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基礎から学ぶQMSの本質 第10回 PDCAを回す(2016-3-28)

2016.03.28

 

 

■Act

 

前回に引き続き、PDCAの最後のステップ、Act(処置)について考える。

 

 

PDCAのサイクルのうち、Act(処置)に、品質マネジメントの特徴が現れる。

 

ご存じの方も多いだろうが、経営工学(Industrial Engineering、IE)の分野にはPDSサイクル(Plan:計画する、Do:実施する、See:見る)という本質的に同じ概念がある。

品質管理分野はAct(処置)にこだわりがあるので、“See”を“Check”と“Act”に分けたと言ってもよいかもしれない。

 

さて、Act(処置)において、Check(確認)で目標とのズレが確認されたら何らかの処置をとる。

誰でも行う処置は、管理対象となった案件、ケースをとにかくやりくりをして所期の目的を達成することである。

それは望ましくない現象の解消であり、いまも事態が進行しているなら影響拡大防止の手を打つことである。

これらが「応急処置」と総称されるものである。

 

 

PDCAサイクルの第一の意味は、現在進行形の案件について、目標との乖離が認識されたら、修正や影響緩和処置など何らかの対応をとって、所期の目的を達成しようとするような、管理の直接的な目的達成行動である。

 

実は、PDCAサイクルには第二の意味もある。

それは、現象を好転させるための応急処置とともに、二度と同様の問題が起きないように原因を除去し、将来に備えることである。

この処置を「再発防止策」あるいは「未然防止」と称して、ことのほか強調している。

 

なぜ、このようなことを強調するのであろうか。

 

それは得するからである。

 

再発防止の基本は原因の除去である。

結果は原因があって起こる。

同様の状況が将来起きたとき、その原因が除去されていれば、同じ原因での問題は起きない。

ことが起きる因果構造を理解し、原因系に手を打っていく、このことによって、繰り返し行われる管理活動においてそのレベルが上がっていく。

 

原因に手を打つことによって、実は主にP2(目的達成手段)の改善につながる。

もちろんP1(目的・目標)の妥当性向上、D1(実施準備)の完全性確保、D2(P2通りの実施)の阻害要因の除去によるD2の確実性向上にもつながる。

これらが「PDCAを回す」ということの意義・意味であり、これこそが「マネジメント力」の向上を促す。

 

処置のいろいろ、PDCAサイクルの多重性について例で考えてみよう。

部品500個の設計・生産を受注して、50個作ったところで材料硬度に関する不具合が発見されたとしよう。

 

熱処理に問題があって、その50個の処理をやり直して所定の硬度となるようにする処置が応急対策である。

ときにはスクラップ(廃棄処分)にすることが応急処置となる。

不良になってしまった50個について、仕様に適合する部品を作るという目的を達成するための処置となる。

 

これから作る450個をどうすればよいだろうか。

確実な熱処理ができるように製造工程に工夫をするだろう。

製品設計内容(製品仕様)の変更を行うかもしれない。

これは直接的な再発防止策である。

実は、このことによって、残りの450個だけでなく、将来受注するかもしれない同じ部品に対しても再発防止ができている。

 

もっと広く、そのような不安定な工程を設計し、管理計画を立案したその方法に問題があると考えれば、工程設計や製品設計の方法というシステムに対する処置をとる。

これは設計方法やシステムに対する再発防止であり、あるいは問題を起こしていないプロセス、活動要素を改善して問題の発生を事前に防止してしまう未然防止とも言える。

 

再発防止とは、起こしてしまった問題を材料にして、いろいろ研究をし、技術や管理の不備、改善の可能性を探り、自分たちをレベルアップする学習の機会ととらえるべきであろう。

だが、その意味では、「再発防止」と「未然防止」を厳密に区別するのは難しい。

 

一応、再発防止は起きた不具合の原因を除去することによって再発を防止すること、未然防止は事前に原因を除去することによりまだ起きていない不具合の発生を防止すること、と区別することはできる。

しかし、何が再発したのかの解釈によってどちらともいえる。

 

例えば、工程設計プロセスの脆弱性によりトラブルが起きたとする。

ある一つの工程設計の経験からプロセスの問題を発見し、将来実施する工程設計で起こるかもしれないトラブルを防止したら、その工程設計案件については未然防止だが、工程設計プロセスについては再発防止である。

 

品質マネジメントは、何か問題が起きたときに、こうした深い処置をとることを勧めている。

このような処置をとるためには、現象から原因、それも根本原因にまでさかのぼる解析が必要で、品質マネジメントに科学的問題解決法が含まれ、そのためのさまざまな手法があるのは、再発防止・未然防止への強い思い入れがあるからである。

 

 

 

■応急処置と再発防止のどちらが重要か?

 

ことほど左様に、品質マネジメントでは、再発防止、未然防止に深い思い入れを持っている。

それでも、応急処置と再発防止のどちらかが重要かと問われれば、私は応急処置と答える。

 

そんなバカなと思うかもしれない。

だが、問題が発生して、いま良くない事態が進行している状況を考えてみてほしい。

 

例えば、火事が起きている場合、その場で火災の原因を追及していると、全部燃えてしまう。

とりあえず消し止めて、延焼を防ぎ、その後にゆっくり、なぜ起きたか、なぜもっと早く発見できなかったか、なぜもっと初期に消火できなかったかを分析して将来に備えるべきである。

 

クレームでも同じである。

とにかくいま目の前のお客様の不都合を解消することが重要である。

迅速、的確、誠実が重要である。ただ、それだけで終わらせず、将来のためにまともな原因分析をして、再発防止を図るのが筋である。

 

医療での緊急時の救命救急も同じである。

そうなってしまった原因、経緯はいろいろあるし、そうならないようにできたもしれないが、その分析をする前に、すでに危険な状態になってしまったのだから、とにかく安心できる状態にするための処置を考えるべきである。

 

事件、事故が起きたときのレジリエンスという概念も、緊急対応・影響緩和という応急処置の重要性を物語っている。

もちろん、事前の計画においては、様々なリスクを想定して目的達成のためにいろいろ備えるだろう。

それでも想定を超える事象や、想定していたがマジメに備えていなかったような事象が起きるかもしれない。

そのとき、そこからの現実的な回復力・復元力のような能力、対応力を持ちたいものである。

 

応急処置が重要か再発防止が重要かという議論は、PDCAの回し方に、少なくとも2つのフィードバックのかけ方があることを指摘しているともいえる。

 

一つは、管理の直接の目的である当該案件の目標をクリアするためのCとAである。

このAが修正、影響拡大防止などの応急処置である。

もう一つは、将来類似の案件の処理に適用することになるPのレベルアップのためのCとAである。

つまり、目的・目標達成手段のレベルアップのためのAで、これが再発防止ということになる。

 

管理の直接の目的を達成し、それに満足することなく、もっと合理的に、もっと効率的に達成できるように、再発防止をするということである。

 

 

 

■PDCAで最も重要なのは?

 

PDCAの話しの最後に、PDCAのうち最も重要なのはどれかについて考えてみよう。

 

読者諸兄はどう思われるだろうか。

Plan、Do、Check、Actのいずれが欠けてもまずいし、いずれもそれぞれに重要なので答えるのは難しい。

それでも、ここまでの説明から、P(Plan)あるいはA(Act)と答える方が多いと思う。

 

だが、私は敢えて、たぶん最も少数派の“Do”と思う、と言っておこう。

目的達成の必要条件は、どんなにアホでもよい、とにかく実施することで、これが基本である。

やらなければ何も始まらない。

とにかく、昔から、仕事はDo-Do-Doでやってきた。

 

Pにしろ、Aにしろ、またCにしろ、それはみなDo-Do-Doをもっと価値あるものにするための活動といえる。

 

Doが基本であって、そのDを有効で効率的なものにするために、P、C、Aがあるとはいえ、Pの重要さはどんなに強調してもし過ぎることはないとの反論が聞こえてくる。

実行力は重要だが、P抜きとか、貧相なPでは、単なるバカだ、との声も聞こえてくる。

 

いや、大いに結構。

PDCAの意味を再度よく考えていただければ、幸いである。

 

さて、Doの重要性について、P2通りのDoという意味での重要性を強調して、PDCA談義を終わることにしたい。

 

私はときに「ABCのすすめ」を話題にする。ABCとは、
(A:あ)当たり前のことを、(B:ば)ばかにしないで、(C:ち)ちゃんとやる
という意味である。

 

 

そのこころは、
・当たり前: 望ましい結果が得られる優れた方法
・ばかにしない: 望ましい結果が得られる理由を知っている
・ちゃんと: やるべきことは誰も見ていなくも愚直にやる
ということである。

 

 

 

目的達成(P1)のために、目的達成手段(P2)を遵守して実施(D2)するということの重要性を強調してのことである。

そして、その通りできる人を賢者と呼びたいし、こういう人の愚直さを「賢者の愚直」と呼びたい。

賢者、すなわち頭が良い人とはどんな人のことを言うだろうか。以下のような人のことだろうと思う。
・目的が分かる、目的志向の思考と行動ができる
・因果関係、目的手段関係が分かる
・ことの本質、何が重要か分かる
・正しいことを、“愚直”に継続的に行うことができる

 

Pの根拠を知り、愚直にDができる人、その思考行動様式が「賢者の愚直」である。

 

(飯塚悦功)

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