昨今の品質不祥事問題を読み解く 第11回 品質不祥事問題と中小企業(3) (2018-7-23)
2018.07.23
「品質不祥事問題と中小企業」と題してお届けしている本テーマ、
今回の3回目でひと区切りです。以下からどうぞお読みください。
(前号はこちらで確認できます)
6. 内部監査について(前回の続き)
筆者は内部監査については、長年、”ISO9001の内部監査の目的は不正の摘発ではありません。
監査員と被監査側が協力して改善の機会を見つけ出す場なのです”と言い続けてきましたが、この不祥事の連続に”本当にそれでいいのかな?”と迷いが生じていました。
そんな矢先に、2018年4月16日の当メルマガで、飯塚先生から「能力実証型審査」について話が出ていました。
これは、「審査は組織の『あるべきQMS能力像』について、認証機関と組織が共通の認識を持ち、その能力を有していることを実証する審査でありたい」というものです。
これを読むことで迷いは払拭しました。
内部監査も同じでしょう。
それでは中小企業にとって持つべき重要な能力とはどんなものだろうかというと、それは、次の3つです。
①コンプライアンス(顧客との約束を含む)を守れる能力
②重大なクレームを発生させない能力
③自社の競争力を高める能力
一方、内部監査の代表的なやり方には、例えば次のようなものがあります。
a)規格条文に沿って確認する「規格逐条型」
b)業務の流れに沿って(あるいは遡って)確認する「プロセスアプローチ型」
c)目標を達成するようにPDCAを回しているか確認する「目標達成追求型」
d)組織の当面の課題をテーマとして確認する「課題解決型」
さて、前述の組織の3つの能力の改善の機会を探そうとすると、どの方法であっても一つだけでは足らなさそうです。
そこでお奨めしたいのは、これらの組合せです。
組み合わせる方法は、1回の監査の中で、部署別に割り振っても良いし、数回の監査で一巡するようにしてもよいでしょう。
一番お奨めしたいのは、やはり監査の基本はb)プロセスアプローチ型であって、これをベースにしておいて、組織の状況や特徴に応じて、c)やd)を組み合わせていくやり方です。
また、現場・現物を重視して監査することは変わりません。
プロセスアプローチ監査は、前回のメルマガでご紹介した、”ある審査員”のやりかたです。
この例では、工程内検査作業の観察→検査記録の確認→検査結果のPC入力→検査成績表作成作業の作成→検査成績表の提出と、一連の作業の流れに沿って、製造部門と品質保証部門にまたがって確認をしています。
これは、b)を基本としながら、d)の課題として「不正の有無」を取り上げて確認をした監査と言えましょう。
この例では、幸いなことに「不正」はありませんでした。
でも、すでに読者の方は、前回のメルマガに出てくる調査の様子を読んで、もうひとつ「あれっ」と思ったはずです。
現場で取られた測定結果が、手書きで帳面につけられ、それを1日分まとめてPC入力するという手順です。
この手順では転記ミスなどの間違いも起きやすく、悪く考えると、ここで「不正」の起きる“スキ”があることにお気づきと思います。
監査では、現場のそんな状況を確認して、予防となる“改善の機会”を探し出すことが大事なのです。
プロセスアプローチ型監査は、「不正の発見」だけでなく、このような改善の機会を探しやすい方法と言えましょう。
今回の冒頭で言った「内部監査の目的は不正の摘発ではない」という言葉を改めてかみしめて見ると、内部監査というのは、普段の業務の様子を監査側と被監査側が同時に共有して、会社の能力を高めていく機会を探す場である(ありたい)と、再認識するのです。
7. 品質不祥事(品質に関わる不正なこと)が起きないために(まとめ)
今回は、大手企業で発生した「品質不祥事」を巡って、このことを日本の大多数を占める中小企業からの視点ではどうなのか?ということを、3回にわたって論じてきました。
そして、これは中小企業にとっても決して対岸の火事ではないこと、同様な事態を引き起こさないためどうすべきか、ということをA社、B社の例を引いて考えてきましたが、だいぶ話が拡散してしまいました。
「品質不祥事」に的を絞ったまとめとして、ISO9001のQMS要素に沿って以下のように整理してみました。
紙面の都合上、本文で説明の不十分な事項も含まれていることご容赦下さい。
①「認識」(7.2.3項): “品質”の重要性、目標品質を達成するために“決められたことをしっかりと守る”こと、改善することの重要性についての認識は充分ですか?
目的を明確にして、社員の意識に継続的に、効果的に働きかけることが大事です。
②「力量」 (7.2項):品質管理の基本を勉強し、これをしっかりと活用していますか?
品質管理の基本は事実をよく見て、これを分析することです。“データは語る”です。規格に入っているかどうかだけでなく、どんな傾向にあるかを見ると実態がよく見えてきます。そんな力量を磨くための教育訓練が必要です。
③製品及びサービスに関する要求事項のレビュー(8.2.3項):顧客の要求との差異があったときは、とことん話し合って解決していますか?
顧客との交渉は、データに基づいて正確な情報を提供することが大事です。お願いするだけでなく、対象とする特性のバラツキの状態を定量的に把握して、このデータを基にして、解決するまで粘り強く交渉することが必要です。
そのためには、組織として②の力量が必要です。
④変更管理(8.1項、8.3.6項、8.5.6項):変更をした時は、その影響を確実にレビューし、検討していますか?
変更した時は、必ず影響を受けるところがあります。特に、それが顧客に保証する品質に関係する時は、この影響をデータで、できるだけ定量的に明確にしておく検討する必要があります。
⑤目標管理(6.2項):適正な目標を設定していますか?
手段を伴わない目標や、過剰なノルマを与えると、それが不正の助長や口実となってしまいます。
⑥品質マネジメントシステム及びプロセス(4.4項):重要な作業には、不正が生まれないようなシステムになっていますか?
システム(業務の流れ)は、「不正」を起こしうる「スキ」を作らないことが一番です。また、データは出来るだけ図表やグラフで“見える化”して、一目でその状況が判断できるようにすることも有効です。
⑦内部監査(9.2項):現場・現物をよく見た監査をしていますか?
書類があれば、あるいは、やっていればよいのではありません。正しいやり方で、効果が出るようにやっているかを見ることが肝心です。また、上記の①~⑥の視点から改善の余地を探し出すことも大事です。
⑧リーダーシップ(5項):経営者は、不正なことが起こせないような作業環境や風土作りを意識してリーダーシップを発揮していますか?
特に、従業員が自主的、積極的に改善活動を行えるような仕掛けや場を提供して、社員の意識を向上させる具体的な行動を取ることが重要です。
(丸山 昇)