QMSの大誤解はここから始まる 第29回 ISO 9001認証を受けた会社は市場クレームを起こさないんですよね。(8) (2018-5-7)
2018.05.07
過去28回にわたりお届けしてきました
「QMSの大誤解はここから始まる」シリーズ。いよいよ今回にて締めくくりとなります。
最終テーマは「ISO 9001認証を受けた会社は市場クレームを起こさないんですよね」と題してお届けしてきました。
今日がその8回目、では下記をどうぞ。
■能力実証型審査
私は、QMS認証審査は、QMS能力を実証するような審査であるべきと考えています。
以前、「認証」とは「能力証明」であると申し上げました。
QMS認証の場合、ISO 9001要求事項の意図に適合するQMSの設計・構築・運営・改善の能力を保有していることを公式に証明する社会制度である、と申し上げました。
ここで強調しておきたいのは「能力」ということです。
現在はもちろん将来のある期間、「あることができる」ということを公式に認知する社会制度ということです。
QMSのようなマネジメントシステムについては、そのように考えることに違和感はないと思います。
マネジメントシステムは手段であって、それを運用して何かを生み出します。
まともなパフォーマンスをあげることができるようになっているかどうかを評価しています。
製品認証の場合でも、製品仕様が基準に適合しているとともに、将来にわたりその仕様通りの製品を生み出すことができる能力があると認められる場合に、認証が与えられます。
審査において「能力を実証する」という考え方に基づく審査を、仮に「能力実証型審査」と名付けます。
このようなQMS認証審査をどのように行おうとしているのか、私論をご紹介しておきます。
どうぞ、建設的にご批判下さい。
「QMS能力実証型審査」は、組織の「あるべきQMS能力像」について、認証機関、組織の双方が共通認識を持ち、その能力を有していることを実証する審査でありたいと考えています。
ここで「あるべきQMS能力像」とは、製品・サービスの品質保証に必須の、ISO 9001要求事項の意図に適合するQMS像、という意味です。
そして、設計・構築・運用・改善している組織のQMSが、そのQMS像に適合していることを実証しようとするものです。
審査は、基本的に、組織側が、組織のQMSが「あるべきQMS能力像」に適合していることの実証に努め、審査チームによる調査・質疑応答により確認していくという形にできればよいと考えています。
■あるべきQMS能力像
このような審査において、その基準は、形式的・皮相的意味でのISO 9001ではありません。
ISO 9001要求事項の「意図」への適合、すなわち、ISO 9001要求事項に適合するQMSが機能している状況、その結果として発揮できるQMSの能力像ということになります。
それは、要求事項に適合する製品・サービスを合理的に提供できるようなQMSを設計・構築・運営・改善する能力であって、製品・サービスや、製品・サービスの実現方法などの特徴に依存することになるに違いありません。
問われているのは、どのようなQMSが構築・運営されていれば、要求事項に適合する製品・サービスを合理的に提供できるのか、ということです。
その考察の視点には様々なものがあるでしょう。いくつか例を挙げてみます。
- 品質保証のために、「技術(固有技術)」「マネジメント(固有技術適用技術)」「人(技術・マネジメントのもと現実に価値を生み出す主体)」のうち、どれが重要なのか。
- 品質保証のために、「企画(要求定義)」「設計・開発(製品実現仕様)」「製造・サービス提供」「検証・品質確認」「調達(購買、外注、アウトソース)」「販売・設置・付帯サービス」などのうち、どれが重要なのか。
- 製造・サービス提供における品質保証のために、「人」「設備」「調達」のうち、どれが重要なのか。
- 品質保証のスタイルは、「顧客主導」なのか「提供者主導」なのか。
- 顧客は、「企業(組織、生産財、専門家)」なのか「消費者(個人、消費財、素人)」なのか。(B to BなのかB to Cなのか)
- 製品・サービスに、「重要」「危険」「高価」「高度技術」などの特徴があるか。
- QMSに、「変更」「非定常」「異常対応」「割込」「分担」「委託」などの特徴のある業務要素がどれほどあるか。
審査においては、専門性が要求されますが、それはその分野の技術の詳細を熟知しているというより、その分野の特徴によりQMSの設計にどのような考慮が必要であるかを知っているということではないでしょうか。
組立製品と素材製品とでは品質保証のポイントが異なりますし、ソフトウェアの品質保証にはハードウェアにない工夫が必要です。
ましてや有形の製品の提供と無形のサービスの提供とでは、品質保証の考え方を根本から考え直さねばならない違いがあるかもしれません。
■審査の焦点
すると認証審査においては、「あるべきQMS能力像」を具現化したQMSであるかどうかを判断する視点を持っていなければなりません。
QMSのうち、どこをどう見ればよいか、分かっていなければならないことになります。
これを「注目すべきQMS要素」と呼ぶことにします。
「注目すべきQMS要素」とは……、いろいろな表現ができそうです。
- ・品質保証できるQMSといえるかどうかを決定づけるQMS要素
- ・要求事項に適合する製品・サービスを合理的に提供できるQMSといえるかどうかのキーとなるQMS要素
- ・これが良ければ大丈夫といえるQMS要素
- ・事実上、品質保証体制全体を代表するQMS要素
いろいろに表現していますが、私が持っていた視点は、「重要性」と「代表性」の2つです。
「重要性」については説明を要しないでしょう。
品質保証、顧客満足、まともなQMSのために致命的な要素・側面ということです。
「代表性」とは、必ずしも重要とは言えなくても、これを見て大丈夫なら全体、あるいは重要なところも大丈夫と言えるような要素・側面を見るということです。
たとえが適切でないかもしれませんが、姑が嫁の掃除能力を見るのために障子の桟に埃がたまっているかどうか指でスーッとなぞって調べるようなものです。
QMSなどのマネジメントシステムの審査においては「能力」を評価することになりますので、将来のパフォーマンスを100%保証するような評価は論理的に不可能です。
将来のことですし、所詮はシステムという手段を見てパフォーマンスという結果を予測・推論しているのですから。
これを限られた時間のなかで行うための視点が「重要性」と「代表性」にあると考えています。
審査対象となる「注目すべきQMS要素」とは、認証機関が、組織と相談のうえ、適当に(いい加減に)設定した課題・テーマ、適当に焦点を当てたQMS要素などではないはずです。
提供する製品・サービス、製品・サービスの実現方法の特徴を踏まえ、顧客要求事項への適合を左右するQMS要素であるべきです。
認証機関は、39もの分類が必要かどうかは分かりませんが、とにかく組織の業種・業態に応じて「あるべきQMS像」のモデルを持つべきです。
これが本来の適合性審査ではないでしょうか。
「目的志向の審査」「要求事項に適合する製品・サービスの提供にふさわしいQMSかどうかの審査」「真の有効性審査」ではないかと思います。
多くの認証機関は、たぶん以下のような思考プロセスを経て、業種・業態に応じた「あるべきQMS像」のモデルを持ち、確認すべきQMS要素を明確にする方法を、内部の審査指針として運用しているものと期待したいところです。
- ・顧客、製品・サービスの定義(誰に何を?)
- ・製品・サービスの要求事項の明確化(どんな製品・サービスを?)
- ・製品・サービスの要求事項を満たすために必要なQMS能力(どのような能力が必要か?)
- ・(ISO 9001認証における)「あるべきQMS能力像」の明確化
- ・そのQMS能力が埋め込まれている(内在、実体化されている)QMS要素の明確化
- ・「あるべきQMS能力像」への適合性の判断のために確認すべきQMS要素(=「注目すべきQMS要素」)の明確化
「IS0 9001認証を受けた会社は、市場クレームを起こさないんですよね」という「誤解」を巡って、長々と駄文を弄してきました。この誤解を呟いた方は、このような長文の大上段に振りかぶった回答、反応があるとは思わなかったでしょう。
でも、私には、認証制度の本質、システムで結果を保証することの意味、そしてQMS能力の審査のあり方などについての、重大な課題を突き付けている、非常に貴重な誤解だったのです。
(飯塚 悦功)