超ISO企業研究会

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メルマガ① 真・品質経営

概念編 第11回 事業シナリオの描き方(2015-08-03)

2015.08.04

 

前回に引き続き,今回も事業シナリオの描き方について話を進めます.

 

その第1ステップは,前回説明した“事業環境を理解する”ことでした.この後は,“現状の事業シナリオを明らかにする”ことから始めます.

 

 

 

■現状の事業シナリオを明らかにする

 

“現状の事業シナリオ”とは,現時点の自社を取り巻く事業環境の中で自社がどのように事業を運営させ成功に導こうとしているかであり,まずはこれを明らかにする必要があります.

 

私たち超ISO企業研究会では,提唱する『真・品質経営の実践』に必要な全てのツールを準備しており,それらを4つのモジュールに分けています.

モジュール1の目的は,まさに“現状の事業シナリオ”を明らかにすることであり,8つのツールが存在します.

 

その名称をざっと並べてみますと,

 

(1)分析対象事例概況
(2)事業主体者とその関係図
(3)購買決定構造分析
(4)顧客価値特定
(5)必要能力分析表
(6)自社分析表
(7)事業メカニズム分析モデル
(8)事業シナリオ図

 

があります.

 

 

「(1)分析対象事例概況」は,自社の過去の受注・失注の実績を取りまとめるための表です.

 

この表は(2)以降に必要な分析基礎データとなります.

これから新規に始める事業であれば過去の受注・失注実績データはありませんので,その場合はこれから始めようとしている事業においてどんな顧客がいるのか(またはいそうか),先に参入している競合の状況や実績などがインプットデータになるでしょう.

 

「(2)事業主体者とその関係図」は,自社を取り巻く事業関係者が誰であり,それぞれがどのような関係にあるかの概要を整理するためのツールです.

(2)の事業環境の概要を理解した上で,「(3)購買決定構造分析」と「(4)顧客価値特定」を用いて顧客価値を明確にします.

 

「(5)必要能力分析表」は,顧客価値提供に必要な組織能力及びその中においてどれが競争優位要因になり得るかを明らかにするツールです.

 

「(6)自社分析表」は自社独自の特徴を整理するための表です.

このように,(3)~(6)のツールによって,現在の顧客価値,組織能力(競争優位要因),自社独自の特徴が互いに関連づいて整理されます.

 

では,(2)の事業主体者とその関係図で理解した現状の事業環境の中において,自社のビジネスをどのように成功させようとしているのか,その会社や経営者の意図を可視化するために「(7)事業メカニズム分析モデル」,「(8)事業シナリオ図」のツールを用います.

 

実際の分析の流れはこのように(1)から(8)へときれいに行くことは稀であり,行ったり来たりして完成させることになります.

 

とりわけ,(2)~(6)の分析結果を(7)と(8)のツールで整理する際に,顧客価値や組織能力に抜け・漏れが見つかったり,自社独自の特徴だと思っていたものが実は競合他社も有していたり,当初は思いも付かなかったような自社の特徴が見つかったりすることがあります.

 

これまでに適用したいずれの企業において,この分析をしていただいたのは経営者及び経営幹部+品質管理のトップの方です.

分析する中で分からないことがあれば,営業部長や現場第一戦で働く営業スタッフに話を聞いたり,自社の能力や特徴の話になれば時には製造部長や研究開発部長に話を伺うこともあります.

 

前回も言いましたが,部門を超えて全社一丸となって,いったい自社はこの事業をどのように成功に導こうしているのか,それを社員はどのように認識・理解しているかを話し合うことはとても良いことです.

経営者が現場スタッフから有益な情報や考えを得ることも少なくないのです.

是非,やってみてください.

 

 

 
■事業シナリオを改善する

 

次にやることは,可視化した現状の事業シナリオを改善することです.

これは,超ISO企業研究会提唱の真・品質経営実践ツールのモジュール2に当たります.

 

ここでは,こちらで準備した質問リストに回答していくことによって,事業シナリオの改善点を見つけ出すことです.

代表的な質問をいくつか以下に紹介しましょう.

 

 

質問1:提供している顧客価値は市場の中で適切な位置取りはできているのか?

– その価値は,顧客が本当に必要としているか
– その価値は,顧客にとって競合品との明確な識別要因となるのか

 

 

質問2:自社が提供する顧客価値を本当に評価してくれる顧客へフォーカスをできているか?

– 顧客価値を評価する顧客像とその規模はどのぐらいか
– 現在取引している顧客と,本来取引したい顧客の間にズレは無いか

 

 

質問3:提供する顧客価値の内容は的確か?

– 顧客価値は本当に顧客にちゃんと伝わっているか
– 提供する顧客価値の中で過剰,過小な部分があるか

 

 

質問4:顧客価値提供のための組織能力として妥当か?

– 競合との競争において最も重要な組織能力があるか,抜けていないか
– 提供価値に直結しない能力が挙がっていないか
– 自社とは全く別の方法で顧客価値提供が実現できることはないか

 

 

質問5:組織能力を強化できそうなところはないか?

– 能力にまったく活かしていない特徴はないか
– 特徴の活かし方は十分か,もっと効果的な方法はないか
– 能力に活かすべき特徴自体を育成し,継続的に向上させる仕掛けを組み込んでいるか

 

 

質問6:この顧客価値提供サイクルは事業として持続可能か?

– 価値提供サイクルを続けるための目標収益を達成できているか
– 価格は顧客にとって妥当な額なのか
– コスト構造は合理的なものとなっているか

 

上記の質問の内容はかなり一般的になっており,なかなか回答するのに骨が折れます.

 

 

モジュール1は自社やその周辺に関することであり,その事実をありのままに書き出すことが作業の中心でした.

一方で,モジュール2は書き出した事業シナリオの改善点,すなわち,現在の事業環境において,自社の特徴を踏まえてそれにフィットした最適な事業シナリオになっているかを考え,構想することが求められますので,頭の使い方がモジュール1とは大きく異なります.

 

ざっくり言えば,自社の事業シナリオとして本当にこれでよいのかを腰を据えてじっくり考えること,これがモジュール2の目的となります.

 

 
 

■将来の事業シナリオに向けて

 

現在の事業環境にフィットした自社独自の事業シナリオを描けるようになったとしても,その事業環境自体が変化してしまいます.

つまり,どうしてもその事業環境変化に合わせて,自社の事業シナリオを大幅に見直したり,ときには新たに構想することが必要となります.

 

“将来の事業シナリオ”とは,事業環境が変化した暁には,その将来の時点で自社がいかに競合との熾烈な競争に対応し,自社を成功に導くことができるかについての目論見,です.

これまでとは大きく異なり,“現状”を分析しても意味がありません.“将来”を分析する必要があります.

 

 

すなわち,

 

(1) 事業環境がどのように変化していくのかを把握すること
(2) その変化による,自社の事業シナリオへの影響分析

 

の2つを実施する必要があります.

 

 

とりわけ(2)においては,自社にとってプラスの環境変化とマイナスの環境変化にそれぞれ分けてしていきます(詳細は割愛します)ので,皆さまもご存知の“SWOT分析”とよく似た作業を行うことになります.

 

 

これらの分析に基づいて,最終的に自社独自の特徴を踏まえて将来の事業シナリオを描くことになります.

この一連の作業に必要なツールはモジュール3で準備されています.

 
そして,残された最後のモジュール4は何をすることだと思いますか?それこそ,経営者の想い・意図が詰まった事業シナリオを,その実現手段としてQMSに埋め込むことになります.

 

 

次回からは,事業シナリオに基づいたQMSの設計に話を移したいと思います.

(金子雅明)

 

 

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