概念編 第4回 顧客価値提供のための組織能力(2015-06-15)
2015.06.15
今回からは,「真・品質経営モデル」の第2の重要な概念である“組織能力”について,解説したいと思います.
■組織能力とは何か
既に説明しましたように,あなたが顧客に提供しているものは“顧客価値”であり,それが顧客があなたを選び続ける理由・根拠となります.“組織能力”とは,端的に言ってしまえば,その顧客価値を提供できるための能力です.
したがって,顧客価値を明確にした後には,
Question1:同じ顧客価値を提供する競合がいる中で,なぜあなたがこの注文をお客様から受注できたのですか(失注してしまったのですか)?
という質問を投げかけます.これに対する回答の中には“営業のKさんがすごくがんばったので・・・”
や
“お客様とは我々の会社には長年の付き合いがあるので・・・”
というものが少なくありません.
もちろん,K氏ががんばったことやお客様との長期的な関係を大切にすることはビジネスを行う上では必要不可欠です.
しかし,ここで明らかにしたいことは,会社全体としてこのような注文を今後もずっと継続して獲得できるのか,言い換えれば,以下のような質問に答えることです.
Question2:K氏でない営業の方であっても,(長年の付き合いがまだない)新規のお客さんからであっても,注文を継続して頂けるような力(ちから)をあなたの会社は持っていますか?
この質問への回答が“組織能力(Organizational Capability)”なのです.
能力の英語表記はCapabilityですが,似たような意味を持つ別の単語にAbilityがあります.
Abilityには“才能とか先天的に身に付いている能力”という意味があり,主に人に対して使われることが多いようです.
一方で,Capabilityには“あとでも開発や向上できる能力”という意味があり,機械・設備や組織に対して使われます.
そして,能力(Capability)の前に“組織(Organizational)”という修飾語が付いているので,組織能力とは組織全体で持っている能力であり,あとでもその能力を開発や向上できるものと解釈できます.
あなたの会社も含めて,一般的に企業や組織は意識的・無意識的に関わらず,いろんな組織能力を持っています.
その中でも,顧客価値提供に焦点を当て,そのために必要な組織能力を明らかにします.
すなわち,顧客価値提供のための組織能力,です.
こんなことをいうと,“いやいや,そんなたいそうな組織能力なんて我々の会社にはありませんよ”という反応をする人が良くいます.
しかし,何らかのビジネスをやって,それでそれなりの期間は食べて生きているのでしたら,それは,お客様に何らかの価値を提供できる能力を既に持っており,それがあるからあなたは選ばれているわけです.
“たいそうな組織能力”を見つける必要はありません.
見つけたいのは,今現実的にお客様があなたを選ぶ理由・根拠となっている顧客価値,これを提供している能力なのです.
例えば,スターバックスが提供している顧客価値は“自宅でもない,会社でもない一人でホッとできる空間”です.
日本全国に1000店舗以上あり,最近では国内の都道府県で唯一店舗がなかった鳥取県にも進出したことが話題になりましたが,どこであってもこの顧客価値を同じように提供できなければなりません.
入店した瞬間にコーヒーの良い香りが鼻に届き,注文を受けてから丁寧に時間をかけてコーヒーを作ってもらい,また自分の好みにもかなり細かくあわせて作ってくれ,淹れ立てコーヒーを片手に,座り心地の良いソファにかけながら,広いスペースで自分が好きなことに没頭でき,店員さんから“早く出てください”という無言のプレッシャーも全く気にする必要もありません.
さらに,(私はタバコを吸わないので)店内が原則,全面禁煙のスターバックスは最高の空間を私に提供してくれています.
店内スタッフの対応,コーヒーの淹れ方,店舗内のレイアウト・色合い,椅子やテーブルなど,あらゆるモノが“自宅でもない,会社でもない一人でホッとできる空間”という顧客価値を中心にデザインされています.
しかも,どの店舗に行ってもほぼ同様な体験を提供してくれます.
まさに,個々人ではなく会社組織全体で持っている能力=“組織能力”が存在するのだと認識させてくれます.
■なぜ組織能力を考えなければならないのか
組織能力をどのように捉える視点については次回に譲るとして,ここでは組織能力を考えることの重要性,意義を説明したいと思います.
引き続きスターバックスの例でいえば,店内スタッフの対応能力は,顧客価値を実現するための重要な一要素です.
この能力をもう少し具体的にすると,彼ら(彼女ら)の笑顔,話し方,身振り・素振り,対応の仕方やお客様の細かい要望に応える技量・スキル,良い意味でほったらかしてくれる気配りなどが必要で,全国1000店舗のすべてでこれらを確実に実施するためには,当然それらが実施できるような教育・訓練の仕組みが大切となります.
この教育・訓練の仕組みは,皆さんもご存知のようにISO9001でいえば6.2人的資源の管理であり,QMS(Quality Management System)の一部です.
つまり,上の話をまとめますと,
・顧客価値:“自宅でもない,会社でもない一人でホッとできる空間”の提供
・組織能力:(価値提供に必要なひとつの組織能力として)店内スタッフの対応能力
・QMS:店内スタッフの対応能力を身に付けさせるための教育・訓練の仕組み
となり,
顧客価値 ← 組織能力 ← QMS
という関係があることがわかります.
QMSの直接的な目的は,組織能力を確実に発揮できることであり,組織能力を発揮した結果として,ターゲットとしているお客様に顧客価値を提供できるようになる,という関係です.
そして組織能力とは,顧客価値とQMSの間にあるもので,顧客価値を提供するためにどんなQMSにしなければならないか(=あるべきQMS像)の方向性を指し示してくれるものだと捉えることができます.
QMSの目的は何か,QMSで解決すべき優先課題・問題点は何か.日頃からふと抱くこれらの疑問に対して,組織能力はその道標を明確に我々に与えてくれるのです.
つまり,
・組織能力を確実に発揮することがQMSの目的である
・現状で発揮できている組織能力と本来発揮すべき組織能力のギャップが,QMSで解決すべき優先課題である
ということです.これが,組織能力を明らかにする重要性,意義になります.
最後に,以下の質問を皆様にお送りしたいと思います.
Question3:顧客価値提供に必要な組織能力は何でしょうか?あなたの仕事はそれにどのように貢献しているのでしょうか?