基礎から学ぶQMSの本質 第2回 顧客は誰か(2016-2-1)
2016.01.29
基礎から学ぶQMSの本質シリーズ,第2回目は“顧客は誰か”です.
■顧客の多様性
顧客とは,自社の商品・サービスを受け取って,対価を支払った方と考えがちです.
もちろん,それはそれで間違えではないのですが,より一般的に考えてみると,商品・サービスを受け取った方と支払いをした人が必ずしも一致しないこともあります.
例えばファミリー・カーは,支払いをするのは夫ですが,主に運転するのは妻かもしれません.
また,どの車にするかについての選択権を持っているのも妻であることが少なくありませんね.
子供たちは車による移動サービスを受けていますが,車の選択権はほぼないと考えてよいでしょう.
この場合,購入した人と使用(運転)する人は同じですが,どの車がよいかを選択した人と,その商品・サービスの便益を受ける人は大きく異なることがわかります.
第1回で例に挙げたギフト商品については,贈る側と贈られる側の双方を顧客と捉えるべきでしょう.
また,大学の顧客についても触れました.
大学の顧客は実は学生ではなく(そのように誤解している大学も多々見受けられますが),その学生が就職する企業,もっと広く言えば社会です.
品質の良し悪しとは顧客のニーズをいかに満たせるかにかかっているわけですから,企業や社会から求められる人材をいかに輩出できるかが大学の品質であり,その代表的な指標として就職率や企業からの推薦枠数などが考えられます.
このことは,B to Bにおいて同様で,例えば部品メーカにとって顧客企業の購買部門と設計部門とでは求められるものが大きく異なることが多いですね.
■社会的品質
上記に示したような購入者,使用者など以外に,第三者を顧客と考えることもできます.
すなわち,企業が作り出した商品・サービスが使われ,廃棄される際に影響を受ける人々も,顧客の一部と考えて商品・サービスの企画・設計を行わなければならない場合もあります.
皆さんもお聞きになったことがあるかもしれませんが,「社会的品質」という概念のことです.
この考え方は,公害問題が発生した1970年代に広く世間に広がりました.
例えば,先ほど例に挙げた自動車を使用することによって出る排気ガスについては,大気を汚染させ,地球環境問題を悪化させる原因と指摘されています.
購入者の中には,排ガスを気にせず,安くて走行性能が高ければよいと考える方もいるかもしれませんが,現代の社会・世の中の風潮としてそれは許されず,自動車製造会社は少なくとも排ガス規制に適合した車を提供する義務があります.
このように,商品・サービスを企画,設計,製造する際には,多様な顧客の異なるニーズに常に留意する必要があるのです.
■内部顧客,後工程はお客様,そしてプロセスオーナー
これまでは,企業の“外部”にいる顧客について話をしてきました.
実は,企業の“内部”についてもその顧客の考え方を適用して,「内部顧客 (Internal customer)」という言葉を使用することがあります.
例えば,ある製品を製造するために大きく分けて3つの工程(工程1,工程2,工程3)があり,あなたが工程2の作業を担当している,というケースを考えてみましょう.
工程1(例えば,購買部材の受け入れ検査)から出てきた部材を用いて工程2で必要な処理・作業(例えば,加工)を行い,その中間製品を工程3(例えば,組み立て)に流して最終製品が出来上がります.
もし,工程2であなたが実施した処理・作業が意図せず不適切な内容であった場合,当然それを受け取った工程3に悪影響を与え,工程3内において普段はやらなくてもよい修理・調整をしたり,最悪の場合は処理・作業自体をいちからやり直すことになるかもしれません.
工程2での処理・作業の出来栄えが工程3に影響を与えているのです.
実際にこのような事態が発生したら,工程3の作業効率や品質に悪影響を与えないように,工程2から工程3に渡る中間製品の品質を改善する必要があります.
このことは,実は工程2のあなたの立場から考えると,工程3を“顧客”と捉え,その顧客のニーズ(工程3で実施する作業に悪影響を与えない中間製品を提供してほしい)を満たそうとする活動と考えることができます.
つまり,会社の内部にいる方を顧客と捉える,これが「内部顧客」の意味です.日本では「内部顧客」と同じ意味であるが異なる言葉として「後工程はお客様」で広く知られている概念です.
また,今の話は工程2と工程3の間のことでしたが,これは工程1と工程2の間でも同様で,工程1から不良部材が入ってきたら工程2は困るわけです.
さらに,工程1,工程2ががんばって品質の良い部材と中間製品を出したとしても,工程3の処理・作業がまずかったら,最終製品の品質不良につながります.
つまり,すべての工程の方が全員参加で取り組まないと最終的に良い品質の製品は作れないのです.
各工程の担当者はそれぞれの工程の目的が何であり,その目的達成のための業務を確実に遂行し,その成果に責任と誇りを持って働くことが必要だということです.
これは,米国では「プロセスオーナー(Process owner)」という概念として広まり,日本においてもトヨタ自動車をはじめとして「自工程完結」という言葉で積極的な取り組みをしています.
(金子雅明)