、換言するなら自社を成功に導いてきたシナリオのどこにどのような影響を与えるのか、その変化の様相をいくつか想定しなければならないかもしれません。
変化への対応能力の第二に、自身の強み弱み・特徴を知ることを挙げました。
それは、第三に挙げた、変化した暁に持つべき能力を的確なものにするためです。
ある競争環境において有すべき能力が分かったとしても、自分には獲得することの絶対に敵わないものであるなら、意味がありません。
前回、かつて現実に起こった、高級輸入アルコール飲料の関税の税率低下を少しだけ例に挙げましたが、2017年4月に予定される10%への消費税増税により、必要な能力・特徴にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
一般的には、増税前の駆け込み需要、増税後の買い控えが考えられます。
比較的高価な商品、例えば自動車や住宅などでは、増税後にどのような能力・特徴が、事業を優位に進める武器になるのでしょうか。
回収を遅らせるだけの財務上の余裕があるなら(能力・特徴)、新型ローンを工夫できる(価値)かもしれません。
あるいは、価格競争力に余力があるのなら(能力)、1年程度は幾分でも値下げする(価値)ことも考えられます。
あるいは、しかるべき商品力・技術力をテコに(能力)、増税分の値上げ感に見合う新たな付加価値を価格の上昇なく上乗する(価値)という対応があるかもしれません。
いずれも、変化した暁に成立しうる事業シナリオを考察し、そのシナリオの実現に必要な能力を明らかにしなければなりません。
この作戦を的確に行うためには、あたえられた事業環境における競争優位要因を現実に保有するために、自己の特徴を正しく認識していなければなりません。
「何ができる組織か」、「武器にできるものは何か」という意味で、自分自身をよく知っていることが重要です。
私たちは、ときに成功・失敗の要因分析、強み・弱み分析などを行います。
そのとき、その分析の直接の契機になった案件に対する反省であるとか、成功・失敗の要因構造に関心が向きますが、自分自身を深く知る機会でもあるということも忘れたくありません。
■自己を変革する
変化への対応能力の第四として、「自己を変革する」ということを挙げました。
変化の様相とその意味を知り、変化した暁に実現すべき組織能力像を、自己の特徴を踏まえて明らかにし、その実現すべき組織能力を持つべく、自己を変革するということです。
実は、自己を変革するということは、どう変革すればよいか分かっていたとしても、2つの点で難しいことです。
その第一は、人間というものの「保守性」です。
誰にとっても「変える」には、それ相応のエネルギーが必要です。
変えることは、心理的には、「面倒くさい」ことです。
自分を変えるということは、ときに自分が間違い、自分が劣っている、少なくとも今の自分は十分でないことを認めたことを意味しているように感じられます。
誰もが、そう古今東西老若男女を問わず、自分の非は認めたくありません。
「いやあ、それは問題だ。だが、もう少し事態の推移を見守り、問題の原因構造を分析し、どのように対応すべきか慎重に考えた方がよい」なんていう方が、組織の主流には多いものです。
組織には、これまで縷々述べてきた事業環境分析力と対応検討力が必要ですが、それよりもこの心理的障壁を取り払う何らかの価値観、組織運営の工夫が必要です。
よく行われているのは、良い意味での危機感の醸成、問題意識・改善意識、さらにはビジョンの明示と共有などでしょうか。
環境に対する強い感受性を維持し、自己のあるべき姿を常に描いている組織でありたいと思います。
自己変革の難しさの第二は「日常化」です。
「システム化」です。「思いを形に」と言ってもよいかもしれません。
変化した暁に持つべき組織能力を認識し、その能力を持つように自分を変える気が満々であったとして、「三日坊主」になりかねません。
これまで日常的に、いわば習慣で実施してきたことを変えようというのですから、そのプロセス、システム、組織、知識基盤そのものを変えない限り、本当には変わりません。
変えるべきと考えた能力は、どのQMS要素が担っているのでしょうか。
顧客の使用条件・環境条件に対する検討の深さ・広さを充実する必要があると判断し、製品評価計画、FMEA、DRなどのプロセスを革新しようと決めたとしましょう。
例えば、DRはどう変えれば良いのでしょうか。
DRに付される文書の構造や表現のポイントをどう変えればよいでしょうか。
DRにおけるレビューアーに関わる規定、例えば専門性や職位などの何を変えるべきでしょうか。
DRにおけるレビューの視点、あるいは知識基盤をどう充実すればよいのでしょうか。
そしてこれらDRの実施プロセスのどこをどう変えるべきでしょうか。
強化したい組織能力を具現化できるようにQMSを変えて、その通りに実施しなければ、実質的には何も変わらないかもしれません。
(飯塚悦功)