QMSの大誤解はここから始まる 第25回 ISO 9001認証を受けた会社は市場クレームを起こさないんですよね。(4) (2018-4-2)
2018.04.02
IS0 9001認証を受けた会社は、市場クレームを起こさないんですよね?
というタイトルで始めたこのテーマですが、当初構想からだいぶ話を膨らませていくことに
なりそうです。
(1) QMS認証制度
(2) アウトプットマターズ
(3) 認証審査
という3つの整理で書き進めております。2つ目のアウトプットマターズについての2回目をお届けします。
■ISO 9001:2015への反映
その少しあと、多様なマネジメントシステム規格の整合性を図ろうという機運が起こり、ISO/IECの指針の付属書の付録に、今後発行されるマネジメントシステム規格(Management System Standard; MSS)の構造(章節構成)、用語、要求事項の整合を図るための指針が作成されました。
いわゆる、「付属書SL」と称するものです。
そもそもの草案は、TC176/SC2のSecretariatのCharles CorrieとやはりSC2で活躍した今は亡きJim Pyleによります。
当然のことながら、それがISO 9001:2015に活かされます。
2015年版において、何かと「パフォーマンス」への言及が多くなるのは、その影響です。
ISO 9001:2015から拾ってみましょう。
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4.4 品質マネジメントシステム及びそのプロセス4.4.1組織は、品質マネジメントシステムに必要なプロセス及びそれらの組織全体にわたる適用を決定しなければならない。また、次の事項を実施しなければならない。c)これらのプロセスの効果的な運用及び管理を確実にするために必要な判断基準及び方法(監視、測定及び関連するパフォーマンス指標を含む。)を決定し、適用する。
5.3 組織の役割、責任及び権限 トップマネジメントは、次の事項に対して、責任及び権限を割り当てなければならない。 c)品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び改善(10.1参照)の機会を特にトップマネジメントに報告する。
7.2 力量 組織は、次の事項を行わなければならない。 a)品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に影響を与える業務をその管理下で行う人(又は人々)に必要な力量を明確にする。
7.3 認識 組織は、組織の管理下で働く人々が、次の事項に関して認識をもつことを確実にしなければならない。 c)パフォーマンスの向上によって得られる便益を含む、品質マネジメントシステムの有効性に対する自らの貢献
8.4 外部から提供されるプロセス、製品及びサービスの管理 8.4.1一般 組織は、次の事項に該当する場合には、外部から提供されるプロセス、製品及びサービスに適用する管理を決定しなければならない。 c)プロセス又はプロセスの一部が、組織の決定の結果として、外部提供者から提供される場合 組織は、要求事項に従ってプロセス又は製品・サービスを提供する外部提供者の能力に基づいて、外部提供者の評価、選択、パフォーマンスの監視、及び再評価を行うための基準を決定し、適用しなければならない。組織は、これらの活動及びその評価によって生じる必要な処置について、文書化した情報を保持しなければならない。
8.4.3外部提供者に対する情報 組織は、次の事項に関する要求事項を、外部提供者に伝達しなければならない。 e)組織が適用する、外部提供者のパフォーマンスの管理及び監視
9 パフォーマンス評価 9.1 監視、測定、分析及び評価 9.1.1一般 組織は、品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性を評価しなければならない。
9.1.3分析及び評価 分析の結果は、次の事項を評価するために用いなければならない。 c)品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性 f)外部提供者のパフォーマンス
9.3 マネジメントレビュー 9.3.2マネジメントレビューへのインプット マネジメントレビューは、次の事項を考慮して計画し、実施しなければならない。 c)次に示す傾向を含めた、品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に関する情報 3)プロセスのパフォーマンス、並びに製品及びサービスの適合 7)外部提供者のパフォーマンス
10 改善 10.1 一般 組織は、顧客要求事項を満たし、顧客満足を向上させるために、改善の機会を明確にし、選択しなければならず、また、必要な取組みを実施しなければならない。 これには、次の事項を含めなければならない。 c)品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性の改善 |
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いかがでしょうか。
ISO 9001:2015が、いやMSSがそのアウトカムを保証できるようなまともな規格であるために苦労している状況が伺い知れるでしょうか。
この「システムで結果を保証する」というお題については、認証審査と絡めて再来週にでも検討したいと思います。
その前に、関連する話題である「品質保証」について少し考察しておきたいと思います。
■品質保証
ISO 9000シリーズが普及し始めたころ、日本においてある種の混乱、ある種の誤解が生じました。
わが国の近代の品質管理は、第二次世界大戦後に始まりました。
そうした歴史や基本的考え方をあまりご存じなく、ISO 9000の世界こそが品質管理の本丸と思いこみ、妙な持論(≒誤った解釈)を展開するISOのプロを自称する方々も出てきて、善良な子羊たちを混乱させもしました。
その一つが「品質保証」の意味であったろうと思います。
ISO 9000シリーズ規格を審議するISO/TC176のタイトルはQuality management and quality assurance(品質マネジメント及び品質保証)です。
なぜ、このようなタイトルとなっているか不思議に思いませんか。ISO 9000シリーズ規格が使う、品質の運営に関する用語としては、quality management(QM;品質マネジメント)、quality control(QC;品質管理)、quality assurance(QA:品質保証)、quality improvement(QI;品質改善)があり、QM=QC+QA+QIというような式でこの4者の関係を説明していました。
ISO 9001~9003(後にISO 9001に一本化)が品質保証のシステム規格、ISO 9004が品質マネジメントのシステム規格という位置づけでした。
ISO 9001の性格は、初版(1987年版)、2000年改訂版、そして2015年版と大改訂をするたびに性格を変えてきました。
初版は、二者間取引において購入者が供給者に要求する品質保証システム要求事項でした。
2000年版で品質マネジメントシステムの最低限の要求事項(minimum requirements)と性格を拡大しましたが、その基本が品質保証のためであることに変わりなく、明らかにISO 9004よりは狭い範囲、低いレベルのマネジメントシステムモデルでした。
2015年版で、その最低限の要求レベルに確実に応えてもらうために、QMSの自律的設計・構築(箇条4)など、2000年版で示唆されていた要求を満たすための方法が規定されるようになりました。
QM、QC、QA、QIという4つの用語のなかで、わが国が使ってきた同じ用語と意味が大きく異なるのは、QCとQAです。
QCは、ISO 9000シリーズでの用語法では、抜取検査、デザインレビュー、手順書、内部監査などの、品質管理手法や品質管理活動要素というような意味です。
わが国は1950年代から、品質管理をずっと広い概念と受けとめ、QCという用語を、ISO 9000でいうQMと同じような意味で使っていました。
ISO 9000が日本に導入された当初、このQMとQCの訳語に困り、QMを「品質管理」、QCを「品質管理(狭義)」などと言ってみました。
当時は、QMを「品質経営」というのはおこがましいと感じたからです。
そのうち日本語お得意の外来語をそのままカタカナ表記にする方法を採用して「品質マネジメント」を訳語にあて、繰り返し使っているうちに違和感がなくなり、いまではmanagementを「マネジメント」、controlを「管理」と訳すようになりました。
ISO 9000でいうQAとは、基本的に「合意された仕様通りの品質の製品・サービスを提供する能力の実証による信頼感の付与」という意味です。
この意味の本質を理解するためのポイントは2つあります。
第一は「仕様通りの」です。
そして第二は「実証による」です。
一読すると「信頼感の付与」という美しい用語に惹きつけられますが、何に関して信頼感を与えるか、どのようにして信頼感を与えるかの2点に注目すれば、「仕様」と「実証」が信頼感の実像を示していることが分かります。
ISO 9000でいうQAの意味を確認する前に、わが国が品質保証という用語をどう理解し使ってきたかをご紹介します。
次回に続けます。
(飯塚 悦功)