本日から、品質部門配属になりました 第2回 『品質部門の役割』(その1) (2020-05-25)
2020.05.25
第1話 品質部門の役割
■このメルマガの“こころ”
それでは,超ISOメルマガ「本日から,品質部門配属になりました.」を始めることにしたします.始めるにあたって,このメルマガの趣旨,「品質」という経営機能に関する基本的考え方,その品質機能を担う部門や組織単位のあり方,今後40週あまりにわたると想定されるこのシリーズでお伝えしようとしていることなどについて,ご説明をしておきます.
経営における「品質」の重要性について,ここで連綿と論じる必要はないものと信じます.むしろ問題は,理論的にはその重要性が分かっていても,実施すべき活動を普及・推進できない理由や背景がありうるということではないでしょうか.このような問題の克服のためには,何といっても経営者・上級管理者の理解と行動が必須です.
そうした状況を生み出す一つの方法は,各組織において品質に関わる経営機能を担う方々に,あらためて経営における品質の意義や重要性を再認識していただくことではないかと思います.そうした認識の広がりを通して,現代の経済社会における品質中心経営の再興,品質立国日本の再生につながればとの思いで,このメルマガを企画いたしました.
このメルマガでは,現代の組織経営において「品質」に関わる業務にどのようなものがあるかを考察するとともに,組織の品質経営に関わる「主管業務」を担う部門・組織単位がどのような活動を実施すべきかについても検討していきたいと考えています.
■品質部門
このメルマガでは,経営における「品質」という側面についての「主管業務」を担う組織単位を「品質部門」と呼ぶことにします.
「主管業務」と申しましたが,一部の読者には耳慣れない用語かもしません.ライン業務でないスタッフ的業務,事務局的業務,横串的業務,組織横断的業務というような意味です.品質管理,安全管理,原価管理,生産管理,在庫管理など,一般に○○管理と言われる業務は,管理対象となっている○○という側面について全組織を挙げて取り組むべきで,その担当部門は○○という経営の側面について,良い状況にするための基盤構築,監視,調整,支援などが担当業務となります.
品質でいうなら,品質の維持・向上は組織全体の業務であり,品質を実現し価値ある製品・サービスを提供するための活動は組織の各部門が連携して行うことになります.品質部門だけが頑張ればよいというものではありません.でも,とても重要な業務です.組織を挙げて望ましい方向に進んでいけるように,いろいろ考えねばなりません.表舞台に立つと言うよりは,舞台づくりをして黒子に徹して組織全体を躍らせ,組織のパフォーマンスを維持・向上するというような業務です.そのような業務を主管業務と表現しています.
「品質部門」と呼ぶ部門は,組織によっては,品質保証部,品質管理部,あるいは品質本部などという名称になっているかもしれません.零細・中小企業においては,品質を担当する部門がなく,個人や小グループを品質担当に任命しているかもしれません.ある程度大きな組織では,品質部門が,複数の組織階層に位置づけされているかもしれません.本社の品質統括本部,事業部ごとの品質担当部門,事業所ごとの品質担当部門,製造部門における工場全体や製造課などの品質担当部門など実に多様です.
組織構造上はいろいろあり得ますが,製品・サービスを通して顧客に価値を提供しようとする組織において,品質という経営機能を担う組織単位,経営システム要素がないことは考えられません.それらを総称して「品質部門」と呼ぶことにします.しかし,組織階層のどの範囲の品質機能を担当しているのか,「品質」という名のもとに,どのような業務を担当するよう業務分掌で定められているのか,組織によって様々であることには留意しておく必要があります.
こうしたことから,「品質」という経営機能についても,「品質部門」の業務範囲についても,非現実的にならない範囲で広くとらえ,組織の状況に相応しい品質機能と品質部門の業務を考察していただけるように語っていきたいと考えています.
■品質部門の役割の今昔
経営における「品質」という側面の主管部門と位置づけられる品質部門の組織における役割は,時代とともに変遷してきました.
1960年ごろまでは,主にモノづくり産業において,統計的方法を中心とする科学的管理法を,製造工程に適用して,仕様通りの製品を実現するという形の品質管理が主流でした.
1970~80年代のいわゆるTQC(Total Quality Control)全盛期には,TQC推進の名のもとに,顧客志向の品質中心経営の推進による経営革新の旗振り役を一手に担い,経営企画部門が担当するような経営企画や経営戦略にまで関わるような組織もありました.狭義の品質保証機能についてはその主担当部門をTQC推進部署が牽引するというような運営形態もありました.
1990年代半ば以降に2つのことが起きました.一つは,TQCからTQM(Total Quality Management)への呼称変更,もう一つはISO 9000の普及です.
TQMへの名称変更に伴って,経営における品質の位置づけを再確認する必要性が認識され,品質概念やマネジメント概念の拡大・深化,品質経営における戦略性の必要性が認識されました.同時に,バブル経済崩壊もあって,「時代は変わった.20世紀は品質の時代だったが,21世紀は違う.コストが最重要,ITこそ経営革新の最強ツール」などという認識も広まりました.
ISO 9000の普及によって生まれてきたものは,TQCや品質経営の神髄を知らずに,「ISO 9000の適用こそが品質マネジメントだ!」との考えに基づく品質保証の矮小化と,認証の取得・維持を担当する部門の誕生でした.
こうした状況の結果として,品質経営に対する多様な対応が生まれました.一つは,経営における品質の位置づけの理解の多様化です.量産品質の保証,検査,クレーム処理などに限定した狭義の品質保証から,事業企画,製品・サービス企画,設計・開発,調達,人材育成などの経営機能はもちろん,経営企画,経営戦略,方針管理(目標管理),果ては経営の質までもカバーしようという品質経営までスペクトルが拡大しました.
これと軌を一にして,品質部門の役割もまた多様になりました.ISO 9000(+ISO 14000)の認証取得・維持,量産段階の製品・サービス品質の保証,検査,クレーム処理などの旧来の品質保証から,企画,設計・開発,量産準備,調達,市場品質まで,直接・間接に製品・サービスの品質や,果ては経営の品質への関与するような部門まで,スペクトルが広がりました.
■品質に関わる経営機能
品質の管理に関わる一般用語して,日本は「品質管理」と「品質保証」の2つで済まして来ました.実は,「品質保証」という用語が使われ始めたのは1960年ごろとのことです.そのころ「品質管理のドーナツ化現象」と言われる事象が起きました.ドーナツ化とは「中心がない」という意味です.品質管理の考え方と方法論を活用して,原価低減,生産性向上,在庫削減などの改善が盛んに行われるようになり,このこと自体は良いことでなのですが,品質抜きの品質管理からの原点回帰のために,品質のための品質管理,品質中心の品質管理を進めようということで,「品質保証」という用語を使い始めたとのことです.そして,品質保証とは「お客様が安心して使っていただけるような製品・サービスを提供するためのすべての活動」を意味し,それは「品質管理の目的」であり,「品質管理の中心」であり,「品質管理の神髄」である,などと言われたそうです.
1990年代になってISO 9000シリーズが普及し始めたころ,日本においてある種の混乱や誤解が生じました.それは用語の意味の違いに起因していました.ISO 9000の世界観での「品質管理」や「品質保証」に意味が,日本での理解とは異なっていたのです.
ISO 9000シリーズ規格で使われる品質の運営に関する用語としては,quality management(QM;品質マネジメント),quality control(QC;品質管理),quality assurance(QA:品質保証),quality improvement(QI;品質改善)があります.この4つの用語の関係を,QM=QC+QA+QIという図式で説明されたいました.
QC(品質管理)は,ISO 9000シリーズでの用語法では,抜取検査,デザインレビュー,手順書,内部監査などの,品質管理手法や品質管理活動要素というような意味です.日本では相当早い時期に,品質管理をずっと広い概念と受けとめ,QCという用語を,ISO 9000でいうQMと同じような意味で使っていました.ISO 9000が日本に導入された当初,このQMとQCの訳語に困り,QMを「品質管理」,QCを「品質管理(狭義)」などと言ってみました.当時は,QMを「品質経営」というのはおこがましいと感じたからです.そのうち日本語お得意の外来語をそのままカタカナ表記にする方法を採用して「品質マネジメント」を訳語にあて,繰り返し使っているうちに違和感がなくなり,いまではmanagementを「マネジメント」,controlを「管理」と訳すようになりました.
ISO 9000でいうQA(品質保証)とは,基本的に「合意された仕様通りの品質の製品・サービスを提供する能力の実証による信頼感の付与」という意味です.この意味の本質を理解するためのポイントは2つあります.第一は「仕様通りの」です.そして第二は「実証による」です.一読すると「信頼感の付与」という美しい用語に惹きつけられますが,何に関して信頼感を与えるか,どのようにして信頼感を与えるかの2点に注目すれば,「仕様」と「実証」が信頼感の実像を示していることが理解できるでしょう.
日本においては,上述したように,品質保証(QA)という用語に,非常に美しい,広く,また深い意味を与えてきました.このメルマガにおいても,その用語法を踏襲します.お客様との間で明示的に約束しようがしまいが,事業の健全な発展のために,とにかく徹底的に満足させようとするような品質保証です.この広義の「品質保証」,すなわち,深遠なる顧客満足という経営目的達成のために「品質マネジメント」を行うという図式で,品質という経営機能を理解して考察を進めることにします.
さて,このような広い意味での品質保証のために組織は何をしなければならないのか,次週その考察を続けたいと思います.
(飯塚悦功)