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昨今の品質不祥事問題を読み解く 第22回 様々な不祥事に遭遇し改めて思うこと (1)賢者の愚直  (2018-10-15)

2018.10.15

 

■再び語ります

 

本年5月の連休明けから続けてきた「品質不祥事」をめぐるメルマガもそろそろ終わりにしたいと思います.

このシリーズの最初に,「不祥事に思うこと」を3回ほど語りましたが,今週から「改めて思うこと」として3つの話題を取り上げて中締めとさせていただきます.

 

 

その3つの話題とは,

 

(1) 賢者の愚直

(2) Profession

(3) 信頼の条件

 

です.

 

今回は「(1) 賢者の愚直」を取り上げますが,実はこの話題は5月に「遵法」について語ったときに触れました.

 

それは,40年ほど前のある製品の調整工程での調整者の交代に伴う不良急増問題に関する話でした.

交代した方が調整手順通りに実施したところ不良の山,交代前の方はその調整手順ではうまく行かないので自分で工夫をしていました.

対応の仕方を巡って,私と製造課長の意見が異なりました.

私は,「悪法も法,法を正したうえで新たなルールに従うべき」と主張しました.

そうしなければ,皆が勝手な方法で仕事をする無法状態になりかねないと懸念したからです.

 

のちに「ABCのすすめ」なんてことを言うようになりました.

「(A)当たり前のことを,(B)ばかにしないで,(C)ちゃんとやる」ということです.

「(A)当たり前」とは,望ましい結果が得られる優れた方法を知っているということです.

「(B)ばかにしない」とは,望ましい結果が得られる理由を知っているということです.

そして「(C)ちゃんと」とは,やるべきことは誰も見ていなくも愚直にやるという意味です.

これに「賢者の愚直」という副題をつけました.

 

 

 

■PDCAで一番重要なのは?

 

「PDCAのうち最も重要なのはどれか?」という問いにどう答えますか.

実はこのお題は,「魅力品質・当たり前品質」の提唱者であり,この私を品質分野に引っ張り込んだ狩野紀昭先生によるものです.

 

どう考えますか.

Plan,Do,Check,Actのいずれが欠けてもまずいし,いずれもそれぞれに重要なので,どれか一つだけ選ぶのは難しいことです.

「そりゃあPに決まっている! 段取り九分だと言うだろうが」,

「やはりDだろう.やらなければ何も始まらない」,

「Cだろう.結果を確認し分析しなきゃ,ただのアホだ」,

「Aですよ.済んだことはともかく次に何をするかが重要なんです」と,

それぞれに一理あります.

 

どれも正解と言えるのですが,ここでは敢えて,たぶん最も少数派の「Doではないか」と申しておきます.

目的達成に必須のこと,それはどんなに拙くてもよい,とにかく実施することで,これが基本だろうということです.

やらなければ何も始まりません.

昔から多くの人が,仕事をしなさいと言われて,とにかくDo-Do-Doでやってきました.

Pにしろ,またCにしろAにしろ,それはみなDo-Do-Doをもっと価値あるものにするための活動といえます.

 

行動しなければ何も起こりませんから,前提条件としてDoが必須です.

それだけではなく,Doにおいては,まずは計画通りの実施が重要で,これを強調するためにもDoが最重要と申しておきます.

ケースバイケースで局所最適策を求め,解釈によって柔軟に対応する方法を,要領よく賢いと考える方がいらっしゃるかもしれません.

でも,組織で業務を行う際の行動原理として,私はお勧めできません.

局所最適のルールが全体最適・長期的最適にならないことはよくありますし,何よりもルール軽視の考え方の蔓延がもたらす害は計りしれません.

 

 

 

■賢者の愚直

 

「ABCのすすめ」に「賢者の愚直」という副題を付けたと上述しました.

これには,目的達成のために,目的達成手段の妥当性(合理性,合目的性)を理解し,これを遵守して実施するということの重要性を強調し,その通りできる人を「賢者」と呼びたいし,こういう方々の行動様式を「賢者の愚直」と言いたいという思いを込めています.

 

「頭が良い」とはどういうことか,というお題は興味深いものです.

私は,ずいぶん前に議論する機会があって,そのときの議論をもとに,以下の3項目に整理したことがあります.

 

・目的が分かる,目的志向の思考と行動ができる.

・因果関係,目的手段関係が分かる.

・ことの本質,何が重要か分かる.

 

これに加えたいのが

 

・正しいことを,「愚直」に継続的に行うことができる.

 

ということです.

 

 

そもそも「頭が良い」ということの意味を議論したとき,議論の進展を促したのが,「努力できる,我慢できる,継続できる」ということでした.

「記憶力」とか「本質把握能力・抽象化能力」とか,頭の良さを表す特徴がいろいろでてきました.

でも,記憶力なんて物忘れがひどくなってきた老年には面白くないし,抽象化能力なんて遺伝で決まっているに違いありません.

そこで,「努力して何とかなるような頭の良さはないか」と話が進みました.

すると,「そもそも努力できるということ自体が,頭が良いということではないか」,「努力できるのはなぜかを考えよう」と議論が膨らんでいったのです.

そして,そのために必要なこととして「目的志向」や「因果関係・目的手段関係の理解」を挙げました.

 

目的達成のために,目的達成手段の妥当性(合理性,合目的性)を理解し,これを遵守して愚直に実施するということの重要性を強調してのことです.

そして,その通りできる人を「賢者」と呼びたいし,こういう方々の思考・行動様式が「賢者の愚直」であると言いたいのです.

 

 

 

 

■賢者への道

 

京懐石の一流の料理人が良いことを言っていました.

橋本幹造という人です.

有働さんが担当しているころのNHKの「あさイチ」で,月に一度,和中伊の3人シェフが家庭でもできる料理を紹介する番組の和食の担当でした.

彼の店にイタリアン担当のシェフが遊びに来て「もっと要領の良い方法があるのに,なぜそんなにきちんとやるのか」と聞いたそうです.

橋本さんは手抜きをしません.

その質問に対する彼の回答には感動しました.

 

「自分が下手くそで『まずい』と言われるのは仕方ないが,手抜きをして『まずい』とは言われたくない」

 

ちなみに彼の料理は「まずい」どころか超一流,別格です.

ミシュランの星を維持し続けています.

 

サッカー日本代表の元監督の岡田武史氏は,「勝負の神様は細部に宿る」と言ったそうです.

負け試合を分析してみると,ちょっとした手抜きが発端になっているのだそうです.

やるべきことは,些細に見えても,多少つらくても,きちんとやる,これが基本だというのです.

基本であることは理解しますが,少なくとも90分間,疲労も蓄積するなかで,手抜きせずにベストを尽くし続けるのは辛いことです.

いや,これができる一流プレーヤーがピッチに立っていると思えばよいのでしょう.

 

「守破離」という言葉もあります.

守(型の遵守)抜きで,破(工夫・改善),離(型破り)は不可能です.

私はよく分からないのですが,芸術やスポーツの分野で,天才,名人,名選手と言われるような人々は,型を身に着け,その本質的部分を維持しながら「型破り」の域に到達しているのではないでしょうか.

スペインに行ってピカソの絵を見に行き,多数の素晴らしいデッサンを目にして,ああこれか,と何となく分かった気がしました.

様々な角度から見た対象を一枚の絵にしようとするとこうなるのか,と分からないながらも納得しました.

野球の世界でも,一本足打法とか,振り子打法とか,いろいろあるようですが,守るべき基本を守りつつ,ある側面についての最適化を図った結果の姿なんですね.

 

変化する事業環境において,したたかに生きているためには,様々な改善・革新が必要ですが,そのような厳しく誘惑の多い環境にあっても,愚直な会社が不祥事を起こす可能性は低いだろうな,と思います.

 

 

 

次回に続けます。

 

(飯塚 悦功)

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