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QMSの大誤解はここから始まる 第14回 ISO 9001認証・維持に手間が掛かり過ぎて,本業が疎かになってしまう(1)   (2018-1-15)

2018.01.15

 

 

はじめに

 

ISO 9001の認証組織では、組織の規模を問わず、いったん認証をした場合にはこれを継続して維持することが求められています。

 

しかし、本業がおろそかになる理由としては、

 

1)ISOのための仕事という本業とは無縁の仕事が増える

 

日常業務は今までも行ってきているのに、ISOが導入されてからISOで要求されているのでこのための仕組み(例:内部監査)が追加され、証拠を残すための記録作成が必要になってきたと考えている人がいる。

この結果、ISOを導入したことにより、本業とは関係ないISOのための活動が必要になったと考えて、ISO認証・維持は手間がかかると思い込んでいるのではないでしょうか。

 

 

2)それに加えて昨今は改正対応に追われている

 

ISO 9001は1987年に制定されてから5回の改正が行われました。

大きな改正は2000年版、2015年版でした。この版への改正に伴う移行作業が生じ、その都度要求事項が追加・変更されたことにより、組織はこの改正への対応に多くの時間を費やしてきています。

このことが組織にとって大変な時間やコストを費やしてきているので、ISO 9001の認証維持が大変だということになっているのではないかと思います。

 

その中でも特に品質マニュアルの作成に時間をかけていることが大きな要因になっています。

2015年版への移行では、各組織とも2000年版への移行と同様に時間や手間をかけています。

その主な要因は品質マニュアルの作り方にあると思います。

 

また、維持においては組織で決めた手順通りにプロセスを運営管理することが大切ですか、標準化の仕組みが構築されていないので、つぎはぎだらけになった標準になっており、これに伴って標準の内容が増大しているため、標準通りに実施することが苦痛になり、手順通りに行わないで審査の前に記録を作成している組織もあります。

これでは本末転倒ではないでしょうか。

 

 

 

その1 組織による誤解

 

(a) ISO 9001の運営管理の目的の誤解

 

ISO 9001の認証・維持に手間がかかっているということを思っているのは、特にISO推進の事務局の人ではないでしょうか。

そもそもこれらの人は、ISO 9001とは何かを分かっているのでしょうか。

ISO 9001を組織内でやらせることが仕事になってはいないでしょうか。

 

このような人はISO 9001を次のように思っている人ではないでしょうか。

 

- 顧客からISO 9001を適用することが要求されているので仕方なく実施している

- ISO 9001の通り各職場で実施させることが自分の役割である

- ISO 9001と実際の仕事はつながりがない

- 文書や記録の維持管理が面倒である

- 認証審査があるのでQMSを維持管理している

 

ところでISO 9001を認証取得する目的を考えてみたことがあるのでしょうか。

 

ISO 9001の運営管理の目的は、一般的には品質マニュアルの目的に記載されているものです。多くの組織では大変立派な目的が記載されています。

 

例えば、

 

- 顧客満足を継続的に改善するためにQMSを効果的で効率的に運営管理する

- 顧客のニーズ・期待に合致した製品を提供することで顧客満足を高めるためのQMSを運営管理する

 

などと記載されています。

この目的通りに行うための活動を実施することは、組織として当然でのこととして品質保証活動の仕事を行うことになります。

ところが、これを無視して単なるISO 9001の維持活動と考えると上記のようにマイナス方向の考え方が出てきます。

 

また、QMSと事業活動は別ものだと思ってISO 9001を運営管理しているのではないでしょうか。

なぜこのような誤解があるかというと品質マネジメントシステムはマネジメントシステムの一部であると考えていないからではないでしょうか。

このため、ISO 9001の運営管理の目的を見失っていることが誤解につながっています。

 

 

(b) 品質マニュアルの誤解

 

組織で作成している品質マニュアルは、ほとんどの組織ではISO 9001の項番通りに並べています。

品質マニュアルとは、組織の品質保証活動に関する概要を述べたものですが、ISO 9001の要求事項に合わせた書き方をしていることが誤解の始まりです。

 

品質マニュアルとは、ISO 9000では次のように定義しています。

 

組織の品質マネジメントシステムについての仕様書

注記1 個々の組織の規模及び複雑さに応じて、品質マニャアルの詳細及び書式は変わり得る

 

特に注記1を理解していないため、次に示すような誤解が生まれています。

 

最も悪い例は、要求事項とほとんど同じ表現で記述している組織があります。

例えば、ISO 9001の「4.4品質マネジメントシステム及びそのプロセス」では、次のように記述していることが多いです。

 

「4.4.1 当社は,この規格の要求事項に従って,必要なプロセス及びそれらの相互作用を含む,品質マネジメントシステムを確立し,実施し,維持し,かつ,継続的に改善する。

当社は,品質マネジメントシステムに必要なプロセス及びそれらの組織全体にわたる適用を決定する。また,次の事項を実施する。

 

a) これらのプロセスに必要なインプット,及びこれらのプロセスから期待されるアウトプットを明確にする。

b) これらのプロセスの順序及び相互作用を明確にする。

c) これらのプロセスの効果的な運用及び管理を確実にするために必要な判断基準及び方法(監視,測定 及び関連するパフォーマンス指標を含む。)を決定し,適用する。

d) これらのプロセスに必要な資源を明確にし,及びそれが利用できることを確実にする。 e) これらのプロセスに関する責任及び権限を割り当てる。

f) 6.1 の要求事項に従って決定したとおりにリスク及び機会に取り組む。

g) これらのプロセスを評価し,これらのプロセスの意図した結果の達成を確実にするために必要な変更 を実施する。

h) これらのプロセス及び品質マネジメントシステムを改善する。

 

4.4.2 当社は,必要な程度まで,次の事項を行う。

 

a) プロセスの運用を支援するための文書化した情報を維持する。

b) プロセスが計画どおりに実施されたと確信するための文書化した情報を保持する。」

 

 

これを見てもわかるように、「組織」を「自社」に、「~しなければならない」を「~する」に変更しているだけです。

このように単なる規格のコピー表現をしているようでは、いつまでたっても無駄な作業をすることになります。

このような記述をすることが、どのような価値があるのでしょうか。

ほとんどないでしょうね。

 

4.4では、組織のプロセス及びQMSの構造についての考え方が要求されているので、上記のような表現をすることは意味がありません。

このことも大きな誤解です。

 

では、なぜこのような事態になるのかを考えると、以前から認証の時に審査員から要求事項の順番に記載しなさいとか、ISO 9001構築に関する書籍が要求事項の項番通りに示されており、それを参照したからではないでしょうか。

これが誤解の始まりだったような気がします。

したがって、ISO 9001=自社のQMSと勘違いしていることがその要因ではないでしょうか。

 

 

(c) 標準及び記録の誤解

 

QMSを運営管理するための基本は標準化ですが、標準の数が多すぎて組織では同じような標準が作られており、また、記録を数多く作成しなければならないので、これらの文書と記録の維持管理が大変であると誤解しています。

しかし、標準を決め、記録を残すと決めたのはあなたの組織です。

決めたとおりに実施するのは当たり前のことです。

 

ISO9001は、QMSを運営管理するための仕組みを組織の実態に合わせて標準化を行う必要があるとしています。

しかし、これを誤解して、すべての要求事項を標準にすることが必須であると考えている、また、審査員が指摘したことをすべて標準に取り込むことが必須と考えているのではないでしょうか。

 

また、記録を作成するルールになっているが、ISO導入前は記録を作成しなくてもよかったのに、今は仕方なく作成することにしているという誤解があります。

このようなことがないように記録を作成する目的を考えることが大切です。

 

これ以外にも、記録はきっちりしたフォーマットでなければ、審査で指摘されると誤解しているので、フォーマット内に多くの情報を記録するようになってしまいます。

また、不適合報告書は要求事項ごとに必要であると誤解して、工程内での製品の不適合、クレームの不適合、内部監査の不適合ごとにフォーマットを作成していることで、様式が増加することになります。

 

 

これらの誤解を解いていくお話しは次号でさせて頂きます。

 

(福丸 典芳)

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