QMSの大誤解はここから始まる 第3回 ISO9001をやれば会社はよくなる(2) (2017-10-23)
2017.10.24
新シリーズ、「QMSの大誤解はここから始まる」は 「前回」、
ISO9001QMSモデルの本質と、ここから来る限界についてお話しをしました。
「前号」だけを読むと、やっぱりISO9001はだめなんだ、と悲観的になってしまいそうですが、そうではないのです。
ISOの本質から来る限界の裏側には、その「効用」もあります。
今回は、その効用を中心にした話になります。
まずはどんな効用があるのかを説明しましょう。
a) 基本動作の徹底
(決めて、実行し、これを検証することを確実に行うことにより、しっかり守らなければいけないことを徹底する)
b) QMSの継続的な見直し
(不適合や不具合を顕在化して、これに対する是正処置を継続することでQMSを継続的に見直せる)
c) 外圧の活用
(外部の人による意見により、強い動機付けが出来る)
d) QMSの国際モデル
(品質保証に自信がつく、やりがいにつながる)
e) 責任権限
(責任権限のあいまいさから生じる不具合や事故の発生や、効率低下を防止する)
f) 文書化
(これまで日本の企業、特に中小企業で課題であった、文書による標準化や、伝承しにくかった作業や技能の伝承が進められる)
小規模・中小企業の経営者に、ISOをやってなにか良くなりましたか、と聞くと、結構多くの方から、“PDCAサイクルを回すことがうまくなりました”という声を聞きます。
その中身を聞きますと、これは今までなかなか進まなかった作業や業務の手順の文書化による標準化ができるようになり、この標準に従って実施して、これを内部監査などでチェックして、守っていなければこれを注意して、確実に実施させること、すなわちSDCAサイクル(平地のPDCAサイクル)が回るような体質になってきたと言うことのようです。
ただし、できた標準をさらに高いレベルの標準にして、坂道を登るPDCAサイクルにはまだなっていないのが残念ではありますが、それでも今までこのことが出来ていなかった会社にとっては天と地の差です。
このことが課題となっている組織にとっては、この効用は見逃せないでしょう。
前記のこの事例は、先に紹介した「ISO9001QMSの効用」の、a)、e)、f)と、b)の一部の効用をうまく活用している例と言えましょう。
こんな事例もあります。
全国に工場を持つあるプラスチック再生会社(F社)の例です。
ご存じの方もいるでしょうが、プラスチック再生工場には、全国からでる廃棄プラスチックが集まります。
汚れたり、異物の詰まったペットボトルもあったりします。
工場の構内は、一見、廃棄物の保管場所のようです。
このような職場環境の中で、F社はたくさんの若い社員が汗まみれになって働いています。
社長は、この若い人たちになんとかやりがいを持たせて仕事をさせたいと思い、そのためにISO9001QMSを導入しようと決意しました。
世界に通用する国際規格を、自分たちの努力で認証を取得して自信を持たせ、そしてこれで管理することで管理者としての管理能力を養成する。
さらに、この取り組みは毎年の審査を、ひとつの成果の発表の場として利用する。
ざっとこんな着想です。
見事、このねらいは当たり、いまF社は活気あふれる職場となって、事業も順調です。
これは、先に紹介した「ISO9001QMSの効用」をみるとどうでしょうか。c)、d)、e)の効用を、うまく活用している好事例と言えましょう。
さて話は変わります。
筆者は、前回冒頭のA社の経営者からの相談(よければ、前回の冒頭の説明を再読してみて下さい)に、どのように回答したでしょうか?答えは次の通りです。
“社長さん、ISO9001を何のために運用するのかを明確にして下さい。”
目的を決めるだけで、素晴らしい効果につながったことは、F社の例で明らかでしょう。
A社経営者との会話は続きます。
“でもそれ(ISO9001の目的)は、もう、おっしゃってましたね。
目的は、会社の経営が継続することですよね。
だから相談にいらっしゃったわけです。
ではライバルに勝って、会社の経営が継続するためには、会社のどんな力(競争優位要因)が維持・向上されなければいけないのですか?
その競争力が維持されるためにやらなければならないことはどんなことですか?
そのことが、貴社の品質マニュアルの中に盛り込まれるようにしましょう。
そうすれば、外部審査でも内部監査でも、そこで出てくる指摘が会社の経営に結びついてくるはずです”
お気づきのように、これはISO9001:2015の箇条4で追加になった要求事項に似ています。
ただし、ISO9001規格では、この目的はそれぞれの組織が決めるようになっていますが、筆者はこのF社の経営者に対しては、これを“事業の継続”と断定しました。
これはこの組織が、それを目的としていることが分かったから言っただけで、最終的には組織が決めるものでしょう。
ただ、言えるのは、目的を決めなければ、ISO9001は無用の長物になってしまう可能性が高いこと、そしてこの目的の決め方で、ISO9001の役に立ち方が左右されるのです。
新規格は、これをかなりおおざっぱに意訳すると、これまで述べてきたようなISOの本質的から来る「限界」を超え、その「効用」を享受できるように、「QMSの目的を明確にしなさい」と言っているとも言えましょう。
すなわち、“QMSの意図した結果を達成する組織の能力に影響を与える課題”を明確にして、こここら生まれるリスクと機会に対して、QMS(又は関連する事業プロセス)の中で対応せよ、と要求しています。
さてここで“QMSの意図した結果”を組織がどのように決めるか、です。
この決め方でQMSのレベルとその役に立ち方が左右されます。
G社は、従業員12名(正社員5名)の小規模な町工場です。
前向きな社長は、小規模ながらもすでに10数年前にISO9001の認証を取得しました。
しかしながら、認証の維持に毎年かかる費用も工数も馬鹿になりません。
スリム化を図って、今やっていることをISOに一致させればいいのだ、とよく言われていますが、それって意味ないですね、変わらないっていうことではないですか。
結局はISOのためにやっていることではないですか。
そんなことを考えた社長は、新規格で言う“QMSの意図した結果”(すなわち,ISO9001の目的)を、真っ正面から「自社の事業の継続」を可能にする「競争力の維持・強化」と据えました。
そうすると、G社の競争力を低下させるのがリスクであり、これを強化するのが機会であり、これを明確にすると自社の外部及び内部の課題が具体的に見えてきました。
また、このリスクを予防し、機会を実現するための取り組みを明確にして、自社の品質マニュアルや品質目標の中に埋め込みました。
こうすることにより、普段の管理にメリハリがつき、内部監査はこのことを重点的に確認し、マネジメントレビューでは、具体的な外部・内部の課題の変化を確認することで、これまでは形骸化していた活動が、俄然、活き活きとしてきました。
G社は、この競争力強化のための取り組みを、品質目標だけでなく3カ年の中期計画を作り、いま着々と競争力を強化しています。
事業も順調です。
さて、2回にわたって「ISO9001をやれば会社はよくなる」という大誤解についての話をしてきました、ISO9001QMSは、ただやるだけでは、会社(の業績)はよくならないのです。
これが誤解でなく、本物になるためには、一言で言うとISO9001QMSの目的を明確にすることです。
ISO9001QMSをうまく利用して、何をやるかを明確にすることが大事です。
そのためにどのようにやるかは、今回の事例をお読みになっても分かるように、組織の持つ課題によって千差万別です。
ぜひ、あなたの会社の「目的」を明確にし、業績向上のための「活用の仕方」を工夫してみて下さい。
(丸山 昇)