概念編 第1回 顧客に何を提供しているのか(2015-05-25)
2015.05.25
今週から,我々が提唱している真・品質経営の実践において,皆さまに理解していただきたい重要な概念を説明したいと思います。それは,
- 顧客価値
- 組織能力・特徴
- 事業シナリオ
- システム化
- 変化への対応
の5つです。
本概念編では,これらの各概念の意味や意義について具体的な例を交えながら解説したいと思います。
まずは顧客価値です。
本メールマガジンの読書の皆さんは何かしらのビジネスをやっている,もしくはそのビジネスをやっている会社・組織の中の一員である方が多いと思われます。
製造業の方もいれば,コンサルテーションなどのサービス業の方もいるでしょう。
いずれにしても,何らかの有形・無形の製品・サービスをお客様に提供して,その結果としてお客様からお代を頂いて,ビジネスを運営していると思います。
まずは皆さまの会社・組織の主要な製品・サービスをひとつ,思い浮かべてみてください。売り上げや利益貢献の大きい製品でもよいですし,自分が所属している部門が主担当している製品でもかまいません。
Question 1:その製品・サービスは売れていますか?それとも売れていませんか?
売れているのであれば,その理由は何でしょうか?
営業・販売部門ががんばって売りさばいているからでしょうか?
それとも,製造部門が不良をほとんど出さずに安定した品質の製品を大量に作れているからでしょうか?
答えを“自社”に求める前に,その理由を顧客の視点からまず考えてほしいと思います。
お客様はあなたの会社・組織から製品・サービスを受け取る側です。
そして,あなた(たち)が会社内でがんばっている姿を目にすることはありません。
また一般的に,お客様が欲しい製品・サービスを提供できるのはあなただけではありません。
当然,競合相手が存在しています。
競合がいない市場,いわゆる“ブルー・オーシャン”を見つけることも重要ですが,それも近い将来には“レッド・オーシャン”になってしまうでしょう。
したがって,お客様からすれば,遅かれ早かれ,欲しいと持っている製品・サービスを提供してくれる相手は複数いて,その中から選択しています。選択権はお客様側にあるのです。
一番大切なことは,そのときにあなたを選んでくれること,選び続けてくれることです。
もし,売れている製品・サービスであれば,
Question 2:お客様はなぜ“あなた”から製品・サービスを買っているのでしょうか?
(売れていないのであれば,お客様はなぜ“あなた”ではなく,別の誰か,すなわち競合を選んでいるのでしょうか?)
このQ2の質問への回答こそが,「顧客価値」です。
「顧客価値」というとすぐに,何か世の中にない,目新しい新製品・サービスを考えなくては...となる方が多くいらっしゃいます。
しかし,顧客価値とはあなたが今提供している(またはこれから提供しようと思っている)製品・サービスをお客様が選ぶ理由・根拠であり,顧客価値=製品・サービスでは決してありません。
あなたが提供している製品・サービスは,お客様があなたをついつい選んでしまう理由を作り上げるモノであり,言い換えれば顧客価値をお客様に届ける手段となるのです。
顧客価値をもう少し正確に言えば,提供した製品・サービスを使用したり,消費することによってお客様が得られる効用や便益のことです。
得られた効用・便益がお客様にとって喜ばしいのであれば,その製品・サービスは価値あるものと認識され,あなたを選ぶ明確な理由・根拠ができるのです。
逆に,もしあなたの製品・サービスの売り上げや利益に低下傾向があるのであれば,お客様が十分に満足できる効用や便益を提供できなくなっている可能性があると考えたほうが良いでしょう。
我々は顧客のニーズ・要望を明らかにしようとするとき,ついつい無意識的に顧客価値の提供手段である製品・サービスの仕様(性能・機能など)で考えようとすることが多いように思いますが,これは違います。
製品・サービスは手段ですから,その目的,すなわち製品・サービスの提供を通じてお客様にどのような顧客価値を届けるべきかを明らかにする必要があるのです。
私もよく利用する,皆さんもご存知のスターバックスの例で考えてみます。
スターバックスはコーヒーという有形の製品・サービスを提供していますが,トールサイズのコーヒーは300円を超えています。
いま日本で最もコーヒーを売っているところはコンビニエンスストアと言われていますが,その価格は100円程度で,スターバックスの1/3です。
では,3倍の価格でもスターバックスが増収増益を続けている(顧客に受け入れられている)理由はなぜでしょうか。
有名な例なので,読者の皆さんは既に回答をご存知かもしれません。
“自宅でもない,会社でもないひとりでホッとできる空間”であるからと言われていて,3倍の価格でもお客様(私も!)が利用する理由・根拠です。
また,B to Bの例としてテレビやPCなどに搭載されるノイズ・サージ対策部品の製造会社を上げます。
顧客価値分析をしてみた結果,顧客企業が継続してこの会社の対策部品を採用している理由は主に2つあることがわかりました。
ひとつは,顧客企業の製品を最終ユーザーがどんな使用環境下で使用しても絶対に燃えない,そのような高い信頼性を持った対策部品を大量に製造できるからでした。
もうひとつの理由は,顧客企業内の設計者に対して,設計した製品のどこにどのようなノイズ・サージ対策部品が必要であるかを診断し,提案していることでした。
すなわち,顧客企業内の設計者への設計支援が重要な顧客価値であったのです。
B to Bにおいては,設計者への設計支援などに代表されるように,顧客企業のビジネス・ソリューションを提供することが,主要な顧客価値の一つになることが多いようです。
これら2事例の説明から,顧客価値の意味について少しは理解頂けたかと思います。
また,お客様に直接的に提供しているモノは製品・サービスですが,それは手段に過ぎず,本当に届けたいモノは顧客価値であり,それがあなたを選び(つづける)理由・根拠になるのです。
さて,最後に次の質問をして終わりたいと思います。
Question 3:製品・サービスを介して,あなたは顧客にどのような価値を提供している(すべき)でしょうか?
(金子雅明)