基礎から学ぶQMSの本質 第26回 品質保証体制 (2016-07-19)
2016.07.19
1)品質保証とは
“品質保証”(Quality Assurance、 QA)の国際的な定義は、「品質要求事項が満たされるという確信を与えることに焦点を合わせた品質マネジメントの一部」(JIS Q 9000:2015)となっていて、広い意味の品質管理(品質マネジメント:Quality management)のほんの一部となっています。
(注記)『品質マネジメント:Quality managementには、品質方針及び品質目標の設定、並びに品質計画、品質保証、品質管理及び品質改善を通じてこれらの品質目標を達成するためのプロセスが含まれ得る。』(以上、JIS Q 9000:2015の3.3.4)。
一方、日本流の考え方(定義)では、「顧客・社会のニーズを満たすことを確実にし、確認し、実証するために、組織が行う体系的な活動」(日本品質管理学会『品質管理用語85』)としています。
“保証”とは「大丈夫だ、確かだとうけあうこと」(広辞苑)ですが、日本流の品質保証の方は、「顧客だけでなく社会を含めたニーズに対する」「組織を挙げた」活動としており、概念が広くなっています。 一方、国際的な定義では、“品質要求事項”について“実証する(確信を与える)”活動だけが強調されており、QAの和訳は“品質保証”ではなく、“品質実証”又は“品質確約”とするのがよいとまで言われています。
いずれにせよ、「品質管理は、品質保証を達成する手段」であり、品質保証が目的、品質管理がその手段と考えるのがよいと思います。
「QC的ものの見方。考え方」の一つに挙げられる「品質は工程で作りこめ」の意味の「検査で不良品の出荷・受け入れを減少させるのではなく、工程(プロセス)を解析・管理・改善して、品質を保証して行こうという考え方」が、ここで大切になります。
ちなみに、40数年前に筆者(松本)が会社(非鉄金属加工メーカー)に入社した時には、製造部の中に「検査課」という名称の部門はありましたが、「品質保証」という名称の部門はありませんでした。それからかなり経って、重大品質問題への対応として初めて「品質保証」という名の部門が、全社一斉に誕生しました。
2)品質保証活動の要素
品質保証の“保証”と“補償”とは音(おん、読み)が同じですが、その意味は異なります。
“補償 compensation”とは、「欠陥による被害を償(つぐな)うこと」であり、問題発生後の金銭的な事後処理です。それに対して“保証”は、お客様に「大丈夫だと請け合う」ことで、問題発生の前に重点が置かれていると言えます。
製造物責任法(PL法、1995年施行)は、保証ではなく補償に関する法律です。
以上のように “保証”と“補償”とは本来は意味が異なりますが、家庭電化製品等についている“保証書”には、「メーカーの責任による故障の場合には、無償で取り替えます。」というようなことが書かれている場合が多く、“保証”だけでなく“補償”の意味も含んでいると考えられます。
「品質保証活動の要素」を分解して考えると、以下の(1)~(2)のようになります。
(1)“はじめから”品質の良い製品・サービスを生み出せるようにすること
①手順を確立する(顧客満足が得られる品質達成の手順の確立)
②手順が妥当であることを確認する(手順通りの実施で顧客満足の品質達成かの確認)
③手順通りに実行する(手順通りの実施、実施されてない場合のフィードバック)
④製品・サービスを確認する(製品・サービスの品質水準の確認、未達の場合の処理)
(2)“もし不具合があったら”、適切な処置をとること
①応急対策(クレーム処理、アフターサービス、製造物責任補償)を実施する
②再発防止策(品質解析、前工程へのフィードバック)を実施する
上記(2)の「“もし不具合があったら”、適切な処置をとること」の具体的な処置として「クレーム処理」がありますが、これについては、次回に詳しく解説します。
3)品質保証システム
3.1)品質保証体系図
製品の設計・開発からアフターサービスなどまでの一連の製品のバリューチェーンの中で、全社の各部門が果たすべき役割を明確にし、品質保証活動を確実に実施する道具(帳票)として品質保証体系図が作られます。
“品質保証体系図”とは、製品の設計・開発から製造、検査、出荷、販売、アフターサービス、クレーム処理などに至るまでの各ステップにおける品質保証に関する業務を各部門に割りふったもので、通常、フローチャートとして示されます。
横軸に品質保証に関係する各部門および必要に応じて会議体、関連帳票類、標準書などの記入欄を設け、縦軸に品質保証活動を進めるためのPDCAサイクルを業務の流れとして書き表します。
この体系図の書き方は“業務フロー図”と同じ要領であり、個別の“業務フロー図”を全社的な品質保証活動全般に広げたものが“品質保証体系図”といえます。
この図を縦横に見ることによって、手順の流れと部門間の分担・連携が明確になり、その組織の品質保証のやり方の“見える化”が実現できます。
品質保証体系図には、品質保証のために必要な様々な手順と活動要素が含まれており、品質保証体系図の見方としては、以下の①~⑤の5点があげられます。
①縦の流れの各ステップを進めるための判定基準、特に部門間の引き渡しに着目する。
②会議体や処置などが複数の部門にまたがる形で行われる場合は、それぞれの役割、責任の所在に着目する。
③各ステップに対応する会議体、標準類・帳票類の位置づけに着目する。
④各ステップを縦に見て、この流れで本当にPDCAが回っていることになるのか確認する。
⑤この体系図に従った活動の結果、顧客の満足する製品の提供がなされているかという実績を把握し、この体系図が有効かの検証を行う。
筆者(松本)は、ISO9001の仕組み構築を支援する時には、最初にその組織の品質保証体系図を時間をかけて作成してもらいます。
それは、その会社固有の品質保証のやり方がこの品質保証体系図に集約されており、ここから基本的な組織としての品質保証上の特徴と問題点も出てくるからです。
認証取得後かなり経った組織でも、そのようなものはなく、ISO 9001:2008 の4.1項及び4.2.2項で明確化を要求されている「プロセスの順序及び相互作用」「プロセス間の相互関係に関する記述」に対応したものとしては、万国・全業種・各社共通と考えられるISO9001:2008の図1(プロセスを基礎とした品質マネジメントシステムのモデル)を少しだけ細かくアレンジしたものを提示され、「あれっ?!」と思うことがあります。
3.2)品質保証部門が果たす役割
品質保証のための組織として、品質保証部門が設置されます。品質保証部門は、品質保証活動の事務局として、各部門における品質保証活動の推進プロセスの推進・支援を行い、品質保証に関わる全社的な課題を明確にし、その解決を図るために設置されます。その役割の例を以下の①~③に示します。
①経営陣のブレーンとしての役割
・品質方針や品質保証計画を起案する
・経営陣へ品質状況の報告を行う
②全社的品質保証体制の確立・充実と調整の役割
・品質保証規定の起案等を通じて品質保証体制を確立・整備する
・品質会議を主催する
・全社重要品質問題の解決に関わる調整を行う
③品質保証の個別業務を実施する役割
・購入品や製品の試験・検査を行う
・顧客向けの品質報告書等を作成・発行する
・試験・検査機器の管理(校正等の精度管理を含む)を行う
・クレーム処理(顧客対応の窓口、再発防止策の検討・承認等)を行う
本来、営業、設計・開発、購買、製造等のそれぞれの機能別組織部門が品質保証の機能を持っており、品質保証部門は、その全社横断的な活動をすべきです。
このために上記②にもある「品質会議」等の名称の機能別(経営要素別)委員会を設けている会社が多いようです。
上記①~③では、③の実務に追われて(それを口実にして)重要である①~②が、なおざりになっている会社も見られます。
このような弊害を防ぐためか、上記①~②の役割を担う部門として「品質管理部」というものを設け、上記③を担当する「品質保証部」から独立させている会社もあります。
会社によっては、この「品質管理部」と「品質保証部」の名称と担当業務の関係が逆転している場合もあります。
ですから、品質保証関係の部門については、それぞれの会社で「どのような具体的な業務を担当していますか?」と聞くことが欠かせません。
ちなみに、筆者(松本)が務めていた会社(非鉄金属加工メーカー)では、上記①~②の役割に全社的な品質管理教育推進の役割等を付加した形の組織として「品質管理推進室」という全社横断部門があり、これとは別に各事業部にそれぞれ、上記③にISO9001 認証関連の業務を付加した「品質保証部」という部門がありました。
いずれにしても、「品質保証システム」とは、「品質に関わる日常の様々な活動を有機的に関連づけ、総括的に管理する仕組み」ということができます。
3.3)トップのリーダーシップ、コミットメント
経営者は、品質に関わる全ての人の責任、権限、相互関係を明確にして、会社全体として品質を達成できる組織をつくらなければなりません。
後を絶たない、品質に関連する企業の不祥事の責任は、やはり経営者にあると考えられます。
経営者として「事後責任」をとるのではなく、「事前責任」が求められています。
経営者は、品質保証システムが、期待通りに機能しているかを確認し、必要な処置をとる必要があります。
その一つのかたち(手段)がISO9001が要求している「マネジメントレビュー」であり、日本的品質管理において機能してきた「トップ診断」(詳細は別の回で解説します)です。
(松本 隆)