本日から、品質部門配属になりました 第55回 『組織内外への情報発信』(その1) (2021-06-21)
2021.06.21
品質部門の役割の一つに「組織内外への情報発信」があります。これから2回に分けて品質部門からの情報発信についてお話をしていきたいと思います。1回目は内部に向けての情報発信です。2回目は外部に向けての情報発信についてお話しいたします。
品質部門からの情報発信については、内外を問わず次のことを整理しておくことが良いと思います。
1.何を発信するか
2.誰に発信するか
3.いつ発信するのか
4.どこで発信するのか
5.どのように発信するのか
6.なぜ発信するのか
品質部門に配属された中山さんは、品質会議の事務局を任せられるようになりましたが、先月人事異動で課長が交代しました。今まで親近感を持っていた課長が検査課へ異動になったことに少し寂しさを感じましたが、新任課長からは早速指示があり、感傷に浸っている時間はあっという間に過ぎてしまいました。新任課長からの指示は次のようなものです。
「新任課長として早速課内に自分がリーダーとなるプロジェクトチームを作りたい。ついては中山さんにメンバーになってほしい。まずは品質部門として今組織内外にどんな情報を発信しているかまとめて報告してほしい」というものでした。
どうも新任課長は生産技術課にいた時の経験から、品質部門の組織内外への情報発信について課題があると思っているようです。中山さんは、まず2年前に品質会議事務局を担当するにあたって読み込んだ品質部門の手順書を確認することから始めました。組織内外への情報発信についての手順を知りたいと思ったからです。中山さんは以下の手順書を確認しましたが、品質部門の情報発信について明確な手順は書いてありませんでした。
・パフォーマンス指標監視・測定手順
・パフォーマンス指標管理手順
・品質会議議題決定手順
・資料作成手順
・品質会議出席者確認並びに開催通知発行手順
・会議進行手順
・議事録作成手順
・報告書作成手順
・記録管理手順
そこで、中山さんは上位文書である組織規程、部門分課分掌規程を確認することにしました。品質部門の分課分掌は以下のように広範なものが規定されていました。
■品質部門所管の業務
・ 品質保証のためのマネジメントの体系・体制の構築・維持・改善
・ 品質保証システムの監査統括
・ 品質会議の主催
・ 品質機能に関わる改善提案・指示・指揮
・ 品質に関わる各種レビューへの参画
・ 顧客価値提供活動におけるGate管理(例えば,出荷停止権)
・ 検査・試験・測定機器の管理
・ 標準化の推進
・ 品質保証システムの改善提案
・ 品質経営推進に関わる調査・研究
・ 重要品質問題対応
・ クレーム対応・進捗管理
・ 各部門の品質業務の支援
・ 品質情報の発信
中山さんは品質部門の分課分掌の中に「品質情報の発信」という項目を見つけましたが、品質情報の発信に関する下位文書は見つけることはできませんでした。早速、課長に「現在の品質部門からの情報発信は、品質会議に報告している情報が主なものです。その他、顧客クレームが発生したときには、出荷検査結果などの情報を顧客に連絡します」と報告しました。
課長からは、品質部門の情報発信に関するルールを知りたい、ルールが無ければ次の観点からのたたき台を作ってくれという指示が来ました。具体的には「わが社は、組織内外に向けてどんな品質情報を発信すべきであるか、それは誰に対してであるか、どんな方法で発信するのかなどについて整理してほしい」というものでした。
中山さんは、課長の言う組織内外という言葉に引っ掛かりました。なぜならば、中山さんの経験では品質部門が組織外に情報発信するということは顧客クレーム以外にはなかったからです。
中山さんは、まず「組織内」の情報発信のルールをまとめることにしました。品質会議担当の経験から、今行っている品質会議への情報提供のやり方について整理することにしました。中山さんは、品質会議担当として、2年間品質情報の収集を次のようにしていました。
(1) 顧客クレーム
中山さんの勤務するA社は、産業用の機械・設備及び周辺機器(ユニット)を製造しており、自動車、家電、医療機器などのメーカに納品をしている。時々顧客から品質クレームがくるが、その内容、原因と思われることを顧客情報に基づきまとめている。一般市場にA社製品が直接売られることはないので、A社から社会一般への情報発信はしていないし、する必要はないと思っている。
(2) 出荷検査不良
毎月検査課の出荷検査結果を製品ごと分析・評価している。
(3) 工程内不良
毎月製造課の工程内検査結果を製品ごと整理している。
(4) 不良率の確認
月度生産量、工程不良数から工程ごとの歩留まりを算出している。
(5) 不良金額の算出
工程ごとに決められている価値金額から製品ごとの不良金額を算出している。
(6) 受入検査不良率
生産管理課の調達担当から受入検査結果をもらい分析・評価している。
(7) 設計部のDR指摘数、設計変更数
毎月のDRの指摘件数を設計部から入手し記載している。
(8) 客先変更数
客先からの仕様変更数を営業部から入手し記載している。
中山さんは課長に組織内への品質情報(1)~(8)の入手と、分析・評価及び記載の仕方についてルールと思われるものを報告しました。すると、課長は「少し時間を取って議論をしたい」から課長席に来るように連絡してきました。何か怒られるのではないかと緊張して課長席に行くと、課長は待っていたとばかりに「品質情報を発信する目的を議論しよう」と言い、次のような内容を話し出しました。
品質部門が組織内に情報発信する目的を大きく2つに分けて考えたい。一つはA社が置かれている状況を製品品質の観点から可視化して、関係部門が適切なアクションを取れるようにすることである。提供する情報が単なる数字の羅列であったりすると、その情報には関係部門にアクションを取らせる力は無い。過去からのトレンド、管理水準との比較、ベンチマークとの比較など対策を促すような加工をした情報発信がほしい。その観点から(1)~(8)についてはもう一度情報の意義、目的を吟味してほしい。
二つ目は、品質保証に関しての社会一般のトレンド、品質改善への手引き、品質管理教育計画、資格への挑戦など従業員の能力向上への道標になるような情報発信を期待したい。これらの中には、各種資格獲得につながるような情報もときどき提供してほしい。
さらに組織の外に対しての情報発信について、顧客クレーム以外についてもどんなことがありえるか提案してほしいと指示を受けました。
中山さんは自分には荷が重いと感じながらもいろいろな文献を当たり、以下のような知見を得ることが出来ました。
1.品質情報発信の目的と意義
課長が言うように、情報には2種類がありそれぞれに目的がある。それはリアクティブな情報と、プロアクティブな情報であり、前者の目的は「起きたことへの処置」であり、平常時、非平常時(顧客クレーム発生時)に分けて内容を吟味して発信するとよい。後者の目的は「これからの活動の明確化」であり、組織の今後の取り組みについての広報もかねて発信するものである。
リアクティブ情報は、事が起きたことに対する対応、言ってみれば処理をする後追い情報であるが、プロアクティブ情報は組織の今後の展望、個人の成長チャンス、パフォーマンス向上をさせるような前向きな情報であると言える。
リアクティブ情報とプロアクティブ情報には相互関係があって、プロアクティブな情報に基づく活動が行われるほどリアクティブな情報が少なくなるという関係が存在する。逆に、リアクティブな情報を分析するとプロアクティブな活動への課題が出てくるので、プロアクティブ情報が多くなるという関係が存在する。組織の品質保証に関する責任部門としては、できるだけプロアクティブ情報を提供し、組織全体に品質保証に関する活動が前向きになるようにすべきである。
2.品質情報の種類
プロアクティブ情報には次のようなものがある。
① 組織経営における品質の意義、位置づけ
② 最高責任者(CQO)からのメッセージ
③ 組織の製品・サービスの品質優位性
④ 品質を通じての社会への貢献(SDGsなど)
⑤ 品質プロフェッショナルの目指す姿
・社内品質資格
・QC検定
・品質技術者
・内部監査員教育
⑥ 小集団活動
・QCサークル
・部門横断プロジェクト活動
⑦ 問題解決、課題達成
⑧ 改善、革新
⑨ 品質に関する世の動き
・品質啓もう活動
・品質経営
①~⑨の情報がプロアクティブ情報になりえる状況、位置づけ、目的を整理すると次のようになる。
・①~④は、組織としての品質に関わる考え方、意義、方針などを随時従業員に伝え、それぞれが分掌する
業務における提案、改善、解決などのガイドにしてもらう。
・⑤は、従業員の自己啓発、資格取得に生かしてもらう。
・⑥~⑧は、小集団活動、問題解決事例、及び改善事例を社内に広報し、組織の品質管理活動をさらに活性
化させる。
・⑨は、日本、世界の品質に関係するトッピクスを紹介し、今後の品質管理活動のベンチマークにしてもら
う。
リアクティブ情報には次のようなものが考えられる。
① 品質月報
・各種品質関連データ(顧客クレーム、出荷検査不良、工程内不良、不良率、歩留まり、不良コスト、
受入検査不良率など)
② 品質事故分析
③ 内部監査結果
④ 外注監査(A社→外注)の結果
⑤ 第2者監査(顧客→A社)の結果
⑥ 第三者監査(認証機関→A社)の結果
⑦ 品質不祥事に関すること
3.誰に発信するか
「組織内」への発信は、プロアクティブ情報は全員へ、リアクティブ情報は次の3グループに分けてそれぞれ適切なグループを選択して発信する。
・経営者
・管理者
・担当者
4.いつ発信するのか
社内への発信は、毎月の品質会議に向けて発信する。リアクティブ情報の一つに品質問題発生の時があるが、品質問題発生時には時期を選ばず迅速に情報発信することが大切である。プロアクティブ情報は、年に数回定期的に発信するが、品質月間(11月)においては特集を組むなどの工夫をするとよい。
5.どこで発信するか
情報発信する場所は、一時期前は社内の掲示板、社内報などであったが、今日においては、ITの活用が効果的である。社内メールで発信することは、最近の在宅勤務(テレワーク)、フレックスタイム制にも沿う効果的な方法である。
中山さんは、今までの組織内品質情報(1)~(8)はリアクティブなものばかりで、今後はプロアクティブな情報も発信しなければならないと課長に報告するつもりです。以上の結果をまとめて組織内への情報発信ルールを(プロアクティブな情報発信も含めて)品質情報手順書(案)に書きました。
課長が指示した「組織外」への情報発信については、顧客クレーム以外にどんなものがありえるのかをこれから調査し知見を広めなければならないと思っています。
(平林良人)